マーケティングを仕事でしか使わないのは、もったいない
マーケティングというと、多くの人は仕事の話を思い浮かべると思います。
商品を売る。
サービスを広める。
広告を出す。
Webサイトを改善する。
顧客を分析する。
競合を見る。
私自身も、長くマーケティングの仕事をしてきました。
でも最近、少し違うことを思うようになりました。
マーケティングって、仕事のためだけに使うには、あまりにも便利な考え方なのではないか。
むしろ、
人生を生き抜くための技術に近いのではないか。
そんな気がしています。
年収を「上げたい」ではなく、「上げる必要があった」
私が年収を強く意識するようになったのは、20代後半の頃でした。
きっかけは、父親が他界したことです。
それを機に、家族への仕送りが必要になりました。
それまでも仕事は頑張っていましたし、給料が上がれば嬉しいとは思っていました。
ただ、この頃から少し意味が変わりました。
年収が上がったらいいな、ではなく、上げる必要がある。
そう考えるようになりました。
すると、自分のキャリアを見る目も変わってきます。
今いくらなのか。
3年後はいくら必要なのか。
その金額をもらうためには、何ができる必要があるのか。
今の自分には何が足りないのか。
かなり現実的に考えるようになりました。
でも、社内にいるだけでは分かりません。
今の会社では高く評価されていても、外ではそれほど価値がないかもしれない。
逆に、自分では大したことがないと思っている経験が、他社では高く評価されるかもしれない。
そこで私は、ときどき転職活動をするようになりました。
必ずしも、今すぐ転職することだけが目的ではありませんでした。
自分のキャリアにどんな可能性があるのか。
自分の経験は、他社ではどう評価されるのか。
企業が求めているものと、自分が提供できるものはどこで重なるのか。
実際に企業と面接をして、そういうことを対話の中で確かめていました。
どんな人材を求めているのか。
どんな経験に価値を感じるのか。
自分のどこを評価するのか。
何が足りないと感じるのか。
その会社なら、自分にいくら払うのか。
求人票を見るだけでは分からない。
転職サイトの年収診断だけでも分からない。
実際に企業と話して初めて分かることがあります。
今振り返ると、あれは転職活動というより、
自分自身の市場調査
だったのだと思います。
仕事では「一次情報を取りにいこう」と言うのに、自分のキャリアになると、それをしないのは少し不思議です。
会社の売上は逆算するのに、自分の年収は逆算しない
会社では、売上を上げたいと思えばかなり細かく分解します。
売上はいくら必要なのか。
顧客は何人必要なのか。
CVRはいくつ必要なのか。
どこを改善すればいいのか。
競合はどう動いているのか。
市場は伸びているのか。
かなり真剣に考えます。
でも、自分の年収になると、
「もう少し上がったらいいな」
くらいで終わることも多い。
3年後にいくらになりたいのか。
その年収の人は、どんな役割を担っているのか。
何を経験しているのか。
どんな会社にいるのか。
今の自分には何が足りないのか。
そこまで逆算している人は、意外と少ないのかもしれません。
でも、これもほとんどマーケティングと同じです。
必要な成果から逆算する。
市場を見る。
自分の現在地を見る。
足りないものを確認する。
必要なものを取りにいく。
私は当時、それをマーケティングだと思ってやっていたわけではありません。
ただ、必要に迫られてやっていただけです。
でも今になって振り返ると、
自分自身に対して、ずっとマーケティングをしていた。
そんなふうにも見えます。
商品が売れないとき、「もっと商品に努力させよう」とは考えない
そして、ここでもう一つ面白いことがあります。
商品が売れないとき、優秀なマーケターは「もっと商品に努力させよう」とは考えません。
市場が違うのではないか。
ターゲットが違うのではないか。
見せ方が悪いのではないか。
価格が合っていないのではないか。
競合と比べて価値が伝わっていないのではないか。
そもそも、その商品が必要とされる場所に置かれていないのではないか。
いろいろな可能性を考えます。
ところが、自分自身になると急に、
「もっと頑張らなければ」
だけになってしまうことがあります。
評価されない。
給料が上がらない。
仕事が面白くない。
周囲から認めてもらえない。
そんなとき、
「もっと努力しなければ」
「もっと資格を取らなければ」
「もっと成果を出さなければ」
と、自分という商品にばかり負荷をかけてしまう。
もちろん、努力が必要なこともあります。
能力が足りないこともある。
経験を積まなければならないこともある。
でも、それだけではないはずです。
もしかすると、
市場が違うのかもしれない。
今の会社では評価されない能力が、別の会社では高く評価されるかもしれない。
今いる業界では普通の経験が、別の業界では希少かもしれない。
大企業では埋もれる人が、小さな会社では中心人物になることもある。
会社員より独立の方が向いている人もいる。
逆に、独立より組織のリソースを使った方が力を発揮できる人もいる。
商品なら普通に考えることを、自分自身に対しても考えていいのだと思います。
良い商品でも、置かれる場所が違えば売れない
マーケティングには、
「良い商品なら売れる」
という考え方はありません。
良い商品でも、知られなければ売れない。
必要としている人に届かなければ売れない。
価値が伝わらなければ売れない。
価格が合わなければ売れない。
タイミングが違えば売れない。
市場との組み合わせが悪ければ、良い商品でも苦戦します。
これ、人も同じなのかもしれません。
能力があるから評価されるとは限らない。
一生懸命働いているから年収が上がるとも限らない。
正しいことを言っているから組織で評価されるとも限らない。
自分の持っているものと、それを必要としている場所が噛み合っているか。
そこを見る必要があります。
マーケティングは、転職だけに使えるものではない
これは転職だけの話ではありません。
たとえば、新しいことを学ぶときもそうです。
なんとなく資格を取るのではなく、
「この能力は、これからどこで価値が上がるのだろう」
と考える。
人間関係でもそうかもしれません。
自分が言いたいことだけを伝えるのではなく、
「相手にはどう受け取られるのか」
を見る。
独立するときも、
「自分は何ができます」
だけではなく、
「誰の、どんな困りごとを解決できるのか」
から考える。
何かがうまくいかなければ、
自分だけを責めるのではなく、
環境を変える。
相手を変える。
やり方を変える。
見せ方を変える。
タイミングを変える。
そうやって、自分と社会との接点を調整していく。
これもマーケティングなのだと思います。
そもそも、自分にとっての「勝ち」は何なのか
もちろん、人間は商品ではありません。
人生をすべて市場価値で測る必要もない。
年収が高ければ幸せという話でもありません。
自分が好きなこと。
家族との時間。
健康。
働き方。
住む場所。
誰と仕事をするか。
人生には、お金では測れないものがたくさんあります。
だからこそ、
自分が何を大事にしたいのかを決めることも、マーケティングの一部なのかもしれません。
どの市場で勝つかを決める前に、
そもそも自分は何を勝ちとするのか。
それを決めなければならない。
年収を上げたい人もいる。
時間を増やしたい人もいる。
好きな場所で働きたい人もいる。
家族との時間を優先したい人もいる。
大きな組織で大きな仕事をしたい人もいれば、一人で小さく自由に働きたい人もいる。
ゴールが違えば、選ぶ市場も、身につける能力も、取るべき戦略も変わります。
noteも、自分と社会との接点を確かめる場所
マーケティングを仕事として学ぶと、
市場を見る癖がつきます。
相手を見る。
自分を見る。
競合を見る。
変化を見る。
仮説を立てる。
試す。
反応を見る。
修正する。
この考え方を、会社の商品やサービスだけに使うのは、少しもったいない気がします。
自分のキャリアにも使える。
学びにも使える。
働き方にも使える。
人生の選択にも使える。
そして、うまくいかないときに、
「もっと自分が頑張らなければ」
という一つの答えしか持たずに済むようになる。
市場を変えてもいい。
見せ方を変えてもいい。
届ける相手を変えてもいい。
自分の強みの組み合わせを変えてもいい。
ときには、その場所から離れてもいい。
そう考えられるだけでも、人生の選択肢は少し増える気がします。
私は、マーケティングを人生に使おうと思って始めたわけではありません。
必要に迫られて、自分の年収を考え、自分の市場価値を確かめ、足りないものを取りにいった。
後から振り返ると、
それがマーケティングだった。
というだけです。
そして、今続けているnoteも、少し似ているのかもしれません。
毎日の仕事の中で感じたことや、うまく言葉にならなかった違和感を、自分なりに整理して書いてみる。
自分の考えを外に出してみる。
誰かが反応してくれる。
思ってもいなかったところに共感してもらえることもあれば、
自分では面白いと思っていたものが、思ったほど届かないこともある。
その反応を見て、また考える。
少し変えて、また外に出してみる。
そう考えると、noteは私にとって、
自分と社会の接点を確かめる、小さな実験の場所
なのかもしれません。
そこで書いたものが、誰かの仕事のヒントになったり、
「自分も同じことを感じていた」と思ってもらえたり、
そこから新しい出会いや仕事につながったりする。
そんなふうに、
自分と社会の間に、何かしらの価値が生まれるといいな。
と思いながら、今も続けています。
マーケティングは、商品を売るための技術だと思っていました。
でも今は、
自分と社会の間に、価値が生まれる場所を探し続ける技術
でもあるのかもしれないと思っています。
だとしたら、
マーケティングを仕事でしか使わないのは、やっぱり少しもったいない。
