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完熟な恋・第7話『恋のストライク』

ホテルから歩いて10分ほどにある『エースボウル』国際大会も開催される格式あるボーリング場。まさか初めて女性と2人でここに来るとは思ってもみなかった。

「絵里子さんって、ボーリング上手なんですかー?」
「どのくらいのスコアが上手って言えるのかしら?私は100前後よ、多分下手な人に入るわよね?ふふっ。」

そんなに上手くないボーリングに俺を誘うなんて…きっと俺に手取り足取り教えてもらうために、スキンシップを求めるために誘ったのだろうか?そうだとしたら…かなり脈はあるぞ!
でも…一連の流れの絵里子さんの言動は本当に不可思議だった。女性とこうした経験のない俺にとってはさまざまな妄想が膨れ上がって頭の中で破裂しそうだった。

「実はね、来週の土曜日に会社でボーリング大会があるの、だから少しでも練習したかったんだけど…1人じゃちょっとね…だから荒木くんを誘おうと思って…迷惑じゃなかった?」

迷惑だなんて……ま、そんなところだとは思ったが…でもねこれ以上幸せなことはない。
もう手取り足取り、何でもいいから絵里子さんに教えてあげたい。

「絵里子さん、素直に嬉しいです。誘ってくれてありがとうございます。」

「あーよかった。じゃー一緒に楽しみましょう。」

シューズとボールを選んで俺から投げることに…

「荒木くーん、頑張ってねー!」

絵里子さんの声援が今の俺には100%黄色い声援にしか聞こえなかった。ここはいいとこ見せないと!ボールを持つ手を思い切り後ろに上げて一気に下ろしボールを離した。

いわゆるパワーボーリングしか出来ない俺は勢いで10本のピンを空中に跳ね上げ完璧なストライクを取った。よっしゃー!

「わー、凄い凄い!荒木くん、かっこいい!」

投げ終わった俺が後ろに下がる時、両手でハイタッチをしてくれた。どんな動作でも絵里子さんと触れ合うたびに俺の胸は高鳴って行く。やっぱりこれって恋なんだろうか?この気持ち、絵里子さんにどうやって伝えたらいいのだろうか?生まれて初めて俺は「切ない恋心」というものを抱いていた。

絵里子さんの第一投、何といわゆる「両手投げ」親指は穴に入れず両手で持って転がすスタイル、助走はいい感じ、でも両手の腕の振りに勢いがない。右から真ん中に滑るようにゴールを転がすつもりだったのだろうけど…結果は右端の3ピンだけだった。

「あーもう、やっぱりダメだわー、SNSじゃとってもカッコよく投げてストライク取っている女の子いるのにー」

『絵里子さん、大丈夫!ボールがまっすぐ転がっていってるのは凄いよー!」

「えー、そーなの?でもボールが上手く曲がらないのよ、どうすればいいのかな?」

「絵里子さんはそのまま真っ直ぐ投げているから真っ直ぐにしかいかないんですよ、ボールを離すときに右手を左に滑らすようにして離すといいと思います。左手は同時に勢いつけて左側に振るといい感じになると思いますけど…。」

実は俺は全く経験がない!笑 両手投げを研究していた大学の友人が言っていたことの受け売りでしかなかった。

「へぇー凄いなぁー、荒木くん、え、ボールってどう持てばいいの?」

「右手はボールの下になるように、左手はボールを上から手で被せるように、そして腕を腰の高さくらいまで後ろに上げて投げ下ろす、というような感じかなー?まずやってみましょー。」

俺はいつの間にやら絵里子さんの手を取りながら熱心に指導していた。嫌じゃなかったかなぁー?そんな不安を感じながらも絵里子さんの第二投目!
「絵里子さーん、気楽に行きましょうねー」

絵里子さんはこちらを振り返ってにっこり微笑みながらVサインをしてくれた。
年上の女性なのに…何で可愛いんだろう?
胸をキュンキュンさせながら絵里子さんのニ投目を見守った。

絵里子さんは動作をじっくりと確かめながら俺の言った通りにほぼ投げることができた。
ボールはゆっくりながら綺麗にカーブを描き真ん中のピンの右側に当たった。ピンはゆっくりと次々に倒れ、残っていた7ピン、全て倒した。スペアだった。
 
「絵里子さーん、ナイススペア」
「わーい、やったわー!凄い凄ーい!」
絵里子さんとハイタッチをする構えでいたのに絵里子さんは何と俺に抱きついてきた。

「荒木くんのおかげ、ありがとう!」

やばい、こんなはずではなかった。あ、いい意味で予想外の展開に胸の鼓動が止まらなかった。
「いいアドバイスでわかりやすかった、だから出来たんだよー、本当に本当にありがとうねー。」

ほんの数秒のハグなのに俺にとってはもの凄く長い時間に感じた。大人の女性の化粧と香水の匂いにいつのまにか酔いしれていた。

我に返った絵里子さんがハッとして俺から離れた。
「あ、ごめんなさーい!つい嬉しくて…ごめんねー荒木くん。」

「いや…謝る必要は全くないですよ、絵里子さん、今度はストライク出したらまたハグしてください。」

何という余裕のないジョークなんだ!ただの本心だろう、これじゃ、絵里子さんに嫌な顔されるぞ。でも絵里子さんは

「そーねー、荒木くん、まんざらでもなさそうだったからストライク取ったらまた喜んで抱きついてあげるかー。ふふっ」

完全に弄ばれているのがよくわかる。でも本当に嫌ならそんなことは言わないだろうし、そんなスキンシップの意識もないだろう。
今のスペアは俺の心をストライクで撃ち抜かれたのとほぼ同じような状態だった。
そんな雰囲気の中、絵里子さんのスマホが鳴った。
「あら、あゆみからだわ、どうしたのかしら?」

絵里子さんは電話を取り、あゆみさんと何か
話していた。はっきりと聞き取るようなことはしなかったが、この電話がこれからの僕らの全てを導いていく運命の電話だった…。

              第8話に続く

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