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勉強しても成長しないのは、読む量が足りないからではなかった──『インプット大全』を研究して分かったこと

本を一章読み終えた。

大事なところには線を引いた。付箋も貼った。内容も、そのときは理解できた気がする。

ところが本を閉じて、「何が書いてあった?」と聞かれると、うまく言葉が出てこない。

そんなとき、次に選びやすいのは、新しい本を読むことです。

まだ量が足りない。もっと読めば、いつか知識がつながるはずだ。

私も、勉強の成果は読んだ冊数に比例するものだと思っていました。

けれど『インプット大全』と学習研究を照らしてみると、読む量は学習の材料にはなっても、それだけで内容が残るとは限らないことが見えてきました。

読んだ直後の「分かった」と、数日後に「思い出せる」の間には、思ったより距離があります。

次の本を開く前に、いまの一冊は残っているだろうか

最近読んだ本を一冊、思い浮かべてみてください。

タイトルや表紙ではなく、その本から得たことを一文で説明できるでしょうか。

すぐに出てこなくても、読書が無駄だったわけではありません。人は、目の前の文章が読みやすくなると、それを「覚えた」と感じやすいからです。

同じページを読み直せば、言葉は見慣れてきます。線を引いた箇所も、前より早く読めます。

ただ、その滑らかさは、文章を見ずに内容を取り出せることとは別です。

読書記録の冊数は増えているのに、内容だけが静かに退室していることがあります。

これは、意欲が足りないからというより、学習の進み具合を測る物差しが「読んだ量」だけになっていると起こりやすいずれです。

『インプット大全』は、情報を増やす前に目的を問う

樺沢紫苑さんの『学び効率が最大化する インプット大全』は、情報過多の時代に、限られた時間で何をどう学ぶかを扱った本です。

読書だけでなく、勉強、記憶、会話、情報収集などを横断し、80のインプット術を紹介しています。出版社の紹介では、インプットの前に「何のためにするのか」を考えることも示されています。

ここで大切なのは、インプットを減らすことではありません。

情報を受け取る量だけでなく、目的を持って選び、記憶や利用につながる形で扱うことです。

ただし、本書は幅広い実践法を集めた一般向けの書籍です。出版社が「脳科学に裏付けられた」と紹介していても、80の方法すべてが同じ強さの研究で確かめられているとは限りません。

そこで今回は、本や教材を読んだ直後の判断に絞り、再読と「思い出す練習」の研究を確認しました。

5分後なら再読、数日後なら想起が有利だった

RoedigerとKarpickeは2006年、大学生に文章を学んでもらい、繰り返し読む条件と、本文を見ずに内容を思い出す条件を比較しました。

結果は、確認する時期によって変わりました。

5分後のテストでは、繰り返し読んだほうがよく思い出せました。ところが2日後と1週間後には、事前に思い出す練習をしたほうが、内容を長く保持していました。

しかも、繰り返し読んだ参加者は、後でも覚えていられるという自信を高く持っていました。

つまり、再読は直後の出来と安心感を高めても、その感覚が長期の記憶を正確に表すとは限りません。

2008年にKarpickeとRoedigerが外国語の単語対を使った研究でも、いったん正答した項目をさらに読むだけでは、1週間後の再生は改善しませんでした。一方、正答後も繰り返し思い出した条件では、保持が改善しました。

読むことは、情報を入れる行動です。

思い出すことは、その情報を自分の中から取り出せるか確かめる行動です。

長く残したいときは、この「取り出す機会」が重要になるようです。

一度に重ねるより、間隔を空ける

もう一つ関係するのが、学習の間隔です。

Cepedaらは2006年、分散学習に関する184論文、317実験、839の評価をまとめました。その結果、同じ学習を続けて行うより、間隔を空けることが保持に関係していました。

ただし、「何日空ければ必ずよい」という一つの正解が示されたわけではありません。

覚えておきたい期間が長いほど、効果的な学習間隔も長くなる傾向がありました。目的とする保持期間によって、間隔の取り方は変わります。

この結果からも、今日100ページを追加することと、今日読んだ内容へ別の日に戻ることは、同じ「読む」でも働きが違うと考えられます。

では、読む量は増やさなくてよいのか

ここまで読むと、「もう再読も多読もしないほうがよいのか」と思うかもしれません。

研究は、そこまで単純な結論を示していません。

RawsonとKintschの研究では、文章を一度だけ読む条件、直後に再読する条件、1週間後に再読する条件を比較しました。遅れて行うテストでは、1週間空けた再読が一度読みより有利でした。

同じ再読でも、直後に重ねるのか、時間を空けるのかで結果が変わります。

また、Nakanishiが第二言語の多読研究34件、計3,942人をまとめたメタ分析では、多読指導を受けた学習者の読解力にプラスの効果が確認されました。

語彙や読解の流暢さを育てるように、適切な難易度の文章へ多く触れること自体が学習目的になる場面もあります。

つまり、読む量が問題なのではありません。

何を身につけたいのか、どれくらい長く残したいのか、読んだ後に何をするのか。それらを区別せず、冊数だけを成長の証拠にすると判断がずれやすくなります。

読む量が成長につながりやすい条件

今回の研究から、読む量が役立ちやすい条件を整理すると、次のようになります。

  • 何を得るために読むのかが決まっている

  • 内容が難しすぎず、基礎知識とつながる

  • 読んだ後に、見ずに思い出す機会がある

  • 誤解を残さないよう、本文や信頼できる説明と照合する

  • 一度に詰め込まず、時間を空けて戻る

反対に、初めて触れる内容で基礎知識がないときは、まず説明を読む必要があります。想起だけでは、まだ持っていない知識を作れません。

また、小説を楽しむ読書まで、記憶テストに変える必要もありません。試験、仕事、語学、趣味では、読書の目的が違います。

学習上の大きな困難が続く場合も、読書法や本人の努力だけを原因にせず、教員や学習支援担当者などへ相談する選択があります。

HAROの暫定評価

『インプット大全』が示す、量だけでなく目的や処理の仕方を重視する方向性は、条件付きで支持できます。

長く覚えて使いたい内容では、繰り返し読むだけより、内容を思い出す練習や、間隔を空けた確認を組み合わせるほうが有利になりやすいからです。

一方で、「読む量は成長に関係しない」とは言えません。

外国語の多読のように接触量が学習目的に含まれる場合や、間隔を空けた再読では、読む量が役立つことがあります。また、今回の研究が主に測ったのは記憶保持であり、理解、技能、創造、行動変化まで同じ方法で説明することはできません。

現時点で妥当なのは、読了冊数を減らすことではなく、次へ進む前に「今の内容を取り出せるか」という別の物差しを加えることです。

今日、これだけやってみる

いま読んでいる本や教材を閉じ、本文を見ずに次の一文を埋めてください。

この章で一番残っていることは__。

書いたら該当箇所を開き、内容が合っているかだけ確認します。一文にできなくても、能力不足の判定には使わず、まだ定着していない場所を見つけたと考えてください。

読む量を増やす前に、一度だけ取り出してみる。その一文が、読了を学びへ変える小さな区切りになります。


次に読みたい方へ

本を閉じて一文を思い出せたら、次はその知識を自分の言葉にし、実際に使うところまで進めてみませんか。

「読めば分かる」「何も見ずに思い出せる」「現実の場面で使える」の違いを整理しています。

学んでも行動が変わらないのは、理解力が低いからではなかった──『アウトプット大全』を研究して分かったこと


参考資料

  • 樺沢紫苑『学び効率が最大化する インプット大全』2019年(サンクチュアリ出版

  • Henry L. Roediger III, Jeffrey D. Karpicke, “Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention,” 2006(DOI

  • Jeffrey D. Karpicke, Henry L. Roediger III, “The Critical Importance of Retrieval for Learning,” 2008(DOI

  • Nicholas J. Cepeda et al., “Distributed Practice in Verbal Recall Tasks,” 2006(DOI

  • Katherine A. Rawson, Walter Kintsch, “Rereading Effects Depend on Time of Test,” 2005(DOI

  • Takayuki Nakanishi, “A Meta-Analysis of Extensive Reading Research,” 2015(DOI

  • John Dunlosky et al., “Improving Students’ Learning With Effective Learning Techniques,” 2013(Association for Psychological Science

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