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良かれと思った人事施策が“空振り”に終わる理由〜「他社の成功事例」という甘い蜜から抜け出し、“自分たちらしい答え”を見つける思考のヒント〜


↓同じ内容でAIポッドキャストもありますので、耳で聴きたい方はこちらからどうぞ!(所々で少しおかしな言い回しがありますが、ご了承ください)

なぜ、組織の中で「無用の長物」が増えてしまうのか?

「鳴り物入りで導入したはずの人事制度が、いつの間にか誰も使わない“お飾り”になっている…」
「流行りの研修を取り入れてみたものの、現場の行動は何も変わらない…」
「高額なサーベイツールを導入したけれど、出てきた数値を眺めて溜め息をつくだけで一年が終わってしまった…」

人事や経営に携わり、自社をより良くしたいと真剣に考えている方ほど、こうした経験に胸を痛めたことがあるのではないでしょうか。

かけた時間と想いは確かなもの。それなのに、組織はなかなか変わらない。現場からは「また何か新しいことを始めたな…」と、少し距離を置かれているように感じてしまう。

決して怠けているわけでも、能力が足りないわけでもないのです。むしろ、真面目で情熱的な方ほど、ある種の「落とし穴」にハマってしまうことが少なくありません。

なぜ、こうした“うまくいかない状況”が、多くの企業で繰り返されてしまうのでしょうか。

それは、組織を良くしていくための、とてもシンプルで大切な「順番」を見過ごしてしまっているからかもしれません。その順番とは、

① 私たちの組織が目指すゴール(To-be)と、今の姿(As-is)との間にあるギャップは何か?
(=課題発見)

② そのギャップを埋めるために、私たちにとって最適な打ち手は何か?
(=施策立案)

この①と②のステップを丁寧に踏む前に、外部の「キラキラした成功事例」や「流行りのツールやソリューション」に飛びついてしまう。その結果、自社の風土に合わない施策が生まれ、いつの間にか成果に繋がらない取り組みが増えてしまうのがあるあるの光景です。

今回は、そんな悩ましい状況から抜け出し、本当に組織の力になる一手を見つけ出すための思考のヒントを、一緒に探求していきたいと思います。

ついやってしまいがちな「課題の思い込み」と「施策の“借り物”」

まず、私たちの思考がどんな「クセ」に陥りやすいのか、少しだけ立ち止まって考えてみましょう。多くの“空振り”施策は、課題発見と施策立案のフェーズにおける、二つのパターンから生まれています。

1. 「それは結果であって、本当の原因ではないかも?」〜現象に惑わされるパターン〜

「ウチの課題は、若手の離職率が高いことです」
「エンゲージメントサーベイのスコアが低いのが問題でして…」

会議でこういった言葉が出ると、みんなが「そうだ、そうだ」と頷きやすいですよね。しかし、これらは課題の「根本原因」というより、水面に現れた「結果(現象)」に近いのかもしれません

例えば、キッチンから煙が出ている時、私たちは「煙が出ていること」を問題にしませんよね。「火元はどこだろう?」とコンロやレンジを確認するはずです。

組織も同じです。離職率が高いのはなぜでしょう?給与などの待遇面の問題でしょうか、それとも人間関係でしょうか。キャリアが見えないことへの不安でしょうか。エンゲージメントが低いのは?マネジメントへの不満、事業の将来性へのモヤモヤ、それとも日々の業務が忙しすぎることへのSOSサインでしょうか。

この「なぜだろう?」という問いを丁寧に繰り返さないまま、「離職率が高い」→「じゃあ、1on1を導入しよう」と施策に飛びついてしまうと、的外れな打ち手になってしまう可能性があります。

まるで、火元を確認せずに、やみくもに消火器を撒いているような状態になってしまうのです。

2. 「お隣の成功事例」という魅力的な響き 〜施策を“借りて”きてしまうパターン〜

根本原因の探求を少しだけ急いでしまうと、私たちは次に、外の世界に「簡単な答え」を探しにいきたくなります。

「最近よく聞くDX研修って、ウチにも合うでしょうか?」
「A社さんが導入して成功した、あの評価制度について詳しく知りたいです」
「エンゲージメントサーベイなら、どこの会社のものが評判良いですか?」

もちろん、外部の新しい情報や他社の知見に学ぶことは、非常に大切です。しかし、気をつけたいのは、自社の課題という「土台」を固める前に、他社の成功事例という「素敵な家」を建てようとしてしまうことです。

考えてみれば当然ですが、A社で成功した制度は、A社の歴史や文化、事業の状況、働く人たちの価値観といった、その会社ならではの土壌があってこそ花開いたものです。その土壌を無視して、制度という“植物”だけを持ってきても、私たちの会社の違う土壌に、うまく根付くとは限りません

この段階で外部のベンダーさんに相談すると、彼らはもちろんプロですから、最新のトレンドを交えながら、とても魅力的な提案をしてくれます。しかし、もし私たちが「自分たちの課題はこれです」という明確な軸を持っていなければ、提案されるがままに、自社の状況に100%はフィットしないかもしれない施策を選んでしまうことになりかねません。

こうして、「自分たちが本当に困っていることが何なのか、言語化しきれていない私たち」と、「自社のサービスで力になりたいと願うベンダーさん」との間に、少しだけボタンの掛け違いが起こってしまうのです。

なぜ私たちは「プランをください」と言いたくなるのか?

「何か良いプラン、ありませんか?」
「他社の事例、教えてもらえませんか?」

忙しい日々の中で、つい口にしてしまいがちなこの言葉。その裏には、「考えることの難しさ」と向き合う、私たちの真摯な気持ちが隠れています。

自分たちの組織の理想の姿を心から描き、今の姿とのギャップを正直に見つめ、その原因を深く掘り下げていく。このプロセスは、時に痛みを伴います。自分たちの組織の、あまり見たくなかった側面や、これまで先延ばしにしてきた問題と向き合わなければならないからです。それは、経営者や人事担当者にとって、大きなエネルギーを必要とする仕事です。

だからこそ、私たちは無意識に、その大変さを少しでも和らげてくれる「確かな答え」を探したくなる。その気持ちは、痛いほどよく分かります。

  • 他社の成功事例は、暗い道を進む私たちにとって、希望の光のように見えます。「あそこで上手くいったのなら、きっと大丈夫」と、少しだけ安心したいのです。

  • 専門家であるベンダーさんの提案は、心強い道しるべに感じられます。「プロが言うのだから、きっとこれが正しいはず」と、信じたい気持ちになるのは自然なことです。

しかし、この「誰かに答えを委ねたい」という気持ちに寄りかかりすぎてしまうと、組織にとって最も大切な「自分たちで考える力」が、少しずつ弱まってしまうかもしれません。

組織の課題は、一人ひとりの健康と同じです。熱が出た時、お隣さんが飲んで効いた薬を、自己判断で飲むのは少し怖いですよね。まずは、自分の体をよく診てもらい、なぜ熱が出ているのかを診断してもらった上で、自分に合った薬を処方してもらうはずです。

組織も全く同じ。私たち自身のことを一番よく知っているのは、他の誰でもない、私たち自身のはずです。

“自分たちらしい答え”を見つけるための、はじめの一歩

では、どうすれば「借り物」ではない、自分たちの組織に根付いた施策を生み出せるのでしょうか。特別な魔法は必要ありません。当たり前のステップを、少しだけ丁寧に、仲間と一緒に行うだけです。

そのための3つのヒントをご紹介します。

ステップ1:私たちの「羅針盤」を持つ 〜「私たちはどこに向かっているんだっけ?」を共有する〜

全ての旅のはじまりは、目的地を決めることから。まずは、「私たちの組織の理想の姿」を、みんなで改めて言葉にしてみませんか?

  • 3年後、5年後、私たちの会社は、お客様や社会に対してどんな価値を届けられるチームになっていたい?

  • その未来を実現するために、どんな強みを持った組織になる必要があるだろう?

  • そこで働く私たちは、どんな価値観を大切にし、どんなスキルを活かして輝いているだろう?

  • みんなが「この会社で働けて良かった」と思えるのは、どんな文化や環境が整っている時だろう?

こうした問いについて、経営層や人事だけでなく、現場のリーダーや若手社員も交えて、ワイワイと話し合ってみてください。そうして生まれた共通の想いが、今後のあらゆる判断の拠り所となる「羅針盤」になります。

ステップ2:私たちの「現在地」を知る 〜理想と現実のギャップを見つめる〜

羅針盤が手に入ったら、次は「今の私たちが立っている場所」を正確に把握しましょう。理想の姿と、今の姿。その間にある「ギャップ」こそが、私たちが取り組むべき課題のヒントになります。

ギャップを探す際は、ぜひ「数字のデータ」と「生の声」の両方に耳を傾けてみてください。

  • 数字のデータ:
    離職率やサーベイのスコア、従業員数の推移、採用や育成にかかるコストなど、客観的に組織の状態を示してくれるもの。

  • 生の声:
    社員へのインタビューや日々の1on1での会話、現場のマネージャーが感じていること、退職する社員がそっと教えてくれた本音など、数字には表れない大切な気持ちや背景。

特に重要なのが「生の声」です。

数字は「何が起きているか」という事実を教えてくれますが、「なぜそれが起きているのか」という背景やストーリーは、人の言葉の中にしかありません。現場に足を運び、一人ひとりの想いを丁寧に聞く。この地道な活動が、課題の本当の原因を見つけるための、一番の近道になるはずです。

ステップ3:私たちの「航路図」を描く 〜打ち手を「仮説」として、小さく試してみる〜

目的地(理想)と現在地が分かれば、取り組むべき課題(ギャップ)がたくさん見えてくるでしょう。でも、焦る必要はありません。全てを一度に解決しようとせず、まずは「これを解決できたら、一番インパクトが大きいかな」「これなら、みんなで協力して始められそう」という基準で、取り組む課題の優先順位を決めましょう。

そして、その課題に対する打ち手を考える時、大切な心構えがあります。それは、打ち手を「絶対の正解」と考えずに、「こうすれば、きっと良くなるはずだ」という「仮説」として捉えることです。

例えば、「若手が自分の成長を感じられていない」という課題に対し、「メンター制度を導入すれば、先輩との対話を通じて成長実感が湧くはずだ」という仮説を立てる。

そして、いきなり全社で導入するのではなく、まずは一つの部署で試してみる。スモールスタートで小さく始めて、大きく育てる方が労力も少なく検証もしやすいものです。まずやってみて、参加者の声を聞きながら、もっと良くするにはどうすれば良いのか考え、正式な社内制度のような形にしていきましょう。

このプロセスを始めると、他社の事例やベンダーさんの知見が、これまでとは全く違った形で役立ち始めます。自分たちの「こうしたい」という軸があるからこそ、提供される情報をそのまま鵜呑みにするのではなく、「この部分は参考にさせてもらおう」「ウチなら、こうアレンジすると良さそうだ」と、主体的に活用できるようになるものです。

外部のパートナーは、車の運転を代わってくれる運転手ではありません。最新の地図を見せてくれたり、車の調子を整えてくれたりする、頼れるナビゲーターであり、メカニックです。ハンドルを握り、仲間と会話しながら目的地を目指すドライバーは、他の誰でもない、私たち自身です。

答えを探す旅から、問いを育てる旅へ

組織をより良くしていく旅は、簡単ではありません。決まった正解も、近道もありません。

でも、だからこそ、やりがいがあるのではないでしょうか。自分たちの頭で考え、仲間と対話し、試行錯誤しながら一歩ずつ前に進んだ先には、どんな高価なツールでも手に入れることのできない、かけがえのない宝物が待っています。それは、「自分たちの力で未来を創ることができる」という実感と、変化を楽しみながら学び続ける組織文化です。

このVUCA時代に必要なのは、「どこかにある答え」を探し続けること以上に、「私たちにとって、本当に大切な問いは何か?」を、みんなで育てていくことなのかもしれません。

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