撫でる手が止まる〈1分で読める小さな物語〉
朝、ストーブをつけるほどでもない寒さが、
部屋の床にだけ残っていた。
カーテン越しの光は白く、
時間がまだ動き出していない感じがする。
🐾 🐾 🐾
猫が膝に乗ってきた。
いつもと同じ重さのはずなのに、
今日は少し、存在感がある。
背中を撫でると、
手のひらが途中で止まる。
毛が増えた、というより、
空気ごと抱えているみたいだった。
「……増えたね」
独り言みたいに言うと、
猫は返事の代わりに、
小さく喉を鳴らした。
冬毛。
そういえば、そんな季節だ。
寒いとも、
あたたかいとも、
猫は何も言わない。
ただ、丸くなって、
呼吸だけをこちらに預けてくる。
私はもう一度撫でようとして、
やめた。
触ると、この静かな状態が
少し崩れてしまいそうな気がしたから。
猫の体温が、
服の上からじわっと広がる。
部屋はまだ冬で、
でも、困るほどではない。
しばらくして、
猫が小さく伸びをして、
膝から降りた。
「もう行くの?」
問いかけは、
答えを待たない形で落ちる。
床に戻った背中は、
さっきより少しだけ遠い。
冬毛は、もう私の手の中にはない。
それでも、
あの重さの感覚だけが、
しばらく残っていた。
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