史実と全然違う?!映画「エリザベス」の嘘
1998年公開の映画「エリザベス」
イングランド黄金時代を築いたとして、日本でも人気の高いエリザベス1世の前半生を描いた作品です。
ケイト・ブランシェットが若き日の女王を演じ、その圧倒的な演技で国際的な称賛を浴びました。
ジョセフ・ファインズ演じるロバート・ダドリーと、エリザベスのダンスシーンなどは息を呑む美しさです。
しかし、これほど美しい映画も、実は嘘に満ちているのです…
「エリザベス」あらすじ
1558年、イングランドは宗教対立で混乱の極みにあった。
エリザベスは、異母姉メアリー女王への反乱を疑われ、ロンドン塔へ投獄されてしまう。
処刑の恐怖に怯えるエリザベスだったが、メアリーの死後、25歳で女王に即位。今度は、国内外の陰謀や暗殺の脅威にさらされる。
周囲からは早急な結婚を迫られるが、彼女には愛する人、ロバート・ダドリーがいた。
しかし、ロバートには重大な秘密があり…
「エリザベス」の嘘
エリザベスのロンドン塔収監
映画では、「裏切り者の門(Traitor's Gate)」をくぐり、ロンドン塔へ入場したエリザベスは、粗末な衣服で地下牢のような場所へ収監されます。
この時、エリザベスに上着を差し出す優しい老紳士が、Granada TV版「シャーロック・ホームズ」のワトソン博士役だったのが熱いです!

出典:https://frockflicks.com/tbt-elizabeth-1998/
史実でも、エリザベスは確かにロンドン塔に一時収監されましたが、収監と言っても、塔内の王族居住区の一角にある4部屋もあるアパートメントに留め置かれたにすぎませんし、使用人までついていました。
収監というより「保護」とでも言うべきでしょう。
もちろん、「裏切り者の門」を通った記録もありません。
アランデル伯の処刑
先ほども少し触れたワトソン博士ことエドワード・ハードウィックが演じたアランデル伯。
映画の中ではカトリック派の陰謀に加担したとして、反逆罪で処刑されてしまいました。
しかし、実際の彼はリドルフィ事件への関与を疑われて逮捕されたものの釈放され、1580年に自然死したとされています。
ちなみに、映画で陰謀の主役となるカトリック司祭ジョン・バラード役を演じているは、若き日のダニエル・クレイグだったりします!

出典:https://www.imdb.com/title/tt0127536/characters/nm0362570/
史実のジョン・バラードは、バビントン事件に関与したとして逮捕され、大逆罪で処刑されました。
リドルフィ事件は1571年、バビントン事件は1586年と、間に10年以上の開きがありますが、映画ではこれらを一つの事件として再現したのでしょう。
メアリー1世の描写が酷すぎる
この映画におけるメアリー1世は、完全にプロパガンダをもとにした描写になっており、もはや悪意すら感じます。
「後に黄金時代を築くエリザベス」との対比をしたかったのかもしれませんが、あまりに敬意を欠いていると言わざるを得ないでしょう。
実際のメアリー1世は、父ヘンリー譲りの赤みがかった金髪に青い目をしていたとされています。
しかし、なぜか現代の映像作品では、ブルネットや黒髪、暗い色の目の女優さんが起用されることが多いようです。
映画では、不健康で精神的にも不安定と思わせる演出がされています。
メアリーが想像妊娠を経験したことは事実であり、実は腫瘍だったのではないかという説があることは事実です。
しかし、恒常的に不健康であったり、精神的に不安定だったという記録はありません。

出典:https://thehistoricalnovel.com/2018/07/10/everything-wrong-with-elizabeth-1998/
ただ、メアリーがエリザベスに対して放つセリフ「大した役者ね(I see you are still a consummate actress.)」は、エリザベスの人生を知れば知るほど、的を得た表現と思えます…
メアリー1世は、「ブラッディ・メアリー」などと長年揶揄されてきましたが、近年ではその功績が再評価されつつあります。
イングランド初の女王として、「女王統治大権法」を成立させるなど、彼女が築いた礎があったからこそ、エリザベスは「バージン・クイーン」を貫くことができたのです。
夫フェリペ2世との関係も、通説では、「フェリペに夢中なメアリーと、年上の妻に興味がなく冷たい夫」と描写されがちであり、映画もそれを踏襲しているようです。
確かに、2人の間には11歳もの年の差があり、残念ながらフェリペが情熱的にメアリーを愛したことはなかったようです。
それでも、フェリペは彼なりに敬意を持ってメアリーに接していたというほうが真実に近いと言えます。

出典:https://theartsyfilmblog.com/2012/07/07/tudors-sarah-bolger-is-once-upon-a-times-sleeping-beauty-for-season-2/
実際、結婚直後の2人について、「世界一幸せなカップルに見えた」という記録が残っているほどです。メアリーが亡くなった際も、妹への手紙に「それでも私は彼女を恋しく思う」と書いていることからも、彼女に対する敬意はあったと言えるでしょう。
メアリー1世についてもっと知りたい方は、是非こちらをご覧ください!
樫の木の下で即位を知った?
伝説では、ハットフィールド・ハウスの樫の木の下でメアリー崩御と、自身の即位の知らせを聞き、「これは神の思し召しです」と言って驚いたとされるエリザベス。映画でも、この場面が美しく描かれています。

出典:http://themovieseasons.com/movie-news/2014/3/11/movie-of-the-day-elizabeth-1998
しかし、これは限りなくフィクションの可能性が高い伝説です。
確かにハットフィールド・ハウスには、現在でも「エリザベス即位の木」と記された樫の木があります。
しかし、この木が正式な記録に登場したのは19世紀のことで、エリザベス即位から3世紀も後のことです。
それに、エリザベスはもう何年も前から、自身が王位を継承する可能性を自覚していたはずです。メアリーの体調は1558年秋には深刻な状態となっており、11月には既に余命いくばくもないことが明らかでした。
子どものいない彼女が亡くなれば、自分に王位が回ってくることは、既に分かっていたことでしょう。
ちなみに、「樫の木」と言いますが、英語ではOak=楢の木なのですが、なぜか日本では樫の木と言われるようです。
ロバートが既婚者だと知らないわけない!
エリザベス最愛の人として、現代までその名を残すロバート・ダドリー。
実は彼が、エイミー・ロブサートという女性と結婚していたというのは、周知の事実です。
映画では、忠臣ウィリアム・セシルからロバートの結婚を知らされたエリザベスはショックを受け、2人の関係は破綻します。
しかし、エリザベスがロバートの結婚を知らなかったというのはあり得ません。

出典:https://historicalanachronism.wordpress.com/2012/11/12/elizabeth-1998-queen-of-hearts-queen-of-inaccuracy/
ロバートがエイミーと結婚した1550年、ダドリー家は既にエドワード6世政権の中枢に入り込んでいました。
エドワード自身が、ロバートの結婚式の様子を日記に残していることからも、彼が式に出席したことは明白です。
王自身が出席するほどの重要な結婚の事実を、エリザベスが知らなかったということはあり得ないでしょう。
ロバートとエイミーの結婚は恋愛結婚であったと言われています。
後に「妻殺し」の疑いをかけられたロバートですが、結婚当初は妻を愛していたということなのでしょうか。
答えは神のみぞ知る…
映画では、ロバートは女王の寵愛を完全に失い、これをきっかけにエリザベスはバージン・クイーンへと変貌を遂げます。
しかし、実際のロバートは、1589年に亡くなるまでエリザベス最愛の人であり続けました。
セシルとウォルシンガム
ウィリアム・セシルとフランシス・ウォルシンガムは、エリザベス1世即位時から彼女を支え続けた忠臣です。
映画では、口うるさいセシルをエリザベスが煙たがり、最後にはバーリー男爵位を与えて隠居を勧めていました。

出典:https://www.imdb.com/title/tt0127536/characters/nm0000277/
しかし、実際に折り合いが悪かったのはエリザベスとウォルシンガムです。
そんな2人の調整役として間に立っていたのがウィリアム・セシルであり、彼は、77歳で亡くなるまでエリザベスをそばで支え続けました。
エリザベスにとっても、最も信頼できる家臣だったと言えるのではないでしょうか。
史実に沿ったところはある?
エリザベスのビジュアルと戴冠式の衣装

出典:https://www.bbc.co.uk/bitesize/articles/z86rdnb
これはかなり再現度が高いです。
肖像画と比較しても、もしや本人?と思うほどのクオリティではないでしょうか。

強いて言えば白塗りが少し足りないかな?
エリザベスは、少し鉤鼻で、赤みがかった金髪、広いおでこ、母譲りの黒い瞳であったと言われます。
ケイト・ブランシェットはほぼ完璧にこのビジュアルを満たしていますよね。目は黒くない気がするけど。
それにしてもかなり高い再現度です。
本当のエリザベス1世はどんな人?
映画は、伝説としてのエリザベスをこれ以上ないほど美しく描き出しています。
しかし、一人の女性、君主としてのエリザベス1世は、伝説からは見えない苦悩や孤独を抱えていました。
エリザベス1世の真実が気になった方は、是非こちらをご覧ください!
参考文献
Christopher Haigh, "Elizabeth I"
Anna Whitelock, "The Queen's Bed: An Intimate History of Elizabeth's Court"
John Guy, "Elizabeth: The Later Years"
Sarah Gristwood, "Elizabeth and Leicester"
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