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アートを見る目が、ちょっと変わる映画5本

 展覧会に足を運ぶには、残暑が厳しすぎる。そんな日は、お部屋で「アート映画」を楽しんでみませんか?

 映画を一本観終わって、部屋の明かりをつける。すると、見慣れた外の景色が、ほんの少し違って見える……かもしれません。
 今回は、そんな余韻をくれる映画を5本選びました。

 画家の人生を描いた映画もあれば、絵そのものの美しさを堪能する映画もあります。犬たちが走り回る映画もあれば、ひとりの老人の記憶をたどる物語も。
 「アート映画」というには、ちょっと変わったラインナップです。まずは予告だけでも、のぞいてみてください。

※各作品の評価は、amazonプライムビデオとFilmarksのスコアを参考に掲載しています。



こんな気分なら、この一本!

とにかく美しいものを観たい! → 『真珠の耳飾りの少女』
天才親子の濃い関係を覗いてみたい! → 『おーい、応為』
「?」が好き。頭をぐるぐるさせたい! → 『エッシャー 視覚の魔術師』
ちょっと変な世界へ逃げ込みたい! → 『犬ヶ島』
静かな映画を観て、自分のことを考えたい。 → 『野いちご』


1.『真珠の耳飾りの少女』

★★★★★ 4.7(Amazonプライムビデオより)

あらすじ

 17世紀のオランダ。画家フェルメールの家で召使いとして働くことになった少女グリート。豊かな感性を買われ、やがてフェルメールの絵のモデルを務めるようになる。
 謎めいた画家と少女。二人の距離が、言葉少なに縮まっていく。

今なら、本編もYouTubeにて公開中です。

見どころ

 まるでフェルメールの絵の中に、そのまま迷い込んだよう。
 光の差し込み方や、画面の隅に置かれた器ひとつに至るまで、息をのむほど美しい。音楽もセリフも控えめだからこそ、静けさがじわりと染み込んできます。
 『真珠の耳飾りの少女』という名画をもっと知りたくて観た映画でした。
 ところが、観終わるころには、
 「この美しい光は、どこから来ているんだろう?」
 と考えていました。

 キャンバスの枠の「外側」にある部屋。その部屋の空気や、光の源にまで思いを馳せてしまう。
 絵を見る。
 その絵が描かれた部屋の気配を想像する。
 そこに差し込む光まで、そっと感じてみる。
 一枚の絵の深みへと入っていくような感覚を教えてくれる名作です。

フェルメールが好きな方はもちろん、展覧会に行きたいけれど出かけられない方にもおすすめです。


2.『おーい、応為』

★★★★ 3.7(Amazonプライムビデオより)

あらすじ

 江戸時代。天才浮世絵師・葛飾北斎の娘、お栄。父のもとで絵を描き続け、やがて自らも「葛飾応為」として絵師の道を歩み出していく。
 親子であり、師弟でもある二人の濃密な関係を描いた物語。

見どころ

 『真珠の耳飾りの少女』と同じく、「画家と絵画」をめぐる作品です。
 ただ、こちらは江戸の埃っぽさと、湿った空気が画面から立ち上ってきます。
 北斎の生き様や、その臭いまでもが、こちらに漂ってくるようです。
 応為が求めたのは、命が宿ったような動きと、リアルな表現。
 「葛飾北斎」という大きすぎる背中を追いかけながら、衝突し、高め合う。親子でもあり、師弟でもある二人の関係が愛おしくてたまりません。

 絵をただ鑑賞するだけでなく、
 「この人は、どんな思いで筆を走らせたのだろう?」
 と描き手の熱量まで想像してみる。
 すると、一枚の絵が、まったく違う生命を持ち始めるような気がします。

絵の向こう側にいる「描いた人」を感じてみたい方に。


3.『エッシャー 視覚の魔術師』

★★★★ 3.6(Filmarksより)

あらすじ

 「だまし絵」や無限の連鎖を描いた版画で知られるオランダの画家、マウリッツ・コルネリス・エッシャー。
 彼が遺した言葉や作品を通じて、その独特で緻密な世界観の誕生に迫るドキュメンタリー。

見どころ

 劇映画というより、美術館で回顧展を巡っているような贅沢な映像体験。
 エッシャーといえば、幾何学的な「連鎖」のイメージが強いですが、そのルーツにあるアルハンブラ宮殿のタイル模様や、彼が愛した音楽との共通点が丁寧に紐解かれていきます。
 「私は芸術家ではない、数学者だ」という彼の言葉も印象的でした。
 彼はただ美しさを求めたのではなく、「世界の構造」や「驚異」を追いかけた人だったのだと気づかされます。

 作品を眺めているうちに、
「これは、いったいどうなっているんだ?」
 と、こちらの頭まで動き始める。

 絵を見るというより、「見ること」そのものの不思議さを楽しませてくれる一本です。
 観終わったあとは、ひとりで夜空を見上げて、世界の広がりを感じてみたくなります。

「だまし絵」の先にある、エッシャーの頭の中を覗いてみたい方に。


4.『犬ヶ島』

★★★★ 4.2(Amazonプライムビデオより)

あらすじ

 「ドッグ病」が蔓延し、すべての犬が「犬ヶ島」へ追放された近未来の日本。
 愛犬スポットを探すため、たった一人で島へ渡った少年アタリと、そこで出会った5匹の犬たちの冒険を描いたストップモーション・アニメーション。

見どころ

 画家も、美術館も出てきません。
 でも、スクリーンに映るすべてのコマが「アート」そのものです。

 どこか歪んでいてユニークな日本の描き方。絶妙な色使い。緻密に計算された構図。
 物語を追うだけでなく、「画面のどこを切り取っても、一枚の絵になっている」という、映画ならではの美しさに魅了されます。

 どこかティム・バートンのような独特の世界観がありつつ、もっとアートに近い。
 ……と思っていたら、ジャルジャルのコントみたいにも見えてくる。
 そして、犬たちがかわいい。
 ストーリーだけを追わず、背景や小道具、人物の動きまで眺めていると、映画を「観る」というより、一つの巨大な作品を覗き込んでいるような気分になります。

「アートって、もっと自由でいいよね」と思わせてくれる一本。


5.『野いちご』

★★★★ 4.4(Amazonプライムビデオより)

あらすじ

 長年の功績をたたえられ、名誉博士号を授与されることになったイーサク。
 式典へ向かう旅の途中、昔の別荘に立ち寄ったことをきっかけに、若き日の記憶や、かつて出会った人々が蘇ってくる。
 夢と現実、過去と現在が交差し、自らの人生を見つめ直していく物語。

見どころ

 気難しく、孤独を生きてきたおじいさん。
 そんなイーサクが過ごす一日の中で、記憶の断片や、かつて愛した人々との出会いが重なっていきます。
 バラバラに見えた出来事が、観ているうちにつながってくる。

 映画って、不思議です。
 絵画から始まって、画家を見て、視覚について考えて、映画そのものの画面を眺める。
 そして最後には、自分自身の記憶や人生まで見つめることになる。
 アートを見るということは、作品を通して、自分自身や、この世界そのものを見つめ直すことなのかもしれません。
 映画のラストシーンとともに、静かな感動が胸に残ります。

映画を観終わったあと、自分の人生について少しだけ考えてみたい方に。


おわりに

 今回の5本は、すべてAmazonプライム会員なら追加料金なしで公開されている作品から選びました。

 ※配信状況は変更される場合があります。『真珠の耳飾りの少女』はまもなく公開予定。YouTubeにもあります。

 「アート映画」と聞いて、ちょっと難しそうだなと思った方へ。

 大丈夫です。
 今日は「とにかく美しいものが観たい」なら『真珠の耳飾りの少女』。
 ちょっと変な世界に入り込みたいなら『犬ヶ島』。
 静かな映画が観たいなら『野いちご』。
 その日の気分で、一本選んでみてください。

 もちろん、予告だけでもいいです。
 映画を一本観終わって、部屋の明かりをつける。
 そのとき、いつもの見慣れた景色が、ほんの少し違って見えたなら、
 それが、アートを見る目が変わった瞬間なのかもしれません。

 まずは、今日の気分にいちばん近い一本を
 再生してみてください。


次回の予告

次回は、京都芸術センターで開催された「Co-Program Reframed: 飛光、飛光」を振り返ります。
(毎週水曜更新)

文:入江玄(#IRIE_ART_LOG)

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