台湾映画史最高峰『霧のごとく』


まだ行った事のない台湾。もし行く機会があったらきっと『霧のごとく』を思い出すと思う。
あるシーンで滂沱の涙が流れた。
1950年代、戒厳令下の台湾。
白色テロによって台北で処刑された兄の遺体を引き取るため幼い少女は一人、旅立つ。誘拐されたところを人力車の車夫に助けられ共に兄の元へと向かう。車夫になった男もまた国民党軍の元軍人として台湾に渡り故郷に帰れずにいた。
騙され、殴られ、命の危険に晒されながらも二人は一途に旅を続けた。
何度も、未来へ「出発」した。
男の心根の優しさが少女の未来を動かしたのかもしれない。
サトウキビ畑に隠れて空を眺める兄の姿に、ここ沖縄でも同じように非業の死を遂げた人たちが何万といたことを想う。命こそ宝であるはずなのに数多の宝が奪われ悲劇を生んだ。この時流れた涙も天に昇り雲になり霧になっただろうか・・。
こうして時々、隣国の作品を観るとアジア人のDNAが疼く。
血の繋がりを辿る思考回路が働き家族や先祖に思いが至る。
貧しさの中で必死に生き抜いた人達がいたこと、
時代の犠牲になり人知れず散っていった命があったこと、
不本意な運命に涙を呑むしかなかった人達がいたことを忘れずにいたい。
一途に希望に向かう思いだけが奇跡を生むことを忘れずにいたい。
泣いてばかりだったが、雨あがりの空のごとく曇の隙間から一瞬、光が零れてきた時のようなじんわりと温かな余韻があった。
