見出し画像

「30人・50人・100人の壁」は何が起きているのか

組織が急に大きくなると、いわゆる「組織の壁」にぶつかります。30人、50人、100人と人数が増えるたびに、それまでのやり方が通用しなくなる。意思決定を誰がするのか、情報をどう伝えるのか、どんなルールで動くのか——創業期には暗黙のうちに回っていたものが、人数が増えると回らなくなり、整え直す必要が出てきます。

ここで多くの経営者や人事が悩むのは、「組織化」のさじ加減。ルールを決めないまま進めば、現場に不満がたまり、カオスになるし、人が辞めていく。かといって、慌てて制度やルールを作りすぎると、今度は活躍していた人材がパフォーマンスを落としたり。さらに、組織化に伴ってマネジメント層を作ろうとすると、適切でない人を据えてしまって組織が壊れたり、そもそもマネジメントできる人がいなかったりする。

つまり「壁」の正体は、組織構造の「不足」と「過剰」を同時に管理しながら、マネジメント陣を作るという、難度の高い舵取りです。この記事では、壁の局面で何が起きるのかを3つの理論で理解し、それぞれにどう対処して進めるかを考えていきます。

組織規模の壁に直面している方、自社に合った体制づくりの進め方、組織のあるあるを解消したい方向けにコンサルティングサービスを提供しています。気になる方は連絡先まで気軽にご連絡ください。

メール:ishikura1982@gmail.com
XのDM : https://x.com/kohide_I
Facebookのメッセンジャー: https://facebook.com/hideaki.ishikura


1.ルールを決めないまま進むと、なぜ不満が生まれ、人が辞めるのか

まず、組織構造の「不足」について。意思決定者が曖昧で、情報の流れも決まっていない。誰がどう決めたのか分からないまま物事が進む。この状態が、不満と退職の遠因となります。

これは、ジェラルド・グリーンバーグ(Jerald Greenberg)らが体系化した組織的公正(Organizational Justice)と呼ばれる理論で説明できます。

人が感じる公正さには3つの次元があります。①分配的公正(結果の配分は妥当か)、②手続き的公正(決定のプロセスは透明で一貫し、反論の機会があるか)、③相互作用的公正(説明と敬意をもって伝えられたか)。

そして重要なのは、組織へのコミットメントや離職意図を最も強く左右するのが、結果そのもの(分配)よりも、「決め方」(手続き)と「伝え方」(相互作用)だと言っています。

意思決定者が不明確で、その場の空気や声の大きさで物事が決まり、なぜそうなったのか説明もない——こうした「手続きの不在」は、たとえ個々の結論が妥当でも、強い不公正感を生む。

「この会社は、決め方がいいかげんだ」「社長の鶴の一言で何でも決まってしまう」という感覚は、評価や処遇への不信に直結し、優秀な人から静かに離れていきます。ルールがないことの本当の害は、不便さよりも、この不公正感にあります。

対処の方向は、ルールの量を増やすことではなく、「決め方」を明確にすることです。
具体的には、何を誰が決めるのか(意思決定者と決裁範囲)を、領域ごとに明示する。重要な決定については、判断の基準と理由を言葉にして共有し、「なぜそうなったか」が後から追えるようにする。そして、情報の伝達経路(誰が、何を、どのルートで伝えるか)を定める。

これらは細かな業務ルールではなく、「物事がどう決まり、どう伝わるか」という土台です。手続きの透明性と一貫性さえあれば、結論に多少の不満があっても、人は納得して働けたりするものです。



2.では作ればいいのか——不要なルールが、活躍人材を止める

次に、組織構造における「過剰」の問題です。
壁にぶつかった経営者は、しばしば反動で、ルールや制度を一気に作り込みます。承認フロー、報告義務、細かな評価項目、行動規定。ところが、これが活躍していた人材のパフォーマンスを落とすことに繋がります。

これは、エドワード・デシ(Edward Deci)とリチャード・ライアン(Richard Ryan)の自己決定理論(Self-Determination Theory)で説明できます。

人が内発的に動くには、3つの心理欲求——①自律性(自分で選んで動いている感覚)、②有能感(うまくやれている感覚)、③関係性(つながっている感覚)——が満たされる必要があります。とりわけ、成果を出している人材ほど、自律性への要求が強い。自分の裁量で考え、動けることが、彼らのパフォーマンスの源泉だからです。

過剰なルールは、この自律性を直接奪います。手段まで細かく規定され、いちいち承認を求めねばならず、工夫の余地が消える。すると、これまで自分の判断で成果を出してきた人材が、「ここでは自由に動けない」と感じ、急速に意欲を失います。皮肉なことに、組織を守ろうとして作ったルールが、組織を支えてきた人材の力を削いでしまう。

「昔は楽しかったのにいまは会社ぽくなっちゃった」みたいなセリフが出るのは、自律性の毀損の現れです。ルールは、サボる前提の人を縛ると同時に、自走できる人の足も縛ってしまうのです。

対処の方向は、ルールを「最小限」に絞り、縛り方を変えることです。
具体的には、ルールは全員一律ではなく、本当に必要なリスク(コンプライアンス、品質、安全)に限定する。業務の進め方は、「How(手段)」まで規定せず、「What(目的)とWhy(理由)」を共有して手段は本人に委ねる。性悪説で全員を監視・統制するのではなく、信頼を前提に、最低限の基準だけを明示する設計にする。

「ルールを作るか作らないか」ではなく、「どこは縛り、どこは任せるか」を切り分けることが要点です。自律性を残したまま、必要な統制だけをかけるのが、活躍人材を殺さない組織化です。


3.適切でない人をマネジメントに据えると、なぜ組織が壊れるのか

最後に、マネジメント層の問題です。

組織化に伴い、中間に管理職を置く必要が出てきます。ところが、ここで「適切でない人を据えて組織が壊れる」「そもそもマネジメントできる人がいない」という壁にぶつかります。

その根にあるのを説明するのが、ロバート・カーン(Robert Kahn)らが提示した役割葛藤・役割過負荷(Role Conflict / Role Overload)です。これは、担う役割が矛盾したり、量的に過大になったりするときに生じる構造的な負荷を指します。

多くの会社は、プレイヤーとして優秀な人をマネジメントに引き上げます。しかし、プレイヤーとマネージャーは、求められる能力がまったく違う役割です。自分で成果を出す力と、人に任せ・育て・判断する力は別物です。

この違いを踏まえずに「優秀だから」という理由だけで管理職にすると、本人はプレイヤー業務も抱えたまま管理業務を上乗せされ(過負荷)、上からの成果要求と下からの期待の板挟みになり(役割葛藤)、機能不全に陥ります。そして、機能しないマネージャーの下でチームが荒れ、「適切でない人を据えたら組織が壊れた」という結果になる。「マネジメントできる人がいない」のも、多くの場合は人材の不在ではなく、マネジメントを別の役割として定義し、育てる仕組みがないことの表れです。

対処の方向は、マネジメントを「プレイヤーの延長」から「別の専門職務」へと位置づけ直すことは必須だと思います。

具体的には、マネージャーに求める役割(人の育成、意思決定、チームの成果)を、プレイヤーの評価軸とは分けて明示する。そしてプレイヤーとして優秀な人に、必ずしも管理職を強いない——専門性で上がる道(エキスパート職)と、管理で上がる道を用意する。管理職に就けるなら、プレイヤー業務の比率に上限を設け、過負荷を防ぐ。そして、マネジメントは生まれつきの才能ではなく学べるスキルとして、育成の機会を用意する。

「優秀なプレイヤー=マネージャーできるでしょ」という思い込みを避けることが、壊れない組織化の前提になります。


おわりに——「ルールを増やすか減らすか」ではなく「今の規模に必要な組織構造は何か」

組織の壁の局面では、3つのことが同時に起きます。ルールや意思決定の仕組みが不足すると、組織的公正が損なわれ、不満と退職を生む。かといって過剰にルールを作ると、自己決定理論が示すとおり、自律性を奪われた活躍人材がパフォーマンスを落とす。そして、役割葛藤・役割過負荷を踏まえずにマネジメント層を作ると、適切でない配置で組織が壊れる。

裏を返せば、進め方は見えてきます。「決め方」を明確にして公正さを担保しつつ、ルールは最小限に絞って自律性を残し、マネジメントを別職務として定義・選抜・育成する。重要なのは、壁を「ルールを増やすか減らすか」という量の問題として捉えないことです。

本質は、いまの規模(30人、50人、100人)に本当に必要な構造は何かを見極め、不足を補い、過剰を削ぐという、質の設計です。同じ会社でも、必要な構造は規模によって変わり続けます。壁は一度越えて終わりではなく、規模が変わるたびに設計し直す。

自社がいまどの壁にいて、何が不足し、何が過剰なのか。そして、どの順序で体制を整えていくべきか。それを具体的に診断し、進め方を一緒に設計することもしています。組織規模の壁に直面している方、自社に合った体制づくりの進め方、組織のあるあるを解消したい方向けにコンサルティングサービスを提供しています。気になる方は連絡先まで気軽にご連絡ください。

メール:ishikura1982@gmail.com
XのDM : https://x.com/kohide_I
Facebookのメッセンジャー: https://facebook.com/hideaki.ishikura


さらに深く知りたい方へ

  • Colquitt, J. A., et al. (2001). Justice at the millennium: A meta-analytic review of organizational justice research. Journal of Applied Psychology, 86(3), 425–445. ——組織的公正のメタ分析(原典は Greenberg, 1987)。

  • Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation. American Psychologist, 55(1), 68–78. ——自己決定理論のレビュー。

  • Kahn, R. L., et al. (1964). Organizational Stress: Studies in Role Conflict and Ambiguity. Wiley. ——役割葛藤・役割過負荷の原典。

いいなと思ったら応援しよう!