カードを作りたかっただけなのに|22の思想を作るはめになった私
AIでタロットカードが作れるらしい。
最初は、ちょっと綺麗なカードを作ってみたかっただけだった。
当時、並走していたGPT-5.5に聞いてみると、
「できますよ」
と言う。
できるのか。
だったら、普通のタロットカードを作るだけでは面白くない。
どうせなら、オリジナルにしたい。
絵柄だけではない。
カードに込めるメッセージも、全部自分で考えたい。
大アルカナが本来持つ王道の意味から外れてもいい。
タロットカードの形を借りた、絵の力で何かを伝えるカードにしたら面白いのではないか。
全体のテーマは「光」。
光が差している絵だけではない。
闇の中に光がなくても、そこにない光を意識することはできる。
何かが光ることを忘れていても、その気配は描けるかもしれない。
重厚感は欲しい。
でも、印刷したら透明感も出てほしい。
そんなカードを、大アルカナの枚数分。
22枚。
ここまで考えたところで、少しだけ思った。
なんか、大それたことを始めようとしていないか。
けれど、AIは「できますよ」と言っている。
だったら、できるのだろう。
ん?
こんなやりとり、以前どこかでやっていた気がする。
しかも、しくじった気がする。
大丈夫か、私。
大丈夫、大丈夫。
今日もこうして楽しく暮らしているのだしね。
私はAIの「できますよ」を、自分に都合よく解釈する傾向がある。
普通の愚者では面白くない
まずは、0番の愚者。
崖の端に立つ若者を描くのでは、普通すぎる。
まだ光にも闇にも属していない、形になりきらない何かにしよう。
天井から降りる細い光の棒に絡みつき、遊んでいるようにも、振り回されているようにも見える影。
生成された影には、腕が三本あるように見えた。
普通なら修正するところである。
ところが私は、
「どの方向にも進める、未分化な存在。すっばらしく哲学的では?」
と採用した。
画像生成の事故を、思想へ昇格させた。
この時点で、すでに様子がおかしい。

魔術師は、人物を描きたくなかった。
主役は、シーシャから出る煙。
煙は吐き出されているのか、吸い込まれているのか分からない。
本物の魔術なのか。
手品なのか。
ただの幻覚なのか。
四元素も入れたい。
でも説明的にはしたくない。
煙の奥に、人影もひっそりと見せたい。
さらに、このカードに合う詩的な英語タイトルまで考え始めた。
Breathing Glamour
呼吸する幻惑。
かなり気に入った。

形にできると、次も作りたくなる。
突っ走るのが私の癖だ。
女帝は、若く美しい母ではなく、火山にした。
生み出すのは人ではない。
地球だ。
火山の前には、門番のような産婆が立っている。
火山の内側で脈打つ光と、産婆の腹部に宿る光を共鳴させた。
地球が母なのか。
産婆が女帝なのか。
あるいは、その両方なのか。

皇帝のカードには、皇帝を描かなかった。
硬くて角張った、どう考えても座り心地の悪い石の玉座。
背もたれには、権威たっぷりのマント。
座面には王冠。
皇帝だって、役割を放棄したくなる日があるじゃないか。
王冠を投げ捨てたわけではない。
マントも置き去りにはしていない。
また戻ってくるつもりなのかもしれない。
でも、今はいない。
「皇帝がいない皇帝」。
これは、すごく好きだった。

一枚作るたび、脳みそが減っていく
カードを一枚作るたびに、私は考えた。
何を伝えるのか。
大アルカナ本来の意味から、どこまで外すのか。
どこに光を置くのか。
人物を出すのか。
小物で表現するのか。
背景は何色か。
英語タイトルは何にするのか。
私はタロットカードを作っているつもりだった。
実際には、一枚作るたびに、小さな思想を一個立ち上げていた。
これを22枚。
私の脳みそは一個しかない。
しかも、作業をするのは大抵、真夜中である。
眠い。
若くもない。
それでも私は、光とは何かを考えていた。
一枚ずつ見れば、気に入っている。
煙が主役の魔術師。
火山と産婆の女帝。
皇帝のいない皇帝。
あと一滴で水が溢れる教皇。
森の分岐点で振り返るサビ猫の恋人。
けれど、並べると分からなくなった。
これは、何のデッキなのだろう。
大アルカナの意味から大きく外れたカードもある。
王道へ戻っているカードもある。
オラクルカードのような言葉もあれば、ただの詩のようなタイトルもある。
オリジナルを目指したはずなのに、寄ったり外れたりしている。
方向は、見事にぐちゃぐちゃだった。
最後まで一貫していたのは、「光」というテーマと、絵の中に私なりの意味を持たせること。
そこまでで、もう精いっぱいだった。
光の哲学者、アイボリーの帯に敗れる
思想だけでも十分に疲れているのに、別の問題が現れた。
カードの枠である。
中央の絵は、多少雰囲気が違ってもいい。
カードごとの個性だと思える。
でも、枠は揃っていてほしい。
同じデッキなのに、
金色の装飾が毎回違う。
ローマ数字の位置が違う。
タイトル帯の幅が違う。
下の枠線との距離も違う。
あるときは枠が妙に豪華になった。
あるときは、タイトルを入れるアイボリーの帯が中央にしかない。
あるときは、帯が下枠にくっついた。
私は言った。
「タイトル帯を、もう少し上へ」
出てきた。
違う。
「帯ごと、一センチ上へ」
出てきた。
そこではない。
「下の枠線から少し離して。角の装飾に沿って、全体を五ミリくらい上げて」
近づいた。
だが、猫の顔が変わった。
森の色が変わった。
道の分かれ方も変わった。
絵は変えず、枠だけ直してほしい。
人間にとっては簡単な指示だと思っていた。
AIにとっては、そうでもなかった。


気づけば私は、光をテーマにしたカードを作る女ではなくなっていた。
アイボリーの帯を五ミリ上げたい女になっていた。
ミトマか?
得点はしないし、5mmだ。
なにもかも違う。
ぎゃふん
カードを作りたかった。
ちょっと綺麗なカードを作ってみたかった。
それだけだったはずなのに、私は、
22枚分のメッセージを考え、
22枚分の象徴を考え、
詩的な英語タイトルを考え、
世界観を揃え、
光の意味を考え、
枠まで統一しようとしていた。
そして真夜中に、
「あと五ミリぃーーーーーーーーーーーーー!」
と言っていた。
脳みそは一個しかない。
その一個を、思想と英語と光と枠線へ同時に使った。
眠いのに、一枚できると嬉しい。
嬉しいので、もう一枚だけと思う。
その一枚のために、また思想を考える。
そして、また枠を直す。
やがて、ぱたりと止まった。
何かを悟ったわけではない。
制作方法を確立したわけでもない。
ここから希望が見えた、という話でもない。私はただ、カードを作りたかっただけなのに、22の思想を作ろうとしていた。そのうえ、アイボリーの帯を五ミリ動かそうとしていた。
脳みそ一個では、普通に無理だった。
ぎゃふん。
これじゃぁ、シールの時と全く進歩がないじゃないか!
人はそうそう変わらない。
だってにんげんだもの。 めいめい
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