会社の名前が、信用になることを知らなかった
🎧️ゆらぎ(すべてのはじまり)の曲を作りました♪
よかったら聴きながらお読み下さい♪
「すごく、働きやすいんです」
大手企業に転職した四十歳の女性が、うれしそうに話してくれた。
「フレックスもリモートワークも自由にできるんです。休みも有給以外にもらえるし、有給も必ず消化しなければならない日数があって。資格を取るときの補助もあるんですよ」
その後も彼女は、その会社がいかに働きやすいかを熱心に話してくれた。
私は聞きながら、
「やっぱり大手企業は違うんだな」
と思った。
そういえば、私にも身に覚えがあった。
以前、大手の証券会社に勤めていたことがある。
会社は一等地にあり、駅から近かった。
社員食堂があって、安く食事ができた。
市販のパンは半額で買えた。
働いているときには、それが特別なことだとはあまり思っていなかった。
ところが、会社を辞めてから驚いたことがある。
企業年金だった。
私は一年ほどしか勤めていなかったのに、毎年、数万円が貰える。
「短い期間しかはたらいてないのに、一生もらえるんだ」
そのとき初めて、大きな会社で働くということには、給料以外にもいろいろなものがついてくるのだと知った。
でも、もっと驚いたことがある。
住宅ローンだった。
ある不動産会社の営業マンが、二十代の男性の住宅ローンの書類を見ながら言った。
「僕、こんなに安い金利の人、今まで見たことがないです」
二十代の男性は、誰でも名前を知っている大手企業に勤めていた。
若くて、大手企業の正社員。
銀行から見れば、それだけ信用が高いということなのだろう。
反対に、私が自分で家を買おうとしたとき、初めて知ったことがあった。
会社を経営している人や自営業者は、住宅ローンの審査がとても厳しい。
会社員より収入が多くても、
「来年も同じ収入があるとは限らない」
と見られることがある。
私はそのとき、
同じ家を買うのに、勤めている会社によってこんなに金利が違うのか
と驚いた。
若い頃の私は、そんなことを何も知らなかった。
親が子どもに、
「いい大学へ行きなさい」
「できれば大きな会社へ入りなさい」
と言うのを聞くと、
そんなに会社の名前が大切なのだろうかと思っていた。
でも、自分が働き、会社を経営し、人材の仕事をし、家を買おうとして、ようやく分かってきた。
給料だけではなかったのだ。
福利厚生がある。
教育制度がある。
退職後にも残るものがある。
そして、ときには会社の名前そのものが、その人の「信用」になる。
もちろん、大手企業だから一生安泰とは限らない。
会社はなくなることもある。
リストラされることもある。
けれど、たとえ会社を辞めても、
「そこで働いていた」
という職歴は残る。
人材の仕事をしていた私は、履歴書を見て何度もそれを感じてきた。
では、大手企業に入れなかった人はどうすればいいのだろう。
世の中で働いている人の多くは、中小企業で働いている。
私自身も、ずっと大企業だけで働いてきたわけではない。
だから私は、人材の仕事をするようになってから、別のことを考えるようになった。
会社の名前が信用になるのなら、自分の名前にも信用をつけていけばいい。
たとえば、どんな業界で経験を積むのか。
どんな仕事を任されるのか。
部下を持った経験があるのか。
人をまとめたことがあるのか。
その仕事に必要な資格を持っているのか。
何年、その仕事を続けてきたのか。
転職するとき、そういうものが少しずつ効いてくる。
だから私は若い人に、
「職務経歴は財産ですよ」
とよく話していた。
資格をたくさん取ればいいということでもない。
肩書だけを追いかければいいわけでもない。
小さな会社であっても、
「この仕事なら、この人に任せられる」
と思ってもらえるものを、一つずつ増やしていけばいい。
若い頃の私は、会社の名前がこれほど人の信用に影響するとは知らなかった。
住宅ローンを組もうとして、初めて知った。
そして人材の仕事をして、もう一つ知った。
会社の看板を持っている人は強い。
でも、看板がなくなったあとにも残るものがある。
経験。
役職。
実績。
資格。
そして、
「あの人なら任せられる」
と誰かに思ってもらえること。
スキルとは、信用を見える形にしたものなのかもしれない。
会社の名前が自分を守ってくれる間に、
いつかその看板がなくなっても困らないものを、
自分の中にも少しずつ作っておく。
私は、それが働くということの一つなのではないかと感じている。

