あなたの"当たり前"が、誰かの壁になっていた。
わたしたちHERALBONY ACADEMYのチームは、とてもインクルーシブだ。
私は、その空気がたまらなく好きだ。
「ちがい」があることを、特別扱いしすぎない。
でも、「ちがい」をなかったことにもしない。
その人のままでいられることを大事にしながら、一緒に何かをつくっていく。
そんな時間は、私にとって自然で、楽しくて、豊かだ。
でも、その楽しさの中で、何度も立ち止まる瞬間があった。
私が「当たり前」だと思ってきたことが、
誰かにとっては、まったく当たり前じゃなかったと知ったからだ。
ある日、メンバーの石井さんとオフィスで会議があった。
石井さんは、36歳で視力を失ってから、10年間「見える世界」と「見えない世界」をつなぐ活動をしているブラインド・コミュニケーターだ。
明るくて、表現力豊かで、いつも場に楽しさを連れてきてくれる。
その石井さんが、オフィスに着くなり、さらりと言った。
「さっき、危うく車に轢かれそうになって。」
一瞬、言葉を失った。
赤信号で、渡ってしまいそうになったのだという。
音の鳴らない交差点では、車の通る音や、周囲の人の気配、足音で渡るタイミングを測るしかない。
その日はたまたま車の音がしなくて、渡りかけたのだと。
石井さんは笑いながら話してくれた。
でも私は、笑えなかった。
もし、あのとき本当に何かが起きていたら。
もし明日から、石井さんと会えなくなっていたら。
そんなことを想像してしまって、胸がざわついた。
時を同じくして、こんなこともあった。
HERALBONY ACADEMYを一緒に立ち上げてきた、ふみさんのことだ。
私にとって、初めてのろう者の友人であり、バディであり、戦友のような存在。
ある朝、私が乗っていた電車が大幅に遅延した。
私はSlackでチームに連絡した。
「電車が止まってしまった! 1時間半後に運転再開予定!」
すると、ふみさんから返信が来た。
「え、私も同じ電車に乗ってます。遅延してたんですね、全然知らなかった」
車内アナウンスが、ふみさんには届いていなかった。
そのとき、はっとした。
電車が遅れたら、アナウンスが流れる。
困ったら、それを聞けばいい。
私はそれを、何の疑いもなく「当たり前」だと思っていた。
でも、その当たり前は、すべての人の当たり前じゃなかった。
悔しかった。
理不尽で不公平な社会への憤りと、
「大変だったね」と言うだけで何も変えられない自分への悔しさが、
じわじわとあふれてきた。
社会には、こんなにもたくさんの壁がある。
それなのに私は、その壁に気づきすらしていなかった。
こんなに二人と一緒の時間を過ごしているのに。
それでも、自分の中にある「マジョリティの無意識の特権」が邪魔をする。
しかも、その壁は悪意でつくられているわけじゃない。
目が見えること、音が聞こえること、自分の足で歩けること。
そうした状態を、無意識のうちに「当たり前」だと思い込むことで、
私たちは知らないうちに、誰かを排除してしまう。
石井さんも、ふみさんも、笑いながら話してくれた。
そうやって笑うしかなかった場面が、これまでにいくつもあったのかもしれない。
怒ることも、悲しむことも、いちいち言葉にすることもできずに、ただ飲み込んできたものがあったのかもしれない。
そう思うたびに、
「まず、気づく人を増やさなければいけない」
と強く思うようになった。
ちがいを面白がれる方の世界は、誰かが抱えてきた痛みや不便から目をそらさないことから始まるのだと思った。
そんな思いから、HERALBONY ACADEMYは生まれた。
「ちがい」を学ぶためではなく、「ちがい」に気づくために。
誰かを正しく理解した気になるためではなく、
自分の「当たり前」を疑えるようになるために。
わからないから遠ざけるのではなく、わからないからこそ近づいてみる。
自分と違うから線を引くのではなく、違うからこそ世界が広がる。
そんなふうに、
「ちがいを面白がれる人」 が一人ずつ増えていったら、
社会はもっとやさしく、もっと豊かになるはずだ。
これまで私たちは、企業の中で、たくさんの人たちとこのテーマに向き合ってきた。
受講後に
「ふみさんと話したくて、手話を習い始めた」
と言ってくださる方がいた。
「自分の組織のあり方を見直したい」
と話してくださる方もいた。
一人の中に起きた変化が、
チームに広がり、
組織に広がり、
社会ににじんでいく。
私はその瞬間を、何度も見てきた。
そして最近、増えてきた声がある。
会社の研修を超えて、一人の人間として、このテーマと向き合いたい。
その声に背中を押されて、今回HERALBONY ACADEMYは、
会社や業界の枠を越えて学び合うスクール型の公開講座をひらくことにした。
肩書きも、業界も、年齢も関係なく、
違う場所で生きている人たちが、同じ場で問いを囲む。
自分ひとりでは見えなかったものが見えてくる。
自分の中にあった「当たり前」が、少しずつほどけていく。
「知る」で終わらず、「感じる」へ。
「感じた」で終わらず、明日どう動くかまでを考える。
そんな時間を、もっとひらいていきたい。
ちがいを面白いと思えたとき、世界の見え方は変わる。
80億人が、ちがいを面白がれるほうの世界へ。
その一歩を、ここから少しずつ増やしていきたい。
HERALBONY ACADEMYという場を通じて。
公開講座の詳細は、こちら
4/27のオンライン説明会は、こちら
これまでの実践や参加者の声は、HERALBONY ACADEMYのnoteマガジンにまとめています。
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【文】HERALBONY ACADEMY統括ディレクター 神 紀子
【撮影】橋本美花
