短編小説 : セックスをしたあと
セックスをしたあと、君は読めない本になった。「送るよ」。僕はすがるように声をかけたが、歩いて帰ると断られる。駅まで半刻はかかるはず。背後に衣擦れの音がする。それがやけに、聞こえさせるように、聞こえた。
「何か、僕が気に障るようなこと、言った?」
これが言えないことだけわかっている。僕は考える。どんな言葉であれば彼女に届く矢となるのかを。その迷路に出口はなかった。矢は僕の唇を縫うように刺していた。迷宮の答えは沈黙だった。僕たちはおそらくこのまま二度と交わらない。もう一度やり直したいと思った。最後のセックスをだ。それが最後になると知った状態で、それをしたかった。最後になると知った状態でなら、僕は、そして君もだといいが、もっと奔放にそれをやれた。そうすれば、石に刻まれた文字のように、僕は君の、消えないものになれたかもしれない。
さっきのことであるのに肌を交わした感覚が消えた。証拠だけがゴミ箱でしなっている。僕はプライドなど捨てて「もう一回だけやらせて欲しい」と懇願する僕を予測する。君は、いや、詩人は、そんなふうに詩を壊されるのを死よりも忌むという事実が、僕の予測にエラーを返し続けた。
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