「自分を見てくれてる人がいる」それが僕の原動力/斉藤諒
チームは大いに苦戦していた。
IKOMA FC 奈良のリーグ初陣、4/11和歌山アルテリーヴォ戦。後半72分、チームは0-3とリードされ、相手守備を崩せずにいた。
その時、最終ラインでボールを持ったのが、DF5斉藤諒だった。普段なら横パスを出す流れだ。そこで彼は、鋭く早い縦パスを中盤深くへ差し込んだ。これを受けたMF14田上廉太郎が、DFをかわしてシュート。惜しくも決まらなかったが、この試合、最もチームが輝いた瞬間に「おぉ!」と声が出た。
仕事も勉強もスポーツも、誰もが自分なりに頑張っている。でも、孤独を感じる時はある。IKOMA FC奈良の最終ラインで、確実なポジショニングで相手のチャンスを潰し、時々ビルドアップも見せるDF斉藤諒。彼も、その葛藤を抱えた一人だ。
怪我に泣き、カテゴリーが下がって募る不安。しかし、彼は横浜F・マリノスを破って感じた「自分の頑張りを見てくれている人」を拠り所にして、何度でも立ち上がる。自分の価値を証明するために。
プロの壁と大怪我。「自分の価値」への恐怖
兵庫県神戸市で育った斉藤は、小1で友人の誘いを受けてサッカーを始めた。昔から、武器は体の強さ。小学校ではチームでFW、中学校ではボランチ、高校でセンターバックと、徐々にポジションを下げてプレーを確立させていく。
名門・東福岡高校、九州産業大学を経て、J2のいわてグルージャ盛岡で夢のプロ生活をスタートさせた。しかし、待っていたのは過酷な現実だ。
大学時代に続き、プロ1年目で脛骨の跳躍型疲労骨折を経験。膝を切って、髄内釘と呼ばれるボルトを入れる手術が必要になり、半年以上ピッチから遠ざかる。結果、初年度は「出場ゼロ」。その後2シーズン所属して、JFLのラインメール青森に移籍した。
「カテゴリーが下がるたびに、言うなれば、サッカー選手としての価値がどんどんなくなっている、という捉え方もできる。だから、不安はありました」と漏らす斉藤。ただ、「自分にベクトルを向けてやり続ければ、絶対また這い上がれる」と信じていた。結果、スポットライトは当たった。
マリノス撃破の歓喜。ファンの声が「原動力」
2025年度 天皇杯2回戦、ラインメール青森はJ1の横浜F・マリノスと対戦。青森は3カテゴリー上の相手に、2-0でジャイアントキリングを達成。サッカー界の話題をさらった。
それは同時に、DF斉藤がプロとして初めて「自分は見られているんだ」と肌で感じた瞬間だった。試合後、青森サポーターからかけられた「今日もナイスディフェンスでした」との声。それは、自分の”頑張り”を証明する言葉だったのだ。
「絶対J1が勝つと思われている中で、サポーターが自分たちを信じてくれた。自分のプレーをしっかり見てくれている人がいる。それが僕のサッカーの原動力になっています」と熱を込めて語る。
その実感は彼に、「応援してくれる人のために戦う」覚悟を、植え付けたのである。
感謝と希望を胸に。生駒で輝きを放つ
昨季終了後に青森を契約満了。先の見えなかった今年1月、手を差し伸べたのがIKOMA FC 奈良だった。現在、斉藤は寮で食事提供など受けて、「サッカーに集中できるこの恵まれた環境は、当たり前じゃない」と感謝してピッチに立つ。
家族のように熱い播戸竜二社長。暖かいオーナー・スタッフの想いに応えるため、彼は理想として参考にするガンバ大阪所属DF中谷進之助選手のように、ゴール前で体を張る。
「まずは、試合に出続けるのが目標ですね。そのうえでディフェンスとしては、平均失点を1点以下に抑えたい。個人では最後まで諦めないプレーをして、活気あるクラブにしたいです」と語る斉藤の言葉に、闘志が宿る。
オフには生駒駅前の「絶品鳥料理さわや」でチキン南蛮を頬張り、先輩のFW都倉賢からは「言語化能力」を鍛えられる日々。不器用ながらも実直に、“IKOMA FC 奈良の斉藤諒”を証明する戦いは、ここから加速していく。
【⚽#5DF 斉藤 諒(さいとう りょう)】
文:守本和宏/IKOMA FC 奈良 編集長 写真:Shoto Tajima
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