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“何もしない支援”が信頼になるまで

県外に住むご家族様からの依頼だった。

「薬が飲めていないみたいで…」
「安否確認も含めて、毎日見てもらえませんか」

利用者様は80代女性。
直腸がん末期。

ADLはほぼ自立。
会話もしっかりされる。
けれど、生活の中では認知機能低下による心配もあり、ご家族様も不安を抱えておられた。

独居。

定期巡回で、朝と夕方の毎日訪問が始まった。

けれど、介入当初は拒否がとても強かった。

「薬なんか持ってこんでいい」
「帰って」
「来なくていい」
「私には必要ありませんので」

毎日、強い口調で言われる。

部屋には当然入れてもらえない。
玄関も開かない。

ただ、窓だけは開けてくれる。

だから私たちは、窓越しに話をした。

薬を持っていく。
声をかける。
顔を見る。
短いやり取りをする。

それだけ。

無理に説得しない。
強引に部屋へ入らない。
距離を詰めすぎない。

でも、「行く」ことはやめない。

定期巡回のスタッフみんなで、その姿勢を徹底した。

拒否されると、人はつい焦る。

なんとかしないと。
飲んでもらわないと。
受け入れてもらわないと。

そう思えば思うほど、距離を詰めたくなる。

けれど、その方にとっては、毎日知らない人が来ること自体が大きなストレスだったかもしれない。

病気。
独居。
認知機能の低下。
先の見えない不安。

きっと、本人の中にも言葉にならない怖さや混乱があったと思う。

だから私たちは、“関わろうとしすぎない”ことを大切にした。

必要以上に踏み込まない。
でも、見放さない。

拒否されても、感情的にならない。
(そりゃ、内心では心折れそうになること数知れず)
どんな言葉を向けられても、こちらの態度は変えない。

「今日も来ましたよ」
「お顔見れてよかったです」
「また夕方来ますね」

ただただ、それを積み重ねた。

そんな日々を重ねるうちに、少しずつだが変化が出てきた。

介入から2ヶ月ほど経った頃。

相変わらず部屋には入れない。
でも、表情が柔らかくなってきた。

そして、笑顔で
「ありがとう」
と言ってくださる日が増えた。

薬も
「毎日持ってこんでいい、迷惑です」
と言われていたのに、
「今日も持ってきてくれたんだね、ありがとう。

と、私たちに話してくださることが増えた。
薬も毎日飲むことができるようになってきた。
ご家族様も安堵された。

あれだけ毎日あった拒否的な言葉が、気づけばほとんど聞かれなくなっていた。

その時、私は改めて思った。

信頼って、“正しいことを言う”ことでできるわけじゃないんだな、と。


「この人は自分をコントロールしようとしてこない」
「嫌と言っても見捨てない」
「無理やり踏み込んでこない」



そういう安心感の積み重ねが、少しずつ関係を作っていくのではないかと感じる。

そしてそれは、一回の濃い関わりではなく、“毎日行く”ことで生まれたものもあるのだと思う。

定期巡回は、短時間のサービス。

一般的には
「そんな短時間で何ができるの?」
と思われることもある。

でも私は、今回の関わりの中で、定期巡回の本当の強みを感じた。

長時間関わることだけが支援じゃない。

毎日行く。
変わらず行く。
必要以上に奪わず、でも孤立させない。

その積み重ねが、利用者様の安心につながることがある。

特に、拒否の強い方ほど、最初から深く関わろうとすると関係が壊れてしまうことがある。

だからこそ、“待てる支援”は大事なのだと思う。

何かをしてあげることだけが支援ではない。

相手のペースを尊重しながら、
「ここにいますよ」
を伝え続けること。

それも、立派な支援だと思う。

最近は、窓越しに笑顔で話してくださる時間が少し増えた。

まだ部屋には入れない。
でも、以前とは明らかに違う。

私はその変化が、とても嬉しい。

信頼関係は、急にはできない。

でも、“毎日行く”ことには、人の心を少しずつ動かす力があった。

定期巡回の仕事をしていると、そんな瞬間に出会えることがある。

私は、すごく嬉しかった。

定期巡回というサービスが、もっと普及していったらと、すごく思う瞬間だった。

定期巡回だからこそ、できる支援がある。

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