『目覚め』 最終話 ー梶原一騎と新聞記事。敗北の歴史を塗り替える真の自立―
【代筆者より:ついに最終回をお届けします】
暴君のような社長に背を向け、再び失業者となった高樹さん。
激動する世界情勢の中、彼が辿り着いたのは
大手派遣企業での事務職でした。
穏やかな日曜の朝。何気なく開いた新聞の特集記事が、
彼の止まっていた運命を大きく動かします。
敗北と挫折の連続だった人生。けれど、そこに記されていたのは、
かつて彼が魂を削って書いた「言葉」の残響でした。
自分を縛り、可能性を潰してきたのは自分自身ではなかったか?
誰かの意向ではなく、自分の意に沿う生き方を。
深い闇を抜けた高樹さんが、最後に見出した「安らかな眠り」と、
静かなる決意の物語。
どうぞ最後までお見守りください。
それから、約一年が経過した。
リーマン・ショックが発生し、
政権が自民党から民主党に交代した。
民主党政権になってから
障碍者雇用が緩和・促進されたのだろうか?
リーマン・ショック後の大不況にもかかわらず高樹は、
さほど苦労することなく、
東京のさる大手派遣企業に事務職として採用され、
職務にいそしんでいた。
その日は、日曜で休日であった。
高樹は、暇がてらに新聞を読んでいた。
その新聞で、月に一回
「あの人に会いたい」と題して過去の著名人の特集を組んでいた。
高樹は、従来はその欄にさほど、注意を払ってこなかったが、
たまたま、その折その欄に目を通してみた。
今回の特集は「巨人の星」「明日のジョー」など漫画の原作者で
著名な梶原一騎氏だった。
読み進めるうちに高樹は、はっと我にかえり我が目を疑った。
名は伏せてあるが、
もしかして、高樹の投稿を参照して論じているのではないか、と。
いささか牽強付会ながら、
高樹は間違いないと確信した。
勘違いかもしれないが、高樹は、心底嬉しかった。
何故なら高樹の人生は、大学受験以降、
死屍累々、ひたすら敗北の連続であったからだ。
それと同時に、自分には、
はてな、文章を書く能力が備わっているのかと訝しんだ。
小学校時代は除外するとして、中学・高校で
現代文の成績が良かったことはなかった。
せいぜい、よくて中の中ぐらいか。
錯覚だとしても、敗北の歴史の連続で
すっかり自信喪失していた高樹の心に
久方ぶりに、かつての自尊心が滲みだした。
その夜、床について就寝する前に、
高樹のうちにいろいろな想念が湧いた。
大学受験で統合失調症に罹患するという
未曽有の大惨禍に見舞われた後も、
栄達を夢見て、資格試験ばかり受けてきた。
国家公務員試験・簿記の試験・行政書士の試験。
何れも失敗だった。
試験以外で、必死になって
自分の精魂を傾けた事例はあっただろうか。
何か、スポーツ活動に精を出すとか、
科学の実験研究に夢中になるだとか、
小説や・詩を自分なりに工夫して作成してみるだとか。
皆無だった。
己が可能性を
己自身で潰してきただけではないのか。
また、統合失調症を発症したから、致し方ないが、
ひたすら流されるばかりで、
自分自身から積極的に職業を選んだことはなかった。
父と姉のはからいに、縛られるばかりで、
一度も自発的に、気に入った職業ついたことがなかった。
工場労働者・会計事務所の職員・コンビニの定員。
いくど転職しただろうか?
いずれも、短命に終わった。
何と惨めでつまらない人生だろう。
高樹は、決心した。吉と出るか凶と出るか分からないが、
これからは自分の意に沿う生き方をしてみよう。
おそらく凄い耐久生活を強いられるだろう。
それも構わない。
自分の人生なのだから。
高樹は心安らかに眠りについた。
【完結にあたって:代筆者の言葉】
全8回にわたる『目覚め』を最後までお読みいただき、
本当にありがとうございました。
今回の物語は、理不尽な社会の荒波と、
その中で「書くこと」に救いを見出していく一人の男性の、
痛烈な記録でした。
高樹さんは最後に、「自分の意に沿う生き方をしてみよう」と決意します。それは、安定や効率を求める世間一般の物差しから外れ、
茨の道を選ぶことかもしれません。
けれど、誰かに流されるのではなく、自分の足で立ち、
自分の言葉で語り始めた彼の心は、
これまでにない安らぎに満ちていました。
失敗しても、不採用でも、自分の人生を自分のために使い切る。
この連載が、今、何かに立ち止まり、
自分を見失いそうになっている誰かにとっての
「目覚め」のきっかけになれば幸いです。
筆者・高樹(宏樹)さんの次なる挑戦を、
これからも共に応援していただければ嬉しいです。
ご愛読、誠にありがとうございました。
