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ケニアで野生のライオンを探したら、マサイ族の暮らしが見えてきた

Searching for Lions, Discovering Maasai Life


『ライオンキング』を45回観たら、本物を見たくなった

先週の記事で、ミュージカル『ライオン・キング』を45回観たという話を書いた。

https://note.com/humanexlab/n/nfb175e817fcc

45回も観ていると、近年の私にとって『ライオン・キング』は、
単に「好きなミュージカル」ではなくなっている。

何かの節目に観たくなる。
原点というか、初心に還るための「通過儀礼」のような存在になりつつある。

そんなわけで、今年も元旦に『ライオン・キング』を観た。
(多くの人が元旦に初詣に行くのと似たような感じかもしれない)

そして劇場を出たあと、ふと思った。
「本物のサバンナで、野生動物たちを見てみたい」。

45回も舞台の上で見てきたあの世界を、
一度、自分の目で見てみたくなったのだ。

行き先として真っ先に浮かんだのは、ケニア。
さっそく、エミレーツ航空のドバイ経由、ケニア行きの航空券を予約した。

ところが、その後ホルムズ海峡周辺の情勢が不穏になり、
予定していた便が飛ぶのかどうかも不透明に。

それでも「行かない」という選択肢にはならず、
黄熱病のワクチンを打ち、最終的にはルートを変更して、エチオピア経由でケニアへ入った。

「サバンナに行けば、ライオンに会える」わけではなかった

ケニアに行って、初めて知ったことがある。

ひとくちにサバンナに暮らす野生動物といっても、「珍しさ」は全然同じではない。

これまでライオンも、シマウマも、キリンも、象も、私にとっては等しく
「動物園でしか会えない大型動物」だった。

でも、ケニアでは違う。

シマウマは、宿泊したホテルの庭を当たり前のように歩いていた。
もちろん野生だ。
キリンや象も周辺の林の中にいる。

ホテルの庭に遊びに来たシマウマたち

昨日までは通れたのに、翌朝にホテルを出発しようとしたら、
夜のうちに象が木をなぎ倒していて通れない、という体験もした。

初日は、動物園でもないのに大型動物が目の前を歩いていることに感動したのだけれど、
翌日にはそれが「当たり前」になって、特段驚かなくなった。

人間の慣れって意外と早いんだな。

キリンは、遠くからでも発見しやすい!

ところが、ライオンやチーターとなると、話はそう簡単ではない。

野生のライオンやチーターを見たいと思ったら、
広大なサバンナを丸1日かけてサファリカーで走り回りながら、
かなり本気で探索しなければならないのだ。

「ライオンが出た!」その瞬間、一斉に走り出す


私が訪れたのは、ケニア南西部に広がるマサイ・マラ。

ケニア側は「マサイ・マラ国立保護区」と呼ぶけれど、
国境を越えたタンザニア側には「セレンゲティ国立公園」が広がっている。

野生動物に国境は存在しないから生態系としてはひと続きなのだけれど、
人間にとっては「国境」という目には見えない壁がある。

ケニアとタンザニアの国境。
この置き物(?)より向こうがタンザニア

そこで、お弁当を持って早朝にホテルを出発し、
できるだけタンザニアとの国境に近いエリアまで行き、
あとは百戦錬磨の現地のガイドさんたちを頼りに、ライオンやチーターを探す。

ガイドさんとドライバーさんは、始終、無線で情報を交換しながら探索を続ける。
何を言っているかさっぱりわからないけれど、ムード満点だ。

「どこかでライオンが出たらしい」となれば、
無線の声のテンションは一気に上がるし、
周辺にいるすべてのサファリカーが一斉に
そのポイントに向かって、道なき道を全速力で走る。

座っていてもどこかにつかまっていないと吹っ飛びそうな勢い。
ぬかるんだ場所では、オープンになっている天井から、タイヤが跳ね上げた泥まで降ってくる。

なんだかものすごく楽しいぞ。

ライオンをめざして
集結したサファリカーたち

なぜライオンは、サバンナの奥へ移っているのか

ところで、現地のガイドさんの話によると、
ライオンやチーターの生活圏は、以前よりサバンナの奥へと移動していて
年を追うごとに出会うのが大変になっているそう。

その背景のひとつにあるのが、
マサイ族の人たちの生活スタイルの変化だという。

ケニアを車で走っていると、ナイロビを少し離れたあたりから、
牛の群れを連れて歩いている人を頻繁に見かけるようになる。

「シュカ(shúkà)」と呼ばれる、
独特の赤いチェックの布をまとったマサイ族の人たちだ。

マサイ村の人々
全員親戚だそう!

ただ道端に佇んでいる人もいれば、
牛を一頭だけ連れている人、何十頭もの群れと歩いている人もいる。

こうした牧畜は、もともとマサイ族の暮らしの中心にあるものだけれど、
以前は、雨や草、水を求めて家畜とともに移動するスタイルが中心だったそうだ。

しかし、土地の個人所有化、定住化、農地化が進む中で、
マサイ族の人々の生活スタイルも、
かつての遊牧的な牧畜から、定住型の牧畜や農牧複合型へと変化してきた。

その結果、起こった変化がおもしろい。

どうやら、ライオンが、牛がいるエリア=人間の活動が多いエリアだと認識して
奥地へと移動していったらしい、というのだ。

調べてみると、近年のマサイ・マラ周辺の研究でも
牛の密度が高い場所ほど、ライオンの存在確率が下がり、
実際にその日には牛がいなかった場所でも
こうした傾向が確認されているそうだ。

研究者はこれを
人間活動による “landscape of fear(恐怖の景観)” だと説明している。

人間の暮らしが変われば、野生動物が暮らす場所も変わる。
そして、人間はライオンを恐れているけれど、ライオンも人間を恐れている。

実際にケニアで見えた、マサイ族の人々のリアル

「マサイ族」と聞いて
「アフリカの奥地で伝統的な生活を続ける民族」という
イメージを抱く人は少なくないはずだ。

一方、冷静に考えてみると、アフリカには数多くの民族集団があるのに
なぜマサイだけが、これほど世界中の人に知られているのだろう。

実際、最近では、スマホを使ったり、
YouTubeやSNSで積極的に発信したり、
観光客を相手に仕事をしたりする人たちも珍しくない。

日本のメディアなどでは、観光客向けにマサイ文化を見せることで
収入を得ている人たちを「ビジネスマサイ」と呼ぶこともある。

でも実際にケニアへ行ってみると、私が驚いたのはむしろ、
現在でも伝統的な牧畜や生活様式を続けている人たちを
ごく普通に目にすることだった。

私自身、赤い布をまとって牛を連れて歩くマサイ族の姿は、
どこか観光向けにつくられた「マサイのイメージ」なのだと思っていたところがあった。

ところが、実際にケニアを車で走っていると、その光景が何度も何度も現れる。

「観光客に見せるための風景ではなく、本当にここにある日常なんだ」

そのことが、意外だった。

電気も水道もない家で、20秒待ってみた

サバンナへ向かう途中、あるマサイの村を訪ねる機会があった。

小学校のグラウンドくらいのエリアに、土や牛糞などを使って造られた
平屋の家が、円を描くように15〜20軒ほど並んでいる。

牛の糞でできた家
1軒で6〜7人が暮らせるらしい

それぞれの家に家族が暮らしていて、
案内してくれたマサイのお兄さんによれば
その村の人たちは全員、ひとりの男性を中心にした親族関係にあるという。

一夫多妻という、日本で生活しているとなかなか身近に感じることのない家族のあり方も、
そこでは現在進行形の生活の一部だった。

そして、村には水道も電気もガスも通っていない。
水は、川まで長い時間をかけて汲みに行く。
洗濯も川で行う。

川で水を汲んでいるマサイの人

家の中は、壁に小さな窓がひとつあるだけで、それがほぼ唯一の光。

中に入った瞬間、昼間だというのに視界が暗転して、何も見えない。
本当に真っ暗なのだ。

するとお兄さんが言った。

「20秒くらいすれば、目が慣れて見えるようになるよ」

半信半疑で待ってみる。

10秒。

20秒。

……本当だ。

少しずつ、家の中が見えてきた。

人間の目ってすごい。

とはいえ、やっぱり暗い(笑)。

これがキッチン。
このかまどで火を起こしてご飯を作るんだそう

昼間の家の中は明るいもの。
夜になって暗くなっても、スイッチを押せば照明がつく。

それが当たり前だと思っている私にとって、
2020年代の今も、こうした暮らしが日常として営まれていることは衝撃だった。

どちらがより豊かかなんて、私には決められない。
電気や水道があることが、生活を便利で安全にしてくれることは間違いない。
でもそれだけで暮らしの豊かさを測れるわけではないし、
伝統的な暮らしを守っていることこそが本当の豊かさだ、と簡単に美談にするのも違う気がする。

私はただ、自分が世界について知っていると思っていた範囲が、
想像以上に狭かったことに気づいた。

『ライオンキング』を45回観ても、気づけなかったこと

「本物のサバンナを見てみたい」
そんな、ものすごく単純な好奇心から始まった、ケニアへの旅。

実際に行ってみたら、ライオンを探すのは想像以上に大変だった。

そして帰ってきたときには、いや、旅の途中から
それまで自分が持っていた「サバンナ」や「アフリカ」のイメージが、少しずつ崩れていった。

私にとっては等しく「アフリカの野生動物」だったシマウマとライオンは、
現地ではまったく違う存在だった。

野生動物が暮らす「自然」と、人間が暮らす「社会」も、
別々の世界ではなかった。

そして、メディアの中のイメージだと思っていたマサイ族の人たちの暮らしも、
2020年代の今、実際にそこにある日常だった。


実際にその場所へ行って、初めて気づけることがある。

遠くから見ている世界は、少しわかりやすすぎる。

ほんの一歩、その中に入ってみると、
境界は曖昧になり、簡単には説明できないことが増えていく。

でもたぶん、その複雑さこそが、世界を面白くしている。

さて。
次は、どこへ行こう。


Key Idea in English
After watching The Lion King 45 times, I wanted to see the African savanna with my own eyes. That curiosity took me to Kenya, where searching for wild lions led to unexpected discoveries about wildlife, human activity, and everyday Maasai life. What began as a simple desire to see the “real” savanna became a reminder that stepping into a place can reveal layers of reality we could never see from a distance.

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