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著…横溝正史『金田一耕助ファイル6 人面瘡』

 『眠れる花嫁』、『湖泥』、『蜃気楼島の情熱』、『蝙蝠と蛞蝓』、そして表題作の『人面瘡』をまとめた短編小説集。


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 『眠れる花嫁』は、一見、この作品集の中で最もロマンチックなタイトルに見えます。

 しかし、わたしが思うに、これは「ロマンチック」とは真逆の作品です。

 異様で、生々しく、残酷。

 性欲や金銭欲に駆られた人間の醜悪さが描かれています。

 ページ数は決して多いほうではないですし、比較的淡々とストーリーが展開するのですが、わたしには強烈なインパクトを残しました。

 また、この作品を読んでいると、自分も事件現場にいて、登場人物たちと一緒に腐臭を嗅ぎ、遺体に群がる虫の羽音を聴いているような心持ちがして、吐き気を催しました。

 そして、正体不明の何かが自分の背中を這いずり回っているかのような嫌悪感があって、ゾ〜ッとしました。

 なにより、「人間」という生き物の正体がよく分からなくなって、困惑しました。

 人間というのは、自分さえ良ければ、他の人間に対してここまで残酷なことが出来る生き物なのだろうか?

 と…。

 人間という生き物には、良い面もありますが、悪い面もあります。

 その悪い面というのが、ことに、殺人事件の現場では浮き彫りになりますよね…。

 しかし、金田一耕助はどれほど凄惨な事件においても、飄々としながら謎を解いていきます。

 …金田一自身がおかしくなることは無いのでしょうか?

 こんなに深い、人間の心の闇ばかりを覗いて。

 きっと、それらを目の当たりにする好奇心や勇気が無ければ、殺人事件の真相を暴くことなど出来ないのでしょうが…。

 闇に呑み込まれずにいるのは大変そうです。

 もし、「罪を犯す人間」と「罪を犯さない人間」のボーダーラインがあるとしたら、そのラインはとても曖昧であり、金田一はそのラインにとても近いところにいるのではないでしょうか。

 一体、どうやって正気を保っているのでしょう?

 …それとも、本当は金田一も、とっくに狂っているのでしょうか?

 時には、犯人を挑発することだってありますし…。

 本当は、正気の人間なんてどこにもいなくて、みんなどこかが多かれ少なかれ狂っていて、その狂い具合が今自分のいる社会にとって「犯罪」と見なされるか否かの違いしか無いのでしょうか…?

 …わたしはそんなことを考えた後、いちからこの作品を読み返したら、更にゾ〜ッとしました。

 なお、この本に収録されている他の作品にも、人間の浅ましさが描かれています。

 ある者は、猟奇的殺人を選んだ。

 ある者は、保身に走って倫理から外れた。

 ある者は、色欲に溺れて身内をも欺いた…。

 この本を読んでいると、普段は目を背けている人間の業を、まざまざと見せつけられたようで、わたしはとても嫌な気分になりました。

 しかし、同時にこうも思いました。

 もしかしたらこれこそが人間の本質なのかもしれない、高尚ぶったところで所詮人間なんてこの程度の生き物なのかもしれない、けれどこの本質を受け入れた上でそれでも誰かとお互いに思いやって生きられるよう努力していきたい…、と。

 だって、こんなに殺人事件ばかり起きる金田一シリーズでさえ、登場人物全員が道を踏み外すわけではないのですから。

 善良な人間はいます。

 きっと、現実世界でだってそう。

 ラインを踏みかけたところで思いとどまったり、ラインを踏んでしまってもそれ以上進まずにいられる人間はいます。

 自制心や良心という、心のブレーキを育てる努力をするのは、決して無駄なことではありません。

 わたしは人間という生き物のことを、そう信じたいです。



 〈こういう方におすすめ〉
 グロテスクな描写のある小説が好きな方。
 探偵モノの推理小説をお探しの方。
 金田一耕助シリーズのファン。

 〈読書所要時間の目安〉
 8時間くらい。

 

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