エッセイ | 青春未満の花火大会
空に弾ける音がする
誰も傷つけない銃声音
たくさんの破裂音が交差する
息子は今
どんな空を見上げているのだろう
◇ ◇ ◇
打ち上げ花火が始まった時、私はひとり自宅で、26度のエアコンに晒されていた。
息子は今日を楽しみにしていた。友達と行く、地元の花火大会。
着るものを、昨日の夜から準備していた。畳んで準備しておけばよいものを、リビングの床に、等身大に広げてある。
ズボンの左右の裾の下には、靴下もセットしてある。
それはまるで、オシャレなアパレルショップの店頭に飾ってある、マネキンのないコーディネート見本のようだ。
花火大会は、息子の頭の片隅ではなく、脳内いっぱいに広がっているんだなぁ、としみじみ思う。
花火大会当日、私が仕事から帰ると、リビングに広げてあった等身大の服たちは、息子の身体に装着されていた。気のせいか、息子の動きに合わせて、Tシャツがはしゃいでいるように見える。
昨日の夜にもシャワーを浴びたけど、さっきまたシャワーを浴びなおした、と報告を受けた。
いつもは洗いざらしの髪に、毎朝違う方向に寝ぐせを作り出し、それをぴょんぴょんとバウンドさせている息子。その彼が、今日は自らの髪の毛に、トリートメントを施したという追加報告も受けた。
その気合いの入れようを、まだ母に報告してくるあたりがかわいい。
会場の近くまで、車で送ることになっている。
そろそろ出発という段になって、思い立ったように、リュックサックにマンガ本を何冊か詰めている。さらに、自宅に何個かあるハンディファンの中から、ピンク色のを選んでそれも詰める。
それらの、私から見たら???な行動は日常茶飯事。念のため、一度だけ指摘してみる。
花火大会にマンガ本いる?
ピンク色の扇風機でいいの?
こういう指摘はいつからか、あまり意味がないことに気づいている。何が必要なのか、何を選ぶのか、それは、とっくの昔に意志を持ち始めた息子が決めることだ。
こうして息子は、子育て中のイクメンに負けないぐらいに、リュックサックを膨らませて出発した。
息子が行動をともにする今日のメンバーは、男の子も女の子もいる。その中には、「普通」に収まりきらない息子に、いつも優しくしてくれる女の子がいる。
待ち合わせ場所に着くと、浴衣を着たその子がいた。浴衣の袖が、彼女の動きに合わせて、楽しそうに揺らめいていた。
宝物を探し当てたように友達を見つけて、息子は車を降りて行った。申し訳程度に、運転席の私に手を振り、瞬く間に友達の中に混ざって行った。
地元の祭りにはいろんな世代の人が行き交っている。そして、息子たちみたいな青春未満の、何かが芽生え始めている年代の子たちもたくさんいる。
息子に友達がいる。それだけで嬉しい。
息子に好きな子がいる。それがとても尊い。
所属したい場所がある幸せ。
一緒に楽しいことをしたい人がいる。
一緒に楽しんでくれる人がいる。
こんな時にこそ思う。
生まれて来て良かったね。
産んで良かった。
大袈裟だけど、そう思う。
まだまだ子どもだけど、青春未満だけど、
息子の世界の中で、今日はビッグイベント。
どこにでもあるような、でも息子にとっては大きな体験を、応援したり、後ろからそっと一緒に楽しんだりするのが好き。
◇ ◇ ◇
私のいる自宅からは花火は見えない。
ただ、音だけが鼓膜に盛大に響いている。
軽やかな銃声音は連射に変わり、クライマックスを知らせている。
私は、ほどよく冷えた部屋でその音を聞きながら、息子の「そろそろ迎えに来て」を待っている。
青春未満の花火大会が、もうすぐ終わろうとしている。
