「高市政権とは話さない」〜それでも「最後のパイプ」は北京へ向かう――北戴河で封じられた日本カード
◆正面玄関は閉め、脇の通路は残す
「高市政権が続く限り、日本との対話は再開しない」
今夏の北戴河で習近平国家主席がそう言明した、と北京の外交筋は伝える。
毎年8月、北京が猛暑に襲われる頃に長年、共産党幹部たちの避暑地となる北戴河では、ことしも8月初旬から習近平氏ら現職最高幹部らに加え、引退した長老組が集まり、非公式の意見交換の場が持たれた。毎年恒例のことである。
そこで温家宝元首相ら長老側から、米中関係がさらに悪化する事態に備え、日本の親中派を使って東京を引き寄せ、日米同盟に揺さぶりをかける案が出た。だが習近平はこれを退けた、ということだ。
その一方で、日本からは超党派の国会議員団が8月24日から訪中する。
中道改革連合の伊佐進一氏、自民党の橋本岳氏、立憲民主党の小西洋之氏、公明党の川村雄大氏らが、中国共産党中央対外連絡部の責任者と会う予定だという。訪問団の一人は「日中関係が悪すぎる。最後のパイプをなんとか維持しなければいけない」と語っている。
一見、矛盾しているように見える。国家間の対話は切るのに、なぜ日本の政治家との党ルートだけは残るのか。
だが、これは矛盾ではない。上記の北戴河会議の内容に沿った動きなのだ。
日本の首相官邸には成果を与える気は、中国側にはさらさらない。両国外務省同士の正常化も急がない。しかし、政党間の通路は切らず、日本国内の温度差を測り、使える人脈は手放さない。そこにしたたかさと共に、現最高指導者=習近平氏のスタンスとはやや異なる長老たちの意向が映し出されている。
◆北戴河の「発言」より、誰が漏らしたか
北戴河会議は、党大会や中央委員会総会のように議事録が出る場ではない。中国政府は開催そのものを正式に確認せず、現役指導部、長老、専門家らが面談を重ねる。
しかしながら、現状では以前にないほど習近平氏への権力集中が進み、かつてほど長老が政策を動かしたり修正させたりする余地は大きくないとみられている。
しかし、現実の動きとして長老ルートの意向が裏付けられた。そして、この情報が誰によって、なぜ、この時期に外へ漏らされたかが重要である。
習近平側が漏らしたのであれば、東京への警告であり、長老への口封じでもある。長老側が出したなら、習近平の硬直を示す内部批判の意味を帯びる。外交筋の観測にすぎないなら、日本側の反応を測る探りかもしれない。
◆この秋に中国で見るべきは、デモの有無だけではない
中国の対日圧力は、すでに街頭ではなく行政文書から始まっている。
今年一月、中国商務部は日本の軍事利用などに向けた全ての軍民両用品の輸出を禁じた。二月と六月には日本の企業・機関を輸出規制の対象に追加した。六月には、レアアース関連を含む禁制品の密輸容疑で日本人二人が拘束されたと日本政府が明らかにしている。
つまり、この秋、中日関係悪化の反映を「反日デモが起きるか、どうか」に絞ると見誤る。
通関、許認可、企業への立入検査、輸出審査、拘束、ネット上の扇動、学校や店舗への嫌がらせ…中国が先に使いやすいのは、群衆より役所である。
そして9月24日には習近平の訪米が予定されている。
日本を締め上げるのか、一定のところで止めるのか。その強弱は東京だけを見ても読めない。ワシントンで何を取りたいのかを見る必要がある。
ここから先では、長老側がなぜ「日本カード」を持ち出したのか、習近平がなぜそれを封じたのか、北京が公明党系を含む議員ルートに何を期待しているのか、そして9月以降に在留邦人と日本企業が警戒すべき兆候を、対中実務の目で検討する。
◆北戴河は「会議」よりも情報の出入口である
(以下、有料版)
私が共産党国会議員秘書と政権スタッフの双方で対中案件を見ていた頃、中国から届く情報で最初に確かめたのは、中身より経路であった。
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