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身体が硬い人は、本当にケガをしやすい?研究から見えてきた「柔軟性とケガ」の意外な関係


「身体が硬いとケガをするよ」

スポーツをしていると、一度は言われたことがあるのではないでしょうか。

でも実は、現在の研究を調べてみると、

「身体が硬い = ケガをしやすい」

と単純に言い切れるほど、話は簡単ではありません。

むしろ重要なのは、

「どこが硬いのか?」

「どんなスポーツをするのか?」

「その人にとって、どのくらいの可動域が必要なのか?」

という視点です。

前回の記事では、

「ストレッチ=身体にいい、は本当なのか?」

について研究をもとに解説しました。

今回はそこから一歩踏み込み、

「柔軟性が低いと、本当にケガが増えるのか?」

について考えてみます。



そもそも「身体が硬い」って何?

まず、ここを整理しておきたいと思います。

私たちは日常的に、

「身体が硬い」

という言葉を使います。

でも実際には、かなり曖昧な表現です。

例えば、

前屈で床に手が届かない。

開脚ができない。

足首が曲がらない。

肩が上がりにくい。

これらはすべて「身体が硬い」と表現できますが、同じ状態ではありません。

関節によって必要な可動域も違います。

さらに柔軟性には、

筋肉や腱などの組織の特性

関節そのものの構造

神経系

痛みや伸張感覚

など、さまざまな要素が関係します。

つまり、

「前屈できないからケガをしやすい」

といった単純な判断はできません。



① 身体が硬いと、本当にケガが増える?

結論から言うと、

「特定の柔軟性低下が、特定のケガのリスクと関連することはある」

一方で、

「身体が硬い人は全員ケガをしやすい」

とは言えません。

この違いが非常に重要です。

例えば、2003年にWitvrouwらは、男性プロサッカー選手146名の柔軟性をシーズン開始前に測定し、その後1シーズンにわたってケガを追跡しました。

その結果、シーズン中にハムストリングや大腿四頭筋を負傷した選手では、負傷しなかった選手よりも事前に測定した該当筋群の柔軟性が低かったことが報告されています[1]。

「じゃあ、やっぱり身体が硬いとケガをするじゃないか」

と思いますよね。

しかし、ここで注意が必要です。

これは、

「柔軟性が低かった人に傷害が多かった」

という関連を示した研究です。

「柔軟性が低いことがケガの原因だった」

と証明したわけではありません。

しかも対象は男性プロサッカー選手です。

この結果を、

一般の人

女性

子ども

野球選手

バスケットボール選手

ランナー

などに、そのまま当てはめることはできません。

研究を読むときには、

「誰を対象にした研究なのか?」

を見ることがとても大切です。



② 「柔らかければ柔らかいほど良い」も違う

ここが今回、個人的にぜひ知ってほしいポイントです。

「硬いことが問題なら、とにかく柔らかくすればいい」

とは限りません。

全身的に関節可動性が大きい状態を「generalized joint hypermobility(全身性関節過可動性)」と呼びます。

2010年にPaceyらが行ったシステマティックレビュー・メタ解析では、スポーツを行う人の全身性関節過可動性と下肢関節傷害との関係が検討されています[2]。

興味深いことに、

膝関節傷害については、過可動性を有する人でリスク上昇が認められました。

一方、

足関節傷害については明確なリスク上昇は認められませんでした。

つまり、

「柔らかい=安全」

でもありません。

そして、

「柔らかい=危険」

でもありません。

部位や競技、求められる動作によって意味が変わるのです。



③ 大事なのは「柔らかいか硬いか」ではなく「必要な可動域があるか」

私はここが一番重要だと思っています。

スポーツによって身体に求められる動きは全く違います。

例えば、

体操選手

バレエダンサー

野球選手

サッカー選手

長距離ランナー

では、必要とされる可動域は同じではありません。

日常生活でも同じです。

180°開脚できなければ健康ではない。

前屈で手のひらが床につかなければいけない。

というわけではありません。

大切なのは、

「その人が行いたい動作に必要な可動域を持っているか」

です。

例えば、ある動作で本来足関節に必要な動きが不足していれば、身体は別の部位を使って動作を成立させる可能性があります。

しかし、それだけを見て、

「足首が硬いから、この人はケガをする」

と未来の傷害を予測することもできません。

スポーツ傷害は、一つの検査値だけで決まるほど単純ではないからです。



④ 「身体が硬い→ストレッチ→ケガ予防」という式は成立する?

では、

「身体が硬い」



「ストレッチする」



「ケガが減る」

という考え方はどうでしょうか。

ここには注意が必要です。

Lauersenらは、スポーツ傷害予防を目的としたランダム化比較試験25研究、26,610人を統合して解析しました[3]。

その結果、

ストレッチ単独による明確な傷害予防効果は認められませんでした。

一方で、

筋力トレーニング

固有感覚トレーニング

複数の方法を組み合わせた介入

では、傷害リスクを低下させる効果が示されました。

特に筋力トレーニングについては大きな予防効果が報告されています。

これは非常に面白い結果です。

「ケガをしないために何をする?」

と聞かれると、

多くの人は最初に、

「ストレッチ」

を思い浮かべるかもしれません。

しかし研究全体を見ると、

傷害予防はもっと複合的に考えた方がよさそうです。



⑤ じゃあ、ストレッチはケガ予防に意味がない?

ここで、

「じゃあストレッチなんてしなくていいんだ」

と結論づけるのも早すぎます。

前回の記事で紹介したように、

ストレッチには関節可動域を改善する効果があります。

そのため、

「競技や動作に必要な可動域が不足している」

のであれば、可動域を改善する一つの手段としてストレッチを使うことには合理性があります。

ただし、

「ストレッチそのものに万能な傷害予防効果がある」

とは別の話です。

ここを分けて考える必要があります。

実際、2024年にAfonsoらが健康なアスリートを対象としたストレッチ研究を整理したところ、300試験・7,080人という膨大な研究が見つかりました[4]。

しかし、

傷害そのものをアウトカムとして調べていた研究は、わずか5試験でした。

研究数だけを見ると、

「ストレッチについてはもう何でも分かっている」

ように感じます。

実際には、

「ストレッチによって長期的にケガが減るのか?」

という重要な疑問については、意外なほどデータが少ないのです。

だから、

「ストレッチはケガ予防になる」

とも、

「ストレッチはケガ予防に全く意味がない」

とも、強く言い切らない方が適切だと考えます。



⑥ ケガを減らしたいなら、何をすればいい?

では実際に、

「スポーツでケガを減らしたい」

と思ったとき、何を考えればいいのでしょうか。

研究から見えてくるのは、

一つの要素だけに頼らないことです。

柔軟性。

筋力。

バランス。

動作。

トレーニング量。

疲労。

過去の傷害歴。

競技特性。

さまざまな要素が傷害発生に関係します。

だからこそ、

「身体が硬いからストレッチだけしておけば大丈夫」

では不十分です。

実際、サッカーで有名な「FIFA 11+」というウォームアッププログラムがあります。

これはストレッチだけを行うプログラムではありません。

ランニング

筋力

バランス

神経筋コントロール

ジャンプ

方向転換

などを組み合わせています。

ランダム化比較試験を対象としたシステマティックレビュー・メタ解析では、FIFA 11+を含む傷害予防プログラムによってサッカーの傷害発生が減少することが報告されています[5]。

つまり、

「ケガをしない身体を作る」

という目的なら、

柔軟性だけではなく、

「動ける身体を総合的に作る」

という考え方が重要になってきます。



⑦ さらに大事なこと。「リスク因子=未来を予測できる」ではない

ここは少し難しいですが、ぜひ覚えておいてほしい内容です。

例えば、

「柔軟性が低い人に、ある傷害が多かった」

という研究があったとします。

すると、

「この柔軟性テストをすれば、ケガをする人を見つけられる!」

と思ってしまいます。

しかし、そう単純ではありません。

スポーツ医学研究者のBahrは2016年のcritical reviewで、

単一のスクリーニングテストを使って「誰が将来ケガをするのか」を正確に予測することには大きな問題があると指摘しています[6]。

これは非常に重要です。

「傷害と関連する因子があること」

と、

「その因子を測れば、個人の傷害を予測できること」

は別問題だからです。

身体は、

「○cm以下なら危険」

「○°以下ならケガをする」

というほど単純ではありません。



では、結局どう考えればいい?

今回の話をまとめます。

「身体が硬い=ケガをする」

ではありません。

しかし、

「柔軟性なんてケガと全く関係ない」

というわけでもありません。

より正確に表現するなら、

「特定の競技・部位では、特定の可動域や柔軟性の不足が傷害リスクと関連する可能性がある。しかし、柔軟性だけで傷害発生を説明したり予測したりすることはできない」

というところでしょう。

そして、

柔らかければ柔らかいほど良いわけでもありません。

大切なのは、

「自分が行う動作やスポーツに必要な可動域を持っているか」

です。



今日から覚えておきたい4つ

① 「身体が硬い=ケガをする」とは言い切れない

② 部位・競技によっては、柔軟性低下と傷害リスクが関連することがある

③ 柔らかければ柔らかいほど安全、でもない

④ ケガ予防を考えるなら、ストレッチだけでなく筋力・バランス・神経筋機能・トレーニング負荷などを含めて考える

だから、

「ケガをしたくないから、とりあえずストレッチ」

ではなく、

「自分には何が必要なんだろう?」

と考えることが大切です。



最後に

私は普段、理学療法士としてスポーツ整形外科領域で働いています。

大学院では健康科学を専攻し、スポーツリハビリテーションや身体運動について研究してきました。

臨床でも、

「身体が硬いから痛いんですよね?」

「もっと柔らかくした方がいいですよね?」

という疑問に触れることがあります。

でも研究を読めば読むほど、

身体はそんなに単純ではないと感じます。

だからこのnoteでは、

「専門家が言っているから正しい」

「論文に書いてあるから正しい」

ではなく、

「研究では実際に何が分かっていて、何がまだ分かっていないのか」

まで含めてお伝えしていきたいと思います。

健康、美容、スポーツに関する、

「これって本当?」

をこれからも一つずつ調べていきます。

今回の記事が面白かったら、スキ・フォローしていただけるとうれしいです。

そして、

「これについて研究を調べてほしい!」

というテーマがあれば、ぜひコメントしてください。

次回も、身体についての「当たり前」を研究から検証してみます。



参考文献

1. Witvrouw E, Danneels L, Asselman P, D’Have T, Cambier D. Muscle flexibility as a risk factor for developing muscle injuries in male professional soccer players. A prospective study. Am J Sports Med. 2003;31(1):41-46. doi:10.1177/03635465030310011801.
2. Pacey V, Nicholson LL, Adams RD, Munn J, Munns CF. Generalized joint hypermobility and risk of lower limb joint injury during sport: a systematic review with meta-analysis. Am J Sports Med. 2010;38(7):1487-1497. doi:10.1177/0363546510364838.
3. Lauersen JB, Bertelsen DM, Andersen LB. The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. Br J Sports Med. 2014;48(11):871-877. doi:10.1136/bjsports-2013-092538.
4. Afonso J, et al. What We Do Not Know About Stretching in Healthy Athletes: A Scoping Review with Evidence Gap Map from 300 Trials. Sports Med. 2024;54(6):1517-1551. doi:10.1007/s40279-024-02002-7.
5. Al Attar WSA, Soomro N, Pappas E, Sinclair PJ, Sanders RH. How Effective are F-MARC Injury Prevention Programs for Soccer Players? A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2016;46(2):205-217. doi:10.1007/s40279-015-0404-x.
6. Bahr R. Why screening tests to predict injury do not work—and probably never will…: a critical review. Br J Sports Med. 2016;50(13):776-780. doi:10.1136/bjsports-2016-096256.

※本記事は健康・スポーツに関する一般的な情報提供を目的としたものです。個人の状態について診断・治療を行うものではありません。

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