実用・陰謀論──誤った考えがあなたを守る!!

不安と恐怖、怒りと憎しみが、人間を、「誤りであるが自分の身を守る思考」へと、駆り立てる。

私の体験談から始めよう。

出会い系サイトで悪質な業者に出会ってしまい、有り金をすべて毟り取られた間抜けがいたとする(実話)。

間抜けは、自分の体験をきっかけにして、悪質な業者を野放しにしているサイト運営会社・警察・法律家・政治家・すべての人間・世界そのものが、信じられなくなってしまう。──かれは、ホッブズが『リヴァイアサン』で述べた「自然状態」の人間に、戻ってしまうのだ。

悪質な業者と、良質な業者や本物の素人を、見分ける方法は、経験者しか知らない。

ネットの情報には正しいものもあるが、どの情報が・どれぐらい正しいかは、経験者にしか分からない。

小銭まで毟り取られた(実話)間抜けは、こう思うようになる。

「出会い系サイトには、悪質な業者しかいない」。
「だから恋活は無意味だ。業者に金を取られるだけじゃないか」。
「もう恋活なんかしない」。

この考えは、誤りである。

しかし、この誤った考えは、どんな正しい考えよりも、よりよく、かれを守る。

なぜなら、何が正しくて何が誤っているかを見極めるために必要な経験を、かれが、まだ持っていないからだ。

別の例を挙げよう。

人がクマに食い殺されたというニュースを見て、「最初から山に行かなければいいのに」と思う人がいる。「クマを絶滅させない限り、山は安全ではない」と。

この考えもまた誤りである。

しかし、この誤った考えは、もっとも正しいであろう考えよりも、よりよく、人をクマから守る。

このような、個人の心の振る舞いが集まると、どうなるか?

ロシアがウクライナに攻め込んだばかりのときを、思い出して欲しい。

たちまち、ロシア憎悪が世界的に流行した。

世界中の人々が、めいめい勝手に、しかし一斉に、「ロシアが憎い」と思った。

ロシアは腐った国だとされ、腐った国が生み出す、すべてのものが、ボイコットの対象になった。

ロシアのガス・石油、ロシアの通貨、ロシアの文化、ロシアの言語が、ボイコットされた。

このとき、人々は、こう思っていた。──ロシアに対する「正しい」経済制裁が、やがてロシア経済を麻痺させ、戦争を終わらせるだろう、と。

なぜなら、私たちが「正しい」から、と。

しかし、その考えは、誤りである。

なぜなら、戦時経済体制に移行した国民経済が、経済制裁によって麻痺することは、ない。

もし、経済制裁を、「外部電源の遮断」になぞらえるなら、戦時経済体制は、「自家発電」になぞらえられるものだからだ。

自家発電でそれなりに回ってしまうロシア経済を、外部電源の遮断で「全停電」させようとしても、それは、できない。

しかし、この誤った考えは、正しい考えよりも、世界を、とりわけ、ヨーロッパを、大戦争から救ったのかもしれないのだ。