オル #20「はじまりとおわり」
オルは森の道を歩いていました。
しばらく行くと、
森が終わりました。
目の前がひらけました。
そこは、
海を見渡せる高台でした。
風が吹いています。
遠くで波が光っています。
高台の端には、
小さな小屋が建っていました。
古い木の小屋です。
その前のベンチに、
ひとりのおじいさんが座っていました。
おじいさんは海を見ています。
オルは隣に座りました。
しばらく二人は黙っていました。
風が吹いていました。
海は静かでした。
やがて、
オルが言いました。
「川は海へ行くんだね。」
おじいさんはうなずきました。
「そうさ。」
そして、
少し笑いました。
「でも、そのあとどこへ行くか知ってるかい。」
オルは首を横に振りました。
おじいさんは空を指さしました。
「空さ。」
オルは驚きました。
「空に?」
「そうさ。」
おじいさんは言いました。
「川は海へ行く。
海へ行った水は、
今度は水蒸気という名前になる。」
オルは空を見上げました。
白い雲が流れています。
「そして雲になる。」
「空を旅する。」
「それから雨になって、
また地面へ帰ってくる。」
風が吹きました。
雲がゆっくり流れていきます。
「生まれ変わるんだ。」
オルはしばらく空を見ていました。
「生まれ変わる。。。」
おじいさんも空を見ていました。
しばらくして、
ぽつりと言いました。
「人もさ。」
オルはおじいさんを見ました。
「死んだら、
常世の国へ行くのさ。」
波の音が聞こえました。
オルは少し身を乗り出しました。
「ほんと?
おじいさんは行ったことがあるの?」
おじいさんは声を出して笑いました。
「わしは行ったことなんてない。」
オルは首をかしげました。
「じゃあ、どうして分かるの?」
おじいさんは、静かに
海を見ていました。
オルは黙りました。
おじいさんも黙りました。
風だけが吹いていました。
しばらくして、
おじいさんは言いました。
「本当かどうかは知らん。
でも、
そう思うと、
わしはずっと楽に生きられるんじゃ。」
海が光っていました。
空も光っていました。
風が吹きました。
雲が流れていました。
*
やがて、
オルは街へ出ました。
人がいます。
車が走っています。
信号が変わります。
オルは歩き続けました。
ふと、
ビルのショーウインドウが目に入りました。
ガラスに、
自分の姿が映っています。
オルは立ち止まりました。
白い髪。
静かな目。
見慣れた姿です。
でも、
その日は少し違って見えました。
オルはガラスの中の自分を見ました。
そして思いました。
僕は人間なのかな。
それとも、
ヒューマノイドなのかな。
ガラスの向こうには、
街が映っています。
空も映っています。
雲も流れています。
オルはしばらく、
その場に立っていました。
風が吹きました。
ガラスの向こうで、
雲がゆっくり流れていました。
オルはもう一度、
自分の姿を見ました。
それから、
静かに歩き出しました。

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