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『先生』 第3話 ー孤独な乾杯。謎の男の指摘と、暴かれた心の「殺気」―

【第3話:殺気とワイン、そして奇妙な対話】
講演会が終わり、会場は和やかな懇親会へと移ります。
サンドウイッチとワインが並ぶ華やかな空気の中、
知る人のいない宏樹さんは、一人グラスを片手に
「先生」の姿を追っていました。
「そんな怖い顔をしていると、誰も寄ってこないよ」
突然声をかけてきたのは、鋭い目つきをした中年の男。
前職でのいじめや孤独から、知らず知らずのうちに身に纏っていた
「殺気」を指摘され、宏樹さんはハッと我に返ります。
謎の男と交わした、二・二六事件、そして信念を巡る奇妙な対話。
憧れの鶴見俊輔先生と同じ空気を吸いながら、
宏樹さんは自分の内側にある「不安定な熱」と向き合うことになります。


懇親会は盛況を極めていた。
みんなサンドウイッチ片手にワイングラスを片手に親しく歓談していた。


冒頭、宴会の挨拶に、鶴見俊輔先生が、

「現在、世界的に最も高く評価されている大学は、ハーバードかな。
私の最大の敵は日本の大学のアカデミズムです」と発言された。

 
初めての参加でもあるし、知人もいないため、
宏樹はワインを飲みながら一人佇んでいた。


先生はいらっしゃったが、臆病者の宏樹には、
一人で声をかける勇気は先ほどと違い湧いてこなかった。


その時、眼鏡をかけた鋭い目つきの中年の男性が、
宏樹に声をかけてきた。


「そんな、怖い顔をしていると、誰もよってこないよ」


宏樹は、はっと我にかえった。


確かに前年S運輸でいじめを受けて、
宏樹派の精神は不安定になり、
殺気立ったところがあった。


先生は、鬱病で精神病院に入院されたこともあるから、
察するところがあったかもしれない。


「今日は何が理由で、いらっしゃったのですか」


宏樹は、いささかうろたえながら、逆に質問した。

「松本先生のお話を伺いたくてね」

「それにしても、今更二・二六事件の話は、
少し時代錯誤的ではないですか」

「君はなにか二・二六事件の将校のように
信念のために命をかけられるかい」

「幕末の志士のように剛毅な人間でないですから無理ですね。
それにしても、大学時代は酒ばかり飲んでいて全然勉強しなかったから、
アカデミズムの洗礼を受けていない。
その点は鶴見さんによれば評価できるのではないですかね。」

 
相手の男は苦笑いを浮かべた。

この男との会話と風貌から何かいわくつきの、
もしかしたら右翼関係の人物かと思ったが、
この男性とメールアドレスの交換をした。

だが、その後この男から
一切メールは宏樹の基に来なかった。


懇親会はそれで幕を閉じた。

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