装丁が好きな文庫本10選
【約3600字/9分で読めます】
装丁:表紙、ブックカバー、帯、見返し、外箱など、製本された本の外観や体裁を整えるデザイン
「表紙」と言った方がわかりやすいとは思うのですが、ここは敢えてプロっぽく「装丁」と言わせてもらいます。
本の中身の善し悪しによらず、装丁のいい本を一度所有してしまうと、なかなか手放せません。それこそが「本好き」の性でしょう。
そんな私が気に入っている装丁の文庫本を10冊選んでみました。
10.『タイムマシンのつくりかた』

著:ポール・デイヴィス(草思社/2011)
デザイン:Malpu Design(清水良洋)
イラスト:光清之紀
「タイムマシン」の作り方を書いた本で、内容が高度すぎて、半分も理解できませんでした。普通ならそういう本は手放してしまうのですが、この本は装丁が好きなので保管してあります。
シンプルな装丁ではありますが、なんと言ってもそこに描かれたタイムマシンの造詣がいいです。とても最新のマシンとは思えないレトロな造形で、スチームパンク的なビジュアルとなっています。
草思社文庫の本にしてはめずらしく、カバーの紙にマットPP(つや消し加工)がかかっており、手触りがいいのも気に入った理由の一つです。
9.『砂の女』

著:安部公房(新潮社/2003)
写真:安部公房
装幀:近藤一弥
昨年行った『安部公房展』で、新潮文庫から刊行されている安部公房作品の装丁に、安部公房が撮影した写真があしらわれていることを知りました。
『砂の女』の表紙は、カラスの姿がどことなく「女性」にも見えて、タイトルにピッタリです。淡い背景と英語も使ったタイポグラフィー(文字のデザイン)のバランスも絶妙で、なんだか読んでみたくなる装丁になっています。
8.『音楽機械論』

著:吉本隆明、坂本龍一(筑摩書房/2009)
デザイン:竹智淳
写真:立花善巨
本書に限らず、坂本龍一関連の本はカッコいい装丁のものが多いですが、中でも本書は一、ニを争うほどの素晴らしさですね。
教授にレクチャーを受けながら、シンセサイザーに触れる吉本隆明の写真とコンピューターのプログラム画面がレイヤー的に重ねられています。
英文は細かいドットを使ったアルファベット、和文は細めのゴシックを大きく使いモダンなイメージです。
よく見るとタイトルの「音楽機械論」の文字に、モニターの走査線のようなラインが入っていて、細かいところまで意匠がこらされています。澄んだ青と白を基調にした配色も洗練されていますね。
7.『夏への扉[新版]』

著:ロバート・A・ハインライン(早川書房/2020)
装画:まめふく
装幀:早川書房デザイン室
リアルなネコを描いた旧版の装丁も味があっていいですが、私が持っているのは2020年に発行された「新版」の方です。
古典の SF 作品は、どうしても重さが前面に出てしまいがちですが、本書の装丁はライトなビジュアルでまとめられており、誰もが手に取りやすいカジュアルさがありますね。
なんといっても、まめふくさんの描かれた「ネコ」と「人間」の柔らかくしなやかなフォルムが愛くるしく、見ているだけでワクワクしてきます。
カバーを開いてみると、絵柄は表紙だけでなく、左右の袖にまで広がっており、作品の世界のスケールの大きさを象徴しているようです。
右上の規格ギリギリに配置されたタイトルは、にじんだ明朝体が使われていて、ここも地味に味があっていいですね。
6.『ロミオとロミオは永遠に』

著:恩田陸(早川書房/2006)
写真:祥+WONDER WORKZ。
デザイン:岩郷重力+Y.S
往年のサブカルへのパロディーが満載な本作は、内容もかなりぶっ飛んでいるんですが、装丁もそれに負けないくらいぶっ飛んだビジュアルです。
都会の街並みをモノクロのハイコントラストな写真で見せ、そこにカラフルなタイトルとイラストを添えてアクセントを付けています。
タイトルの英文ロゴに使っているアルファベットの形が独特で、横に寝かせた「O」がコーヒー豆のようです。表紙の絵柄は折り返しの袖部分にまで広がっていて、その上部には、赤やオレンジで小さな文字の英文が入っています。地味なところですが、袖までカッコいい本なのです。
5.『レッドアローとスターハウス』

著:原武史(新潮社/2015)
装画:影山徹
デザイン:新潮社装幀室
「団地」と「西武鉄道」の関係について書かれた本書はかなり期待して読んだのですが、内容的にはそれほどハマりませんでした。
しかし、それでも本書を手放せないのは、本書があまり出回っていないのと、装丁が大好きなせいでもあります。デザインに少しでも造詣のある方ならば、この表紙を見て「ロシア構成主義」を思い出すことでしょう。
ビビットな色使い、文字やイラストの大胆な配置、全体を貫く斜めのデザイン、いずれもロシア構成主義へのオマージュです。
このようなデザインの装丁は珍しいですし、そもそも「団地」の原型が「旧・ソビエト(現・ロシア)」にあることからいっても、必然性のあるデザインなのです。おそらく、今後も読み返す機会はあまりないかもしれませんが、「装丁の素晴らしさ」だけで一生手放さない本です。
4.『解錠師』

著:スティーヴ・ハミルトン(早川書房/2012)
デザイン:ハヤカワ・デザイン
これも装丁に惹かれて読んだ本でした。淡い水彩画のようなグラフィックが特徴的で、その上に赤であしらわれた「錠前」と各種の「文字」が際立っていますね。背景は緑や黄色傾倒の配色でまとめ、アクセントの要素は赤系統の色が使われており、そのコントラストがあざやかです。
表紙は上部の約3分の2に、イラストや文字が集約されており(帯があったせいもあるかもしれないが)、こういう装丁を見るとスペースの使い方ひとつで、ずいぶんと印象が変わるものだと感じます。
3.『暗幕のゲルニカ』

著:原田マハ(新潮社/2018)
装画:パブロ・ピカソ
デザイン:新潮社装幀室
これも表紙に惹かれて読んだ本でした。なんと言っても、ピカソの『ゲルニカ』のインパクトが強いですね。しかも、その絵を全面に入れるのではなく、ポイントを絞って、小さめに配置したところがいいんですよね。おかげで『ゲルニカ』の圧が強すぎず、ほどよいアクセントになっています。
シンプルな装丁ですが、タイポグラフィーも秀逸です。タイトルと著者名に伝統的なゴシックを大胆に使い、最上部へ、それぞれの英語表記は、派手なデザイン書体を小さめに使って下部へ配置することで、バランスを整えています。これもまた「読みたくなる」装丁ですね。
2.『灯台へ』

著:ヴァージニア・ウルフ(新潮社/2024)
装画:山﨑杉夫
デザイン:新潮社装幀室
これも装丁に惹かれて手に取った本です。中身的には少し難しく、すごくお気に入りというわけではないですが、この装丁の素晴らしさだけで、手放したくない本です。
なんといっても、手描きのイラストの魅力ですよね。『灯台へ』の世界の中にそっと誘ってくれるような優しいイラストでありながら、どこかミステリアスな雰囲気もあります。
タイポグラフィーは余計なことを一切しない、これまたシンプルな設計でありながら、配置する場所は王道の「最上部」を避け、中央・左側にコンパクトにまとまっています。これがまた、帯を巻いたときにピッタリと収まる位置で、帯の銀色とも相まって、なんともうっとりするようなデザインなのです。
新潮文庫の装丁にしては珍しく、カバーに上質紙(表面をコーティングしていないサラッとした手触りの紙。多くの本がコート紙という表面がツルツルの紙を使っている)を使用しており、紙の質感が伝わってくる手触りもいいです。
1.『ブレイブ・ストーリー』

著:宮部みゆき(角川書店/2006)
イラスト:いとう瞳
デザイン:鈴木成一デザイン室
『ブレイブ・ストーリー』は今では新装版になっていて、そちらはアニメ的な絵柄ですが、個人的にはこちらの装丁が気に入っています。
ちょっと古めかしい装丁にも見えるかもしれませんが、この王道な感じがいいんですよね。
アクリルガッシュを使った手描きのイラストの風合いがたまらないですし、3巻セットという仕様を活かした、色調の変化もいいです(下巻の暗さよ)。
タイトルのタイポグラフィーは、「パソコンで打った文字」という雰囲気ではなく、人間の手で描かれたような温かさがあります。さらに、最上部に小さくあしらわれた著者名・タイトルの英文表記は、これまたオリジナルのフォントで、ファンタジーらしい「異世界の文字」です。
カバーの紙には「つや消し」のマットPP がかけられており、手触りが滑らかなのもいいですし、「モノ」として長持ちする作りですね(我が家のは、ずいぶんと擦り切れてしまっているが)。
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最後に「まとめ」を書こうと思っていたのですが、すでに3600字超え(笑)ですので、次の記事に「総まとめ」として、この間の「文庫特集」の総括をします。
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