『まだ始まっちゃいねえよ』
先日、北野武監督の名作キッズ・リターンを観直したんですね。
観たコトも聞いたコトも無いわ、っていう人がいたら今すぐ観てほしい。
観始めると胸の奥が妙に熱くなって夜も眠れなくなるんですよ。
カッコつけたポエムをはじき出している場合じゃないレベルの、圧倒的な重圧感と哀愁がそこにはある。
今回は、この映画が持つ輝きと残酷さについて、俺の無い頭を使って熱く深く語っていこうと思います。
(ネタバレ注意)
物語の主軸はマサルとシンジという高校生。
学校をサボって屋上でプラプラし、カツアゲをしてる問題児です。
周りからは終わってると言われて社会からはみ出しているけれど、本人たちはどこ吹く風で一台の自転車に二人乗りしてゲラゲラ笑いながら走ってる。
その姿がすっごく生々しくて、どこか羨ましくもあるのよね。
そんな二人の運命が、仕返しに連れてこられたボクサーにマサルがボコボコにされたトコロから動き出す。
リベンジを誓ってジムの門を叩くマサルと、なんとなく付いていくシンジ。
ところが現実は意地悪い。
勝つと息巻いていたマサルよりも、付き添いで始めただけのシンジの方が圧倒的な才能を秘めていた不条理が発覚する。
スパーリングであっさり殴り倒されたマサルは己の限界を悟ってジムを辞めてしまう。引き際の良さはヘタレ。
マサルはヤクザの世界へ足を踏み入れ、残されたシンジはボクシングのプロを目指してのめり込んでいく。
ここからの二人の対比が、久石譲の神がかったメインテーマに乗せて描かれていく。あの音楽、マジで天才的。
軽快でワクワクするリズムなのにどこか切なくて、未来の破滅を予感させる不思議なメロディ。
シンジはリングで勝ち星を挙げ、期待の新人としてスターダムを駆け上がる。一方のマサルも、ヤクザの縦社会で度胸を武器に出世していく。
二人ともそれぞれの世界でゴーゴートゥーザトップだな、なんて思わせておいてからの、奈落の底への突き落とし方が本当にエグい。
人間、ちょっと上手くいき始めると、自分は天才なんじゃないかって勘違いして足元が見えなくなる。
シンジの前に現れたのは、ジムの先輩であるハヤシというおちゃらけ野郎。コイツがまた悪魔の囁きをかましてくるワケよ。
真面目に減量に励むシンジを夜の街へ連れ回し、不健康なやり方を刷り込んでいく。
シンジは意思が希薄だからズルズル流されてしまい、下剤に頼った無茶な減量で体をボロ雑巾にされ、試合で無残にKO負けを喫して未来をブチ壊される。
一方のマサルも、若さゆえの慢心からヤクザのボスに噛み付き、凄惨なリンチに遭う。腕に深い傷を負わされ、すべてを失ってカタギに放り出されるハメになる。
うはぁ、ちょっと気持ち悪いくらいに容赦がない。
正義なんて自分勝手なモンだし悪が勝つわけでもないけれど、一番恐ろしいのは、若者を使い捨てにする汚い大人たちの社会システムそのものなんだなぁ、と痛感させられるワケです。
夢を見て突っ走った若者が、世界のルールに絡め取られて自滅していく。これ、現実の社会でもザラにあるからタチが悪い。
俺だって社会に出て、理不尽な壁にぶち当たって、あ~~〜って頭を抱える日もあったしな。
だけど、この映画がただのネガティブな末路を描いた映画で終わらないのは、周りの同級生たちの描き方が秀逸だからです。
真面目に就職してタクシー運転手になった不器用な奴は社会のストレスで事故を起こして消えてしまう。
その一方で、いつもつまらない漫才をやっていて馬鹿にされていたお笑いコンビ。
こいつらだけが、どれだけ冷たい目で見られようが自分たちの意思を曲げずに泥臭く舞台に立ち続けた結果、最後にはそれなりに売れてテレビに出ている。
才能があるから成功するわけでも真面目だから報われるわけでもない。
ただ、自分の足で立って泥をすすっても動き続けられた奴だけがほんの少しの希望を掴み取れるっていう、裏返しのリアル。
そして、すべての夢が破れ、傷だらけになった二人が数年ぶりに再会するラストシーンへと繋がっていく。
向かったのは、かつて飛び出していった高校の校庭。
誰もいない場所で、彼らは昔と同じように一台の自転車に二人乗りをしてぐるぐると回り始める。
輝きはもうないし傷だらけのはずなのに、ペダルを漕ぐ足だけは確かにあの頃のままで。
そこでシンジがぽつりと呟く。
「俺たち、もう終わっちゃったのかなあ」
その言葉に対するマサルの返し。
ここだけは、俺の人生全てのエネルギーを注ぎ込んで叫たいくらいの凄まじい重圧感を持ったセリフ。
「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」
もうね、涙腺崩壊。
この一言にどれだけの絶望と、それ以上の救いが込められていることか。客観的に見れば状況は最悪、ただのプー太郎に戻っただけ。
だけどマサルはまだ始まっちゃいねえと言い切った。
自分たちが終わりだと認めない限り、人生のスタートラインなんて何度だって引き直せるんだと。
その言葉を発した瞬間の二人の笑顔には、間違いなくあの頃の全能感が戻っていた。

俺は楽しい環境に自分を置くことがあまり好きくない人間だから、こういう、泥の中から前を向くスタイルの映画が心の底から愛おしくてたまらないワケです。
一度失敗したくらいで、マイナス思考に逃げ込むのは大甘ちゃんもイイトコロ。
何が起きても変じゃないこの時代、無理して遠回りしてでも、何度だってペダルを漕ぎ始めればいいじゃん、って。
今回はこの辺で。
明日が心配ですが、気合いでなんとかしようと思います。
誕生日は今月だったりしますが、まぁ次回の更新は来月以降というコトで。
