マグロ

2023年の11月のころ
私は腐っていた。

h:「おい!ちょっと変わった所…行きたいんだ。飯奢るから付き合ってくれ。」 
そう誘われた。憂鬱だった。
ただ「変わった所」というワードに少しの好奇心があった。そして『h:』が心配してくれるのが辛いほど分かっていた。

私「いいよ、奢ってくれるなら」
私は行くことにした。

私「どこ行くんだ?」
h:「まあいいじゃん。そんなに遠く無いし」

ふーんまあいいか。
しばらく車を走らせて知らない交差点を右折すると標識が見えた。
◯◯競輪場

私「はあ?」
h:「まあまあ 行ってみようぜ。」
うぜー…なんだよ!裏切られた…
h:「ここの寿司とモツ煮が美味しいらしいぜ。」
私「いい加減にしろよ!寿司なんか出るわけないだろ!」
本当に嫌だった。
今すぐ帰りたかった。

その時… ぐうううっと腹が鳴った。
腐っていても腹は減るのだ。

駐車場に入り車を止めた。
h:「腹へったし 入ってみよう。」
h:の後をトボトボついていった。
入る前から思っていたが、外観も入った所もとても古いそして薄暗い。
ケンコバさんの言葉を借りると『ストロングスタイル』な佇まい。足取りは重かった。

建物に入ると大きな机がいくつもあり、マークシートみたいな紙とゴルフのスコア鉛筆が置いてある。新聞とでっかいレシート(?)を持ってぶつくさ言いながら大勢記入している。その向かいにはきっぷの発券機のような機械がずらっと並んでる。
「◯レース締め切り◯分前です。」アナウンスも流れている。何か見ながら歩く人が多いから常にぶつかりそうになる。うるさいな、迷惑だな… また足取りが重くなる。

私「本当に行くのか?」
h:「ちょっと、付き合ってよ。」
はぁ…   h:の後について行った。

そこを通り抜けると一番奥に食堂らしき場所があった。大きな声で「マグロありますよ!いらっしゃいいらっしゃい」と聞こえてきた。
佇まいは相変わらず「ストロングスタイル」
だが、うまそうなマグロの巻物と握りが並んでる。
ラーメンや揚げ物、カレーもあった。

(今、どこにいるっけ?)
頭がバグった。
腹が減り過ぎたのかもしれない。

早速マグロの手巻きを買い席に座る。後から隣の店でh:がモツ煮を買ってきた。
テレビのモニターは全てオッズとどこかでやってる競輪が流れていた。
客「あーれっ捲っちゃうんじゃぁねえの?」
客2「捲れねえよ。脚ねえから。」
客3「ぼっくすで買わねえのか?」
客4「3着流し」
聞き慣れない言葉が飛び交うので 私の脳内は外国旅行中変換してたと思う。(アジアのどこか…)
お世辞にも綺麗な所じゃ無いし、そうしないと声のデカい翁の横で食事は出来ない。
でもマグロはうまい。
追加で握りも食べて満腹になった。
h:「どうだった?」
私「美味しかったよ。ありがとう。」
h:「じゃあ、ちょっとやってみるか?」
h:が小銭入れを私の前に差し出した。
私「他人の金で打たないの知ってるだろ。」
h:「俺が誘った。それでいいだろ。最初で最後。」

最初で最後… この時はね。

いいなと思ったら応援しよう!