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【シャドーワーク】僕はずっと、職場の”地雷処理班”だった――気づいた人だけが損をする構造から脱出する方法

【この記事の概要】
① 困りごと: 前提の抜けや危ない条件が見えてしまう。説明しても「そこまで考えなくていい」で流される。結局、自分が黙って回収する。そのうち「気づいたらあの人がやる役」に固定される。
② 困りごとの本質: 職場は、起きた事故は数える。でも、起きる前に潰した事故は数えない。だから予防の仕事は見えないまま、同じ人に偏りやすい。
③ この先で渡すもの: 前半では、そのしんどさに名前をつける。後半では、見えた穴を自分の中だけで終わらせないための足場を渡す。

昔、とある会社向けの業務システムを開発するチームにいたことがある。

ある日、他のメンバーが書いたソースコードを見ていた僕は、妙な引っかかりに気づいた。普段の操作ではまず起きない。でも、月末の締め処理の直前で、外部から来るデータに欠けがあると、静かに落ちそうな箇所だった。

こういうものは厄介だ。

派手に壊れるわけではない。
今この場でも再現しにくい。
でも、条件が重なれば十分に起きうる。

僕は頭の中で条件を並べた。
どの入力がこう流れて、ここで分かれて、その先で止まるのか。筋は通っていた。だから会議で説明した。

でも、説明している途中で、相手の目が少しずつ遠くなる。

こっちは「この条件が重なると危ない」と言っているのに、返ってくるのは「そのケース、そんなにあります?」とか「今そこまで見なくていいんじゃないですか」だった。

ああ、またこの感じか、と思った。

僕は昔から、こういうことが多かった。
曖昧な違和感を、曖昧なまま置いておけない。
条件が一つ抜けていると、その先で何が起きるかまで想像してしまう。
そして、それを説明しようとして場の空気を冷やす。

言わなきゃいいのに、言う。
言っても通じない。
通じないなら放っておけばいいのに、放っておけない。

会議のあと、一人で席に戻って、すっかりぬるくなったコーヒーを片手に、僕はその箇所を直していた。

しばらくして、恐れていた条件は実際に起きた。

でも何も起きなかった。
そりゃそうだ。僕が直しておいたからだ。

画面は普通に動く。
データもそのまま通る。
誰も何事もなかったように仕事を続ける。

そのとき僕の中に残ったのは、達成感より妙な空虚さだった。

世界は無事だった。
でも、その無事がどこで拾われ、誰の手で支えられたのかは、まるごと消えていた。


壊れなかった未来は、職場の帳簿に載らない

多くの職場では、壊れたものは数えられる。

障害。
クレーム。
遅延。
ミス。

目に見える被害は会議の議題になるし、報告書にも載る。

でも、壊れる前に潰したものは数えられにくい。

事故になる前に塞いだ穴。
衝突になる前に埋めた認識のズレ。
混乱する前に整えた手順。

こういうものは、うまくいくほど「何も起きなかったこと」になる。

いま思えば、僕がやっていたのは修理というより地雷処理に近かった。

誰も気づいていない危険を先に見つけて、爆発する前に潰す。
成功すれば何も起きない。
そして地雷と一緒に、仕事をした証拠も消える。

ここで起きているのは、能力の問題だけではない。

職場の側に、「起きなかった事故」を拾う箱がないのだ。

箱がなければ、見えた危険は個人の勘として処理される。
個人の勘として処理されるものは、評価にも共有にも乗らない。
すると、気づいた人だけが、何度でも同じ役をやることになる。

「気づいた人がやる役」は、こうして固定される

ASD傾向のある人は、暗黙の前提の抜けや、手順の穴や、言葉の曖昧さに引っかかりやすい。

みんなが「まあ大丈夫だろう」で流せるところで、僕らは止まる。

「この言い方だと人によって受け取り方が分かれそうだ」
「この手順だと例外が来たときに詰まりそうだ」
「この依頼は条件が足りない」

そんな、まだ形になっていない危うさが、妙にはっきり見えてしまう。

しかも、見えたものを共有するまでにも消耗がある。

違和感は最初、言葉になっていない。
自分の中で整理し、相手が追える順番に並べ替え、細かすぎる人だと思われないよう言い方まで整える必要がある。

そのうえで通じないことがある。

すると僕らはこうなりやすい。

説明しても通らないなら、自分で潰した方が早い。

この流れが何度か続くと、周囲はそれを「役割」として扱い始める。
辞令はない。
合意もない。
なのに「あの人が見てくれる」という便利な期待だけが残る。

これが、いわゆるシャドーワークだ。

担当表には書かれていない。
でも、やらないと事故になる。
だから気づいた人が黙って回収する。

しんどいのは仕事量だけじゃない。

見つけた穴を毎回ひとりで塞ぎ、その痕跡も残らず、なのに次も自分が呼ばれる。その流れごと背負わされることがきついのだと思う。

先に、この誤解だけはほどきたい

ここで、先に一つだけはっきりさせておきたい。

あなたが細かすぎるから、こうなるわけじゃない。
要領が悪いからでもない。

職場が「起きなかった事故」を拾えないまま回っているから、見えた危険が個人の神経にぶら下がっているだけだ。

だから、責める場所は「見えすぎる自分」ではない。

見えたものが、共有の確認に変わらない構造のほうだ。

無料部分で置いておきたい救いは一つだけある。

それは、先回りして潰したことを、心の中でだけ「また余計なことをした」と処理しないことだ。

次に何かを未然に防いだら、せめて心の中で一度だけこう言ってほしい。

「これは気にしすぎではなく、予防だった」

この言い換えだけでも、自分の感覚を敵にしにくくなる。


ここまで読んで、

「自分はここまで大げさじゃない気がする」
「ただのおせっかいかもしれない」
「たまたま今の職場が変なだけでは」

そう思う人もいるはずだ。

その迷いは自然だと思う。

このしんどさは、毎回同じ顔で出ない。
会議だけで強く出る人もいる。
レビューや引き継ぎだけで消耗する人もいる。
人間関係の摩擦より、仕様の曖昧さで削られる人もいる。

だから「完全に当てはまるかどうか」で読まなくていい。

大事なのは、あなたの中で「見えたのに、結局また自分が黙って処理した」が繰り返されているかどうかだ。

その現象があるなら、この先の足場はたぶん役に立つ。

まだ自分のことだと言い切れない人へ

Q. 今の職場だけの問題で、僕の特性とは関係ない気もします。
A. その可能性はある。むしろ両方が重なっていることが多い。大事なのは犯人探しではなく、見えた危険がいつも個人処理に落ちていないかを見ることだ。

Q. 気づかない人を責めたいわけじゃありません。それでも読んでいいですか。
A. いい。この記事は誰かを悪者にするためではなく、黙った固定役から降りるために書いている。

Q. 転職しないと無理ですか。
A. 場合による。ただ、環境を変える前にもできることはある。まずは、自分の中で消えていた予防の仕事に痕跡を残すことだ。


ここから先は、地雷原に旗を立てる話

この先でやるのは、職場を完璧に変える話ではない。

気づいたのに、また自分だけが持ち帰ったで夜が終わらないようにする話だ。

長い理屈より、疲れた日でも使える足場を優先してまとめた。黙って抱える役から少しずつ降りるために読んでほしい。

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