見出し画像

一度は諦めかけた声の仕事が700件に。心理士ナレーターの「健やかに続ける」働き方

声優養成所の卒業審査に落ち、一度は声の仕事を諦めかけた日和みか子さん。宅録と出会って再開し、2021年の活動開始から5年で700件以上の実績を積み上げました。現在は臨床心理士・公認心理師として働きながら、子育てと並行して宅録ナレーター・声優を続けています。この記事では、養成所で表現することが嫌いになりかけた時期から、単価と働き方を組み替えて「健やかに続ける」形にたどり着くまでを聞きました。

この記事でわかること

  • 声優養成所で挫折してから、宅録ナレーターとして再開するまでの経緯

  • 心理士とナレーターを兼業する働き方と、両者に共通する「翻訳」という技術

  • ココナラでの受注がキャラクターボイスではなくナレーション8割になった理由

  • 出産・子育てと両立しながら収録時間を確保する具体的な工夫

  • 「健やかに続ける」ために、単価と納期をどう組み替えたか

履歴書は、してきたことを書く紙です。けれど、なぜそこにいるのかまでは書けません。
どうして声の仕事を選んだのか。一度離れたとしたら、それはいつで、戻った理由は何だったのか。続けるために、何を諦めて、何を変えたのか。マイクの前に立つまでに、その人が通ってきた道があります。

「マイク前の履歴書」は、ナレーター・声優にその道のりを聞き、一枚の履歴書として書き起こす連載です。書式は自由。職歴の順番も、空白期間も、伏せずに載せます。
ナレーター界を盛り上げるべく始動したメディアプロジェクト『hitocoe』がお届けします。インタビュアーはFurunoです。

今回は、ナレーションからキャラまで七色ボイスを自在に操る、日和みか子さんです。

【日和みか子さん】
多彩な声色と表現力、そして大学院で臨床心理学を専攻し培った「人のこころ」に寄り添う感性を武器に、宅録ナレーター・声優として活躍中。
2021年の活動開始以来、700件以上の実績を持つ。
舞台俳優や地域FMパーソナリティの経験も活かし、ナレーションからキャラクターボイスまで、お客様の希望に寄り添うオーダーメイドの声を届けている。

【ナレーション実績】
日本大学、クレディセゾン、極楽湯、花畑牧場、DMM WEBCAMP、和歌山県 農林水産部 など

【キャラクターボイス実績】
Nintendo Switch『ラブラブスクールデイズ』(中野 役)、Nintendo Switch『魔神少女4〜届ける想い〜』(フェノメノ 役)、リアル脱出ゲーム『君と願う、夏の夜』(水森鈴華 役) など

HP: https://hiyori-mikako.studio.site/
インスタグラム:https://www.instagram.com/hiyorimikako/
X: https://x.com/hiyorimikako

胸に秘めた声優への憧れ、そして「全部叶える」と決めるまで

Furuno:ナレーターになるまでのいきさつを教えてください。

日和:元々小学校くらいの時からアニメとかゲームがすごく好きで、そのころから「声優になりたい」という気持ちがあったんですけど、その当時の声優さんってもうすでに顔出しをしたり歌って踊っている時代だったんです。

そんな声優に憧れていた気持ちとは裏腹に「私なんかが…」という気持ちがあり自分に自信が持てないところもありました。自分の夢をなかなか周りには言えず、ずっと心に秘めたままでいました。

高校の頃、演劇部に入りました。地方に住みながら声優になるためにできることをしたい、という思いでした。演技を勉強し始めて、声優になるためにはやはり東京に出ないといけないということを知り、今活躍している声優さんたちがどうやって声優になったのか、など色々調べました。その時から東京の大学を受験することを考え始めてました。

高校最後の演劇部の大会で主役をやることになったんですが、頑張りすぎちゃって声が出なくなり、ポリープができかけたんです。当時、発声などを教えてくれる人がいなくて無理のある発声をしてしまっていたんですね。

「このまま出し続けたら手術になるからしゃべんないほうがいいよ」とお医者さんに言われましたが、大会自体はなんとかやり切りました。しかしそれから「半年くらいできるだけしゃべるな」と先生に言われてしまいました。声が出せなくなり、その間はどう発声していたか、どうしゃべっていたかもわからなくなりました。

受験もはじまっていっぱいいっぱいになってしまい、東京の大学を受験しなくちゃと思ってたんですけど自信がなくなっていました。さらに親から提示された条件として、私立だったら地元である宮城から出たらダメ、東京に行くなら国公立と言われ、ごちゃごちゃになり受験はうまくいかずでした。結局いきたかったところは全部受からなくて、自分としては不本意だった大学に行くことになってしまい、やさぐれました(笑)

Furuno:やさぐれるんですか!?みか子さんがやさぐれる様子がまったく浮かびません!(驚)

日和:「どうせ私なんて」という気持ちでした。声を出すのが怖いという感覚がしばらく続きました。それでも、何をしてても声優になりたいという気持ちは消えませんでした。

「何かできることはないか?」と考えていた時にちょうど地元にある劇団の研修生の募集があったので応募し、大学に行きながら1年間通いました。大学も在籍していたのが教養学部で演劇のゼミがあったりして、そこに入って卒業公演をやったりもしました。東京ではないですが地元でいろんな人に学び、基礎を習得してスタミナをつけ、その後発声などは自信が持てるようになりました。

ラジオ番組を運営する学生団体にも所属。収録の様子

その一方で、自分が不本意な進学先を選んだという後悔と、声優になりたいという気持ちが膨れあがっているのをこれ以上無視することはできなくなっていました。心理学の専攻だったのですが、もっと学びたいことがあって、他のところでも学びたい気持ちもありました。

全てを叶えるには東京に行かないといけない。働きながら、時間がかかってもいいから挑戦してみようという気持ちで東京の大学院に進学して、そこを卒業してから声優養成所に行きました。「全部やらないときっと後悔する」という気持ちがあったんですよね。

表現を見失った養成所、そして宅録ナレーターとして再出発するまで

日和:養成所では色々なことをやりました。ナレーションが強い事務所だったので、ナレーションは勿論、演技、ダンス、アフレコ、外画の吹き替えなど広く教えてもらえるところでした。働きながらというのもあり夜間の部の授業に週3回出て、週4回自主練習をしていたので、実質週7で2年間通いました。

Furuno:わぁ!!週7はすごすぎます!

養成所時代。仲間と切磋琢磨していた日々

日和:そこはとても厳しい世界でした。容姿も声もすごく比較されるんです。
表現することがすきだったり、やりたいと思ってきたはずなのに、なんでやっているのかわからなくなってしまって。ずっと比較されて自分に自信が持てなくなって、好きだったこともきらいになるくらいだったら「もうやめてしまおうか」と思っていました。

そんなタイミングで卒業審査があり、実力が伴わなかったというのもあり結局事務所所属のオーディションには落ちてしまいました。「じゃあもうやめよう」となりました。

Furuno:心が折れてしまったんですね。

日和:一番になりたい、すごくお金が稼ぎたいとか、認められたいってわけじゃなくて、ただ好きだからやりたかったのにと思いました。嫌いになるくらいだったら、お金とか仕事じゃなくてもボランティアでもなんでもいいから続けていける形はないかなあと、その頃から模索しはじめました。

大学を卒業してから心理士という仕事をはじめたのですが、仕事自体も好きだったので、心理士を中心にしつつ「声でできることってないのかな?」と探していたときに、たまたま宅録というものがあると聞いたんです。2021年の秋頃、コロナ禍真っ只中に、もよさん(森野燿子さん)の宅録講座を受けました。「こんな世界が!?自由に録音ができる!」と感動しました。

養成所では言われた通りにやって、期待に応えるという形しか知らなかった。宅録ではそうじゃなくて、自分でボイスサンプルを作ってもいいし、やりたかったことをやっていいんだと感じ、宅録講座を受けていてすごく楽しかったんです。

お金にしようとか、これで食べていくんだっていうのはまったくなく、まずはココナラでの出品から始めてみました。仕事がとれ始めて忙しくなり、単価をあげてみようとしていくうちに、こうやって声の仕事が育っていくんだ!ということが少しずつ実感できて嬉しくなりました。こういうスタイルで声の仕事ができることは私にとっては嬉しいことだったので、今はより活動しやすいように環境を整備していこうと思っています。

心理士と、声と、子育てと。たどり着いた「柔軟」という働き方

Furuno:今、ココナラ含めてトータル何件くらいお仕事してますか?

日和:ココナラだけで460件、全て含めると700件以上です!

Furuno:素晴らしいですね!この中にはリピーターさんもいらっしゃいますかね?

日和:はい、いらっしゃいます。長くリピートしてくださっている方々になんとか支えられています。

Furuno:心理士のお仕事もされながらだったと思うんですけど、時間の使い方とか大変だったと思うところはありますか?

日和:心理士のお仕事は最初週6くらいで働いていました。声の仕事は完全に趣味で始めた形で、夜とか隙間時間でやっていました。最初は自分の声にも自信がなくて「本当に満足してもらえるんだろうか?」とか「修正してくださいと言われたらこの日対応できないな」とかそんな不安の中でやっていました。

でもやっぱり両方やっていきたい。そう思ってちょっとずつ心理士の仕事を減らしてみたり、週3にさせてもらったりして宅録の時間を増やしていき、都度都度調整してやってきました。

Furuno:声のお仕事が増えてきて、そういった対応もできたんですね。

日和:そうですね、当初はまったく考えていなかった世界でしたが、1件でも仕事できたら幸せという感じでした。しかしちょっとずつ案件も増えていって忙しくなり、「余裕をなくしてまでやりたくはない」という気持ちも出てきました。

でも生活していくためにはお金も必要。その時には子どもも生まれて、生活の時間も変わってきた。さてどうしていこうかと考えて時間を調整してきました。最近はその時の仕事の感じとか子育てとかも含めて考えて、働き方自体も柔軟に変えていったりしたほうがいいなという結論に落ち着きました。

Furuno:柔軟に、ですね!

日和:カッチリ決めずに働き方を変えていけるようなスタイルでいたいなと今は思っています。

ココナラで広がった世界。「他人の視点」から「自分の視点」へ

Furuno:ココナラのなかで印象に残っているお仕事ってありますか?

日和:ココナラってすごくおもしろくて私の世界を広げてもらえた場所だって思うんです。

元々声優になりたかったというところからキャラクターボイスを出品しはじめたんですけど、実は結果的に受注しているのはナレーションが8割くらいで、2割くらいがキャラクターボイスという形です。自分が思っていなかった方面から仕事が来ることが多くて「私こんな仕事もできるんだ!」と自分の幅を広げてもらったのが一番大きいです。

ジャンルも幅広くありました。キャラクターボイスで言えば企業のキャラクター、海外のアプリゲーム、個人の方が作ったゲームの声とか、専門学校の卒業制作のアニメーションのキャラクターに声をあててほしいというのもありました。

ナレーションもかためのEラーニングがくることもあればイベントの盛り上げる声の依頼もあり、「声ってそんなふうに使われることもあるんだ!」ということがたくさんありました。

どの仕事も印象的で、養成所にいた時に積み重なっていた「こうあるべき!」「私はこれしかできない」みたいな凝り固まった考えがなくなっていきました。

明るい表情が印象的な日和みか子さん。声にも人を惹きつける魅力が乗る

Furuno:お客様から「こういう声が求められているんだな」と教えていただくことってありますよね。

日和:本当におもしろい世界ですよね。声って色々な形があって、第一線でバリバリとテレビでナレーションしてる方もいらっしゃるし、テレビの世界以外にもプロからアマチュアまで色々なナレーターやクライアントさんがいて、表現ってすごく自由なんだなぁと思いました。ココナラは私の視野を広げてくれましたね。

Furuno: 養成所などで幅広く学ばれたバックボーンがあるからこそ、ココナラでもそんな結果が出ているのかなと思いました。養成所にいた頃と今とでは、自由さの体感ってどんなふうに違うのでしょう?

日和: 養成所の時は、教える先生がいて自分は生徒という立場ですから、その期待に応えなければならない。言われたことを全部飲み込んで、それを見せに行く場だったので、どんどん視野が狭くなっていってしまって。「言われたことが全部正しい、自分は間違っている」というかたちでやっていると、演技もどんどん小さくなっていくんです。

もちろんプロの方に見ていただいているので、よくなっていく部分はあると思うのですが、「ナレーションとはこういうものだ」「演技とはこういうものだ」というものが、たくさん自分の中に入り込んでしまっていました。表現すること自体がだんだん楽しくなくなって、あの頃は「どうしたら気に入ってもらえるか」ばかり考えていたんだろうなと思います。

今は、自分が持っているものを活かしていこうという気持ちになれた気がします。第一線で活躍されている方は本当にすごくて、そこに届くか届かないかでいえば自分には無理だなと思うこともたくさんあります。でも、自分自身にも、クライアントさんにも、「自分の声、商品をこういう人に届けたい」というのがあると思うんですよね。

養成所にいた頃は、「先生にどう気に入られるか」という、他人の評価を軸にした“他人の視点”で考えていました。でも今は、「自分の声を、誰に、どう届けたいか」を自分で決める“自分の視点”に変わったんです。漠然と先生に気に入られようとするのではなく、「誰になら届けられるかな?」と考えてサンプルを作ってみたり、環境を整えたり。人に合わせるのではなく、自分を起点に声を活かしていく——それが私にとっての自由なんだと思います。

子育てと宅録の両立。限られた時間で最高のテイクを生む工夫

Furuno:素晴らしいですね。先ほどもお話に出ましたが、お子さんが生まれたのは昨年の夏くらいでしたか?

日和: 昨年の7月ですね。あっという間で、ちょうど10カ月になります。

Furuno:お子さんが生まれてから、宅録との向き合い方に変化はありましたか?

日和:使える時間が限られてきますよね。宅録をされている方はママさんがすごく多いと思うんですけど、うちも今までは私と旦那の二人暮らしでした。今は保育園に預けられているものの、そうでないときは日中ずっと一緒なので、仕事をしたくてもできないし、夜も「この時間に寝てほしい」と思っても寝てくれるとは限らなくて。予測が立たないところにもどかしさを感じています。

日中、子どもを見ながら仕事や原稿のことを考えることはできても、結局手は動かせないんですよね。結果的に仕事とプライベートを分けられなくなってしまって。「これはまずいかも」と思うくらい、その切り分けの難しさをすごく感じるようになりました。

Furuno:お子さんも見ていなくちゃいけないし、仕事もあるしと考えると、板挟み状態ですよね。わかります!

日和: そうなんですよ。なかなか自分の中でうまくいかなくて、今まで通りにやろうとするのですが、仕事も一定して来るわけではないので、そこも少し不安で。子どもがいる中で働いていくとなると、ペースの保ち方もまた変わってきます。新しく「自分の家族らしい生き方」を探っているところなんだと思います。

Furuno: そのために工夫されていることはありますか?

日和: 時間を大切にするようになりました。

Furuno: 私も始めた頃は「収録時間を確保しなくては」という危機感があったので、とてもわかります。

日和:「収録できる時間はどこか」をいつも意識するようになりました。以前はだらだらと収録して、納得いくまで何度も録り直していたんです。でも、繰り返せば繰り返すほど、かえって何が良いのか分からなくなってしまう。生産性を考えると、いかに早く終わらせるかがすごく大事だと感じています。

原稿のチェックも、前はその場でやってから収録していたんですけど、今は隙間時間にチェックして、読みの練習も軽く何回かしておいて、本番の時間をできるだけ短くするようにしています。

練習なら、子どもがいてもなんとかやろうと思えばできなくもないですよね。そういう時は旦那が見ていてくれて。上の階でバタバタされていても編集ならできるので、収録の時間は前より集中してやるようになったのかなと思います。

Furuno:ご主人が見ていてくれるのは安心ですね! ご協力あってこそ、というところはありますよね。

日和:そうですね。ありがたい限りです!

「健やかに続けたい」。やりがいと単価、その先の展望

Furuno:みか子さんは2021年から宅録を始められたので、今年で5年ですよね。

日和:そうですね。最初の1、2年はカメの歩みでしたが、「続けていきたい」と思えるようになったのは、ここ2、3年くらいですね。

Furuno:その間に、養成所の頃とは何か心境の変化があったと思うのですが、「続けていきたい」と思えた要因は何かありましたか?

日和:月並みなんですけど、やっぱりやりがいですね。自分の声を使ってもらえる嬉しさ、それも思ってもみなかったことに役立ててもらえたりして、その一つ一つが楽しくて、毎回新しい世界を見せてもらえるなと思います。

それと並行して、単価も少しずつ上げていきました。最初はすべてお客様に言われたことをそのまま引き受けるという感じでやっていたんです。でも、それだとまただんだん嫌いになって、どんどん苦しくなっていって。好きなことなのに、どうして期待に応えられないんだろう、と落ち込んだ時期もありました。

続けていくためには、自分も大事にされないと続かないですし、お客様の言うことを全部飲み込むのも悪いことではないけれど、それでは私が続けていけない。だったら単価は今いくらが適切なのか、納期も「明日ください」と言われると、生活や旅行中まで不安になってしまう。そうではなく、いかに健やかに続けていけるか。そのためにはどうしたらいいかと考えていたのが、2、3年前だったと思います。

Furuno:「こんなに役に立てているなんて」というワクワクがある一方で、「嫌いになったら嫌だな」という気持ちもあって、そのために単価を上げてこられたんですね。では、みか子さんが描いているこの先の展望をうかがいたいです。

日和:「どんなふうに実現していけたらいいか」は、10年くらいかけて考えていくことかなと思っているんですけど、やっぱり心理士の仕事と声の仕事は、これからもずっと続けていくんだろうなと思います。その2つは自分を支えてきてくれたものなので、2つがつながる仕事は、私にとってものすごくやりがいを感じられるんですよね。

医療系や教育系の案件をいただいて、それを声で表現できる。それが企業の活動を応援することにつながったりするのは、どちらか片方だけでは味わえなかったことだと思います。2つがつながるような仕事、両方やっている私だからこそできることで、何か貢献していけたらいいなと思っています。

それがナレーションという形なのか、司会としてイベントをお手伝いする形なのか。そこはまだ模索中ですが、その2つをつないで、心のケアや、子どもが自分らしく生きていくこと——そういうところに貢献できる何かを探していきたいと考えています。

Furuno:「みか子さんだからできるよね」というものが、これから一層具体的に見えてくるといいですよね。

日和: ありがとうございます。そうなったらいいなと思いつつ、「これだ」と言いきれるものは、まだ自分の中でもなかなか見つからなくて。でも、続けていくうちにいつかつながっていったらいいな、という感じですね。

決めてしまうと苦しくなるんです。何度も決めようとしては、やっぱり「なんか違うぞ」と毎回なってしまって。いろいろ経験しながら、自然につながっていったらいいな、という感覚です。

いかに健やかに仕事を続けていけるか。朗らかな表情の裏には仕事の哲学が光る


相手の世界に言葉を合わせる「心理士 × ナレーター」の翻訳力

片岡:ここからは僕も参加させていただきます!

「この活動を続けていくために何をするか」「嫌いにならないためにこうしていこう」という取り組み、とても共感しました。みか子さんがされている心理士って、どういうことをされるのですか?

日和: けっこうマイナーですよね、普段生活していると出会わないと思うんですけど。

私の場合は最近までスクールカウンセラーをしていて、学校に行って子どもや親御さんの話を聞いたりしていました。病院では小児科で、入院している子のところに行って話を聞いたり、学校に復帰するときに「誰に何をどう伝えるか」を整理したり、親御さんが心配している部分を先生に伝えたり。

職場によってやることは全然違いますね。基本的にはメンタルケアが軸ですが、話を聞いたり、いろいろな年代の人と話したりすることが多かったです。でも、そこは声の仕事にも活きているかなと、ちょっと思います。

片岡: カウンセラーさんと資格は同じなんですか?

日和: 資格は少し複雑なんですけど、「カウンセラー」という呼び方自体は誰でも名乗ることができるんです。勉強して取得する資格としては臨床心理士と公認心理師があって、私はその両方を持っています。これがあると、行政や病院といったところで働きやすいんです。

片岡: カウンセラーや心理士さんとなると、傾聴のスキルが大事になってくると思うので、それがナレーションにも活きるんじゃないかなと思いました。

何を伝えるにしても、自分というフィルターを通してはじめて、ナレーションの声になる。だから、しっかり受け止める傾聴のスキルは、心理士とナレーターという仕事の相性的にも、すごく強みになるんだろうなと、聞いていて思いました。

日和: ありがとうございます。そうだったらいいなと思います。

病院で心理士として働いていた時代

片岡:そういうことを、ナレーションしているときに実際に感じたりしますか? たとえば映像を見ながらナレーションすることがあると思うんですけど、その映像をしっかり受け止めて、出演者が話していることに耳を傾けて、「こういうことなんだろうな」と自分の中で濾過したうえで声に出している——そんなふうに感じたことはありますか?

日和: それは確かにあります。

相手に傾聴していくと、毎回「何が起こっているんだろう」と考えるんですよね。この人は今どう思っていて、これまでにこういう経緯があって、今こういう状況にある。だからこうなっているのかな、と整理しながら、「こういう方向に向かっていけたらいいね」と考えています。

そういう意味では、全体を把握して、伝えたいことがどこに詰まっているのかをロジカルに考える部分もあると思います。それがナレーションの仕事に活きているというのは、確かに感じることがあります。

片岡:ナレーションも、映像全体を俯瞰して把握したうえで、「この部分ならこういう読みになるよな」と考えて、それによって声の出し方も変わってくるじゃないですか。傾聴って、結局は相対している人を読解するのに必要なスキルだと思うので、ナレーションを読むときにも、あったほうが断然いいスキルですよね。

日和: そうですね。その点はあまり考えたことがなかったのですが、ある意味「ヒアリング」のほうでは活きていると思っていたんです。クライアントさんといつでも直接話せるわけではないので、短いやり取りでも、メールでできるだけ端的に相手の思っていることをくみ取って、相手に合わせてよりよいコミュニケーションをしていく。そこに関しては「心理士をやっていてよかったな」と感じていました。片岡さんにそう言っていただいて、実際に表現するときにも、こういう形で活かしていたのかもしれないなと思いました。

片岡: 最高のホスピタリティですよね。相手への、原稿への、映像への。

日和: そうだったら嬉しいですね! そういう視点で考えたことはなかったです。

片岡: カウンセラーさん、心理士さん、ナレーターさんって、やっていることは同じなんですよね。ナレーターなら、読む映像。心理士さんなら、クライアントさんの話を整理して、要約して、ポンと提示してあげる。

日和: はい! まさに!

片岡: きっとそうですよね。そのために、優しい橋渡しというか、「翻訳」をしてあげる。相手の言語に翻訳して、わかりやすく提示してあげる仕事なのかなと思ったので、実は同じことをしているんじゃないかなと思いました。

日和: うれしいです!

「翻訳」という感覚は、心理士の仕事をしているときに感じていたことなんです。話す相手がどういう世界で生きていて、どういう言語で話しているか。それに合わせて、子どもならもっと言葉をこうしようとか、知的水準の高い方なら、その水準に合わせて言葉を選んで話す、ということがありますね。

まさにおっしゃるとおり「翻訳」はすごく意識していたので、ナレーションでも同じことが起きていたらいいなと思います。ナレーションでは、まず「この作品で何が大切か」「相手にどう見せたいからこうしているのか」を最初に考えます。そのためにはこういう声の感じだよね、と。そんな順序でやっていた気がします。

片岡: すごい!

日和: できているかは別なんですけどね(笑)。

片岡:でも、やろうとしていること自体が素晴らしいです。ナレーターや声優って声を出す仕事、原稿やセリフを読む仕事なので、「読むだけ」になりがちなんですよね。読解を挟まずに、それっぽい雰囲気で読めば、うわべをなぞるだけになってしまう。

まず「どういう仕組みでここがこういう表現になっているのか」を紐解こうとすること自体、かなり高度なことだと思います。素晴らしいですね。

役者として培った読解力と、養成所で広がった引き出し

日和: 私はもともとナレーションから入ったタイプではなくて、演技や舞台をやっていて、そこから養成所、という経緯なんです。「脚本の読み込み」はずっと言われてきました。そのセリフが誰にかかっていて、その先の展開の山場に、手前のここがこう引っかかっている——そういうことが大事だったりするので。山場に持っていくために、どこをどう運んでいくか、ということを先生から教わりました。そういう視点で見るのが好きなのかもしれません。

片岡: なるほど。やっぱり役者出身というのが関わっているんですね。役者視点というか。

日和: 「その作品を作るためにどうするか」という感じで見ているのかもしれません。

片岡: 養成所ではどういうところが一番学びになったと感じていますか?

日和: 特徴的だったのは、語りの授業がかなり多かったことですね。先生によってやることが全然違って、朗読を扱う方もいれば、テレビのナレーション原稿を持ってくる方もいる。ナレーターなら知っているような、助詞を落とす読み方や鼻濁音といった基礎を集中的にやる先生もいたり。いろいろなスタイルに触れることが多かったです。

それにとにかく対応するのですが、その授業ではその先生の言うとおりにやる、でも先生ごとに言うことが違う。当時の自分にはまったく逆のことを言われているように感じて、「誰を信じればいいのか分からない」という感じで授業が進んでいくのは、ちょっと苦痛でしたね。

でも今思えば、それぞれの個性や経験、見てきたものを活かしてやっていくということで、さっきの「自由」という話ともリンクするというか。活かし方は人それぞれあるんだと、その幅を広げてくれたような気がします。

片岡: それが今のみか子さんの基礎になっている感じですか?

日和: そうですね。授業はたくさんあって、舞台、アフレコ、吹き替え、ダンス、歌などを繰り返していく感じでした。いろいろなものをつまみ食いしていたのも、宅録の世界ではやってよかったなと思います。

どんな仕事が来ても「あのときやったな」と思えるものがあったので、活かされている感覚があります。私は「声優もナレーターもやります」と打ち出しているので、個人の方から企業の方まで、幅広く、いろいろなグラデーションの方がお仕事をくださいます。そういうときに対応しやすいなと思っています。

養成所時代。あらゆる表現の世界を学んだ


目指すのは、AI時代でも「健やかに働き続ける」未来

片岡: 今後、みか子さんはナレーターとして、声優として、「ここに特化していきたい」というものはあったりするんですか?

日和:Eラーニングのキャラクターボイスなどをたまに受注するんですけど、私は「ナチュラルで聞きやすいキャラクターボイス」が得意ということで発注いただくことが多いなと感じています。

ずっと声優をやってきたという方に頼むと、演技が強すぎたり、感情を込めすぎたりすることがあるなと思うんです。逆にナレーターさんだと、もう少し感情やキャラクター性がほしいところでマッチしないこともある。なので、その中間くらいが自分は得意なのではと、最近考えはじめています。

Eラーニングや企業系のキャラクター説明のような仕事は、自分を活かしていける道なのではと思っています。

片岡: 同じような枠の方って、思い当たったりしますか? ご自身の周りで。

日和: 私が存じ上げないだけかもしれませんが、そこを打ち出している方はあまりいないなと思っていて。「ナレーターです」「声優です」のどちらか、という感じで、けっこう二極化している印象があります。

さっき「心の仕事とつなげていきたい」という話をしましたが、そう考えると、教育や福祉、行政に携わる仕事は、意外とこういうスタイルが向いているのではと思います。アニメーションを使うけど、聞きやすい声で、いろいろな方に向けて発信する、聞きやすい演技が求められると思うので、そのあたりを開拓できないかなと思っています。
あとは「自分の生きていく道は何だろう」とずっと考えていて。やりたい人がたくさんいる世界ですし、AIも台頭してきている。そのなかで、健やかに働きながら、なおかつ自分のやりたい方向に進んでいくにはどうすればいいんだろう、という日々です。

片岡:「健やかに働いていく」、キーワードですね!

日和: 一番になって億万長者になりたいわけではなくて。好きなときに旅行に行けて、家族との時間も取れて、お金の不安もない——そういう働き方ができれば幸せです。

片岡: 最高! 僕も同じです!

日和: 片岡さんはすごく旅行に行かれていて、素敵だなと思っていて、指針にしているんです!

片岡: 恐れ多いです(笑)、ありがとうございます。

みか子さんがお仕事を取るためのルートって、ココナラやクラウドソーシング系のほかに、何かあったりしますか?

日和:意外と、営業はこれまで全然してきていないんです。登録型のナレーター事務所にはいくつか登録していますが、それ以外だと、SNS経由で制作会社さんから来ていただく、という感じですね。本当は、もう少し自分から開拓していかなければ、と思っています。

片岡: 今の時点で、みか子さんの声の仕事の収入には、けっこう満足されている感じなんですか?

日和: 出産前までは比較的安定していたんです。「このまま続けばいいな」と思っていたのですが、産んでからはココナラを一時止めたり、動けない時期があったりして、そこから少し落ち込んでいて。そういう意味では、これからアクションを取っていかないといけないなと思って、模索しているところです。

片岡: ご出産前くらいの状態に戻していきたい感じなんですか?

日和: そうですね。そのくらいに戻して、できればもう少し安定させたいですね。人によって全然違うと思うんですけど、年収ベースで「だいたいこれくらいもらえたらいいな」というのが何となくあるので、そこに向かっていけるように、と。

営業をかけていくのか、海外案件に踏み出してみるのか。ただ、やりすぎると子育てをおろそかにしそうな自分もいるので、長いスパンにはなりますが、無理なく続けていける道を探していこうと思っています。

片岡:一番楽なのは、紹介でお仕事をもらうことだったりするので、ナレーターさん同士のネットワークをつなげておくといいのかもしれないですね。

「あの声といえばみか子さん」というイメージをいろいろなナレーターさんに持ってもらえれば、そのナレーターさんが自然とお仕事を運んできてくれる。制作会社さんにつないでくれることもあったりします。

僕も今、紹介でお仕事をもらうことが多くて、すごく助かっているんです。ナレーターさんとの横のつながりを増やしていく、というのもいいかもしれないですね。

日和: 確かにそうですね。そこはあまり意識してこなかったのですが、いろいろな方とつながっていくことは少し考えていたところなので、前向きにやっていきます!

家族とともに、健やかに働いていく。日和さんの仕事への姿勢には、しなやかさと誠実さが宿る


編集後記 by Furuno

「挫折と感じていても、続けていけば光が見える」。心を揺さぶられるあのしなやかな表現力は、人々の心と向き合ってきた心理士としての豊かなホスピタリティ、そして養成所という熾烈な環境でさまざまなジャンルに触れ、重ねてきた努力——この掛け算が、みか子さんの素晴らしい声を作り上げているのだと感じました。そして「健やかに続けていく」という言葉は、多くの方に共通するテーマではないか、とも感じました。

インタビュアー・記事:Furuno
校正・編集:片岡あきら

hitocoeメンバーシップのご案内

hitocoeではnoteメンバーシップを運営しています。
より深い学びと充実したナレーターコミュニティをご用意しています。
まずはコミュニティ参加のプランと、
営業に本腰を入れるプランの2プラン。
ぜひご参加ください。
https://note.com/hitocoe/membership/join

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集