【U-NEXT】『夢』(1990)映画感想文・黒澤監督が晩年に到達した至高の「人間賛歌」
人の夢の話というのは、正直言ってあまり興味を惹かれるものではありませんが、黒澤監督の夢ならばどんなものなのかぜひ拝見したいと思い鑑賞しました。
80歳という人としての晩年を総括されたように感じる一作でした。

あらすじ
黒澤明が、自分の見た夢をもとに撮りあげた全8話で構成されるオムニバス作品。黒澤を師と仰ぐスティーヴン・スピルバーグとジョージ・ルーカスが製作に協力し、ワーナー・ブラザースが配給を担当、まさに世界のクロサワならではのスケールの大きな作品。様々な夢に不安と希望を織り交ぜ、文明社会への批判と人間の自然とのかかわりの大切さを説いたこの作品は、黒澤明が一貫して追及してきたヒューマニズムの結晶といえる。
監督 : 黒澤明
1990年製作/120分/日本・アメリカ合作
配給:ワーナー・ブラザース映画
劇場公開日:1990年5月
感想(ネタバレ含む)
「こんな夢を見た」という静かな書き出しから始まる全8編の物語は、一見するとそれぞれ独立した無関係なエピソードの羅列のようにも思えます。
しかし、全編を通してじっくりと味わっていくと、そこには「死」という共通したテーマが極めて強く、そして多角的に意識されていることに気づかされます。
幼少期を描いた「日照り雨」や「桃畑」では、不可解な世界への戸惑いや切腹を命じられる恐怖といった、幼い頃に誰もが覚える漠然とした死への恐怖と神秘が美しい色彩とともに描かれます。
そして物語が進み主人公が大人になるにつれ、雪山での極限状態や復員兵たちの亡霊と対峙する場面など、戦争や事故がもたらす生々しい死の恐怖が迫ってきます。
さらに「赤富士」や「鬼の慟哭」では、エゴや文明の暴走によって自然をおろそかにし、自らの手で破滅へと向かっていく人類の愚かさと、それに伴う極限の死への畏れが描かれており、その描写は現代を生きる私たちにとっても恐ろしいほどのリアリティを持って迫ってきます。
しかし、死の影に彩られた重厚な物語でありながら、この映画が決して絶望だけで終わらないのは、黒澤監督ならではの人間に対する深い愛があるからでしょう。
最後の「水車のある村」において、名優・笠智衆演じる老人の語りを通して提示されるのは、自然に対する惜しみない敬意と、黒澤監督の考える「人間のあるべき理想の姿」でした。
老人は、生きることは時に苦しいが、それ以上に楽しく面白いものであると語り、自然の理を受け入れればむやみに死を恐れる必要はないのだと静かに説いてくれます。
この温かな言葉によって、それまで描かれてきた死の恐怖は優しく包み込まれ、私に大きな救いを与えてくれました。
死の不可避さや文明の危うさを鋭く見つめながらも、最後まで人類への希望を捨てず、生を肯定する本作は、まさに黒澤監督が晩年に到達した至高の「人間賛歌」と呼ぶにふさわしい一本であると深く実感しました。
それでは、また次の映画で!
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