15年ぶりにセックスした52歳 シーズン2 第32話
マグダラのマリアの優子VS同級生 弁護士の恵美
「私、子供ができたのよ」
弁護士事務所に松葉づえをついた優子
ちゃんが訪ねてきて、開口一番に言った。
一瞬カレンダーを見た。エイプリルフールかと思った。彼女が弁護士事務所に来るという時点で、婚姻外の恋愛関係の裁判の流れをどう説明しようかと資料を秘書に用意させていたのに、内容がすべて吹っ飛んでしまった。
番組『アンビリーボー』に出演するかもしれない、今年で53歳になる同級生の腹部を見た。
「まさか、恵美ちゃん、桐谷との子供じゃないよ。私、9歳の息子さんがいるやもめとお見合いしたの。
彼のことは全然好きじゃないけど、ママになろうと思っているから、法的手続きとか、財産の事を知りたくて」
何かが、弾けた。ホットフラッシュで、汗がぼたぼたと流れ始めた。
「いい加減にして、目を覚まして」
思わず机をたたいた。
流石の優子ちゃんもびくっと肩が上がった。
どいつもこいつも、貧しい者も、富める者も不倫して、バレて、離婚して、裁判して、子供を取り合って。弁護士費用払えないとか、会社クビになったとか。バカの一つ覚えのように、皆口をそろえて言う。
愛してましたと。
弁護士から言わせてもらえば、これが一番厄介だ。愛を法律で裁く難しさ。今日こそ優子ちゃんの不倫を止めさせる。
弁護士目線で、この恋愛で優子ちゃんがどれだけ不利になるかを説明するつもりだ。察したかのように優子ちゃんは
「桐谷とは終わるわ」
と言って六法全書がある、本棚を眺めながらつぶやいた。
「本当は書面で書いてもらいたいくらいよ。皆別れたとか言いながら、何十年と周囲を欺いて不倫して、裁判になってるのよ。不倫しながら、お見合いして、子持ちの男の人もその連れ子も不運ね。優子ちゃんみたいな、バカな女に騙されて。桐谷だって、子供出来たんでしょう?皆に聞いたわ。
今度は産まれてくる彼の子供まで傷つけるつもり?」
「昔、高校の時の聖書の授業で、マグダラのマリアのこと教わったの覚えてる? 『悪いことしていない人間だけが彼女に石を投げよ』 とイエスは言ったわ。誰一人投げなかった。
恵美ちゃん私に石、投げることできるの?」
「投げられるわよ、これでも弁護士よ。今日の1時間、一万円頂くね。一万円で済んだと思ってね。
桐谷の妻が、優子ちゃんが小金持ちなの知ってたら、1000万円は取られるよ」
突如、優子ちゃんは言った。
「恵美ちゃん、子供欲しかった?」
痛いことろを突かれたような気がした。
弁護士の夫との間に子供はいない。二人ともキャリアを優先した。自分は浮気はしていないが、清廉潔白であるはずだった夫が2度ほど朝帰りをした。責めはしなかった。昔からそっちは淡泊だったし、プレ更年期で触れられるのもしんどかったので、相手をしてくれる女性がいてくれてよかったと思ったぐらいだ。
更に汗が額から流れてきた。優子ちゃんはどうやって更年期を 乗り切ってるのだろう? とふと思った。
そして今、なぜか優子ちゃんが夫の浮気相手に見えてきて、ますます憎たらしくなった。慌てて、いつもの冷静な弁護士の仮面をかぶった。
「あのさ、人生舐めてるよ。不倫して今度はママになるとか。お相手のやもめの方にも失礼だよ。
優子ちゃんのことだから、ご両親にも、お兄様にも伝えてないでしょ? 仮に結婚して、次の日、優子ちゃんが死んだら田村家の財産はその子に行くんだよ。そういうの考えた? その子が将来グレて刑務所に入ったら、田村家は破滅だよ。そういうリスクとか考えないの? 53歳だよ、子育てまず無理でしょ。子育て舐めてるよ。
ひょっとして桐谷の妻が妊娠したのが悔しくて張り合おうとしてる?」
最後の一撃が効いたようだ。
「はい、一万円」
ヴィトンの長財布から、綺麗な新札を出した。
「死んでも書面に桐谷と別れることは書かないから。私は何にも誓わない。
一つだけ言わせてもらうね。彼との恋は1000万以上の価値があるし、桐谷を愛したことに悔いはないから」
その表情は明るく、晴れ晴れとしている。
もう一言、言ってやりたいが、とっさに思いつかない。
『皆、優子ちゃんがカラオケ行く度、マイクを独占して、テレサテンの日陰の女三部作を泣きながら熱唱するの嫌がってるよ』 と言いかけた。
「皆、心配してるし、迷惑だよ」
「皆って誰?」
