化成肥料は天然ものではないという誤解。実は天然もの。

こういう話は常識だと思っていましたが、案外そうでもないようなので、ご存じの方には釈迦に説法とは思いますが、書いておきます。

肥料の三要素は、元素としては窒素N、リンP、カリウムKですが、
植物の根っこが吸収できる形の化合物が決まっていて、
それぞれ窒素はアンモニア(NH3)系または硝酸(HNO3)系の化合物、
リンはリン酸(H3PO4)、
カリウムは塩化カリウム(KCl)または硫酸カリウム(K2SO4)です。
これらは炭素を含んでいないという意味で無機物です。

園芸資材店に行くと、無機肥料と、有機肥料が置いてあります。

無機肥料は、無機物(炭素を含まない物質)から成り、化成肥料とも呼ばれます(厳密には違いますが一般目線ではほぼ同じ)。素材は要するに空気中の窒素や水の他は鉱石です。しかもその鉱石は、あとで詳しく書きますが、実は主として大昔の生物由来です(その他、硫黄は火山由来、カリウムは海水由来)。

有機肥料は、有機物(炭素を含む)から成り、素材は要するについ最近死んだ生物です。菌類や細菌類がまだ内部で生きていることもあります。

無機肥料は、純度が高く、成分も一定しています。また、一般に、植物の根によってすぐに吸収されるので、即効性があります。

有機肥料は、多少成分にばらつきがあります。また、一般に、植物の根にすぐに吸収されるのではなく、土の中の菌類や細菌類によって分解(食べられて排泄)されて次第に無機化し、水やりのたびに水に溶け、ゆっくりと効いていく遅効性です。

我々が窒素肥料と呼んでいるものは主に硫安(硫酸アンモニウム、(NH4)2SO4)です。
アンモニア(NH3)を硫酸化合物にするのは簡単ですが、空気中の窒素からそのアンモニアを作るのが難しく(三重結合している窒素分子を一度バラバラにする必要がある)、タンクの中で高温高圧にしてバラしてやるのが主流です。それをハーバー・ボッシュ法と言います。
これは優れた方法ですが、問題が一つあって、高温高圧にするには、主に石油をガンガン燃やしてやる必要があります。
今のように戦争、紛争で石油の供給が難しくなると、途端に生成が難しくなるという問題があります。
これは確かに化学の力で作り出した肥料なので、化学肥料とも呼ばれます。でも原料は、空気中の窒素、酸素、水(水素)で、それに火山に多い硫黄を加えただけです。原料は天然由来です。
なお、高温高圧にしなくても優れた触媒を使って高い効率でアンモニアを作る技術の開発が進んでいて、日本がその分野では外国をリードしています。今後に期待です。

自然界では、あと2つの窒素肥料のでき方があります。
一つは雷で、バリバリバリと空中放電した結果窒素酸化物(NOx)ができ、さらにすぐに雨水と反応して硝酸(HNO3)ができ、これが植物の根っこが吸収できる窒素肥料になっています。
硝酸を含む雨水はいわゆる酸性雨ですが、植物にとっては人類と無関係に大昔から利用している貴重な窒素肥料です。
いわば天然の無機肥料で、無機物だから悪いわけではないことが分かります。

(昔の人は田んぼに雷が落ちやすいようにわざわざ棒(依り代)を立てたそうです。雷が落ちるとこれで豊作になると喜んだそうです。経験的に知っていたのですね。神が鳴っているからカミナリで、稲の妻と見なされたのでイナズマとも呼びます。また、依り代にはカミナリの形を真似てカミナリ型の紙のフサフサを付けています。今でもそうですね。)

もう一つは主に豆の根っこに共生している根粒菌(細菌)由来で、空気中の窒素と水を使ってなんと常温常圧でアンモニア(NH3)を作る能力があります。また、そのアンモニアを根粒菌からもらって豆はたんぱく質を合成する能力があります。
なので、昔の人は、田植えの前に、マメ科で成長の速い植物であるレンゲの種を撒いて、レンゲが育ったらつぶして土にすき込むことによって肥料にしていました。ただ、レンゲは外来植物ですけども。

話を元に戻して、窒素以外の肥料としては、あとリンとカリウムがあります。
リンはリン鉱石(リン酸カルシウム、Ca3(PO4)2)という鉱物が原料です。リン鉱石は、一部は火山由来ですが、大部分はほぼ大昔の生物の骨(内骨格、外骨格の両方を含む)が由来です。主に白亜紀から古第三紀の貝、魚、モササウルス、歯クジラなどの骨が海底に降り積もって地層になり、その後陸地化したものです。
あと一部は魚を食べる海鳥のフン(グアノ)やコウモリのフン(バットグアノ)です。

カリウムはカリウム鉱石が原料で、これはさかのぼると海水です。海水に溶けている塩には、主に塩化ナトリウムと塩化カリウムがあって、それが陸地化して地層になったものが利用しやすいので使われています。

加えて、酸性化した土壌を中和するのに畑に撒く石灰(炭酸カルシウム、CaCO3)も、起源は大昔の海の生物で、主にサンゴ礁です。
サンゴ虫が海水から炭酸カルシウムを凝縮してくれたものです。その地層が陸地化したものを人間が山から削って使っています。

化成肥料とは言え、天然資源なので、量には限りがあります。
窒素肥料は主に空気中の窒素が原料なので、工場を建てればどこの国でも作れますし、無尽蔵にありそうですが、タンクの中を高温高圧にするためにたくさんの石油を燃やす必要があります。
石油の起源は海の単細胞藻類が死んで海底にたまった泥です。ペルシャ湾やカスピ海沿岸など主に白亜紀にテチス海だった地層から取れます。
一番古い石油は4億年前のオルドビス紀産で、それより古い石油はほとんど見つかっていません。一つにはあまり古い時代には生物自体が少なかったことと、もう一つは熟成(?)が進むと石油が天然ガスに変わってしまって気化しやすくなってしまうためだそうです。

リン鉱石は主にモロッコの白亜紀地層にあり、他にはカナダと中国とノルウェーに多少あります。上に書いたように、主に白亜紀から古第三紀の海の動物の骨が起源です。リン鉱石もあまり古い地層からは出ないようです。

石灰岩も同様で、一番古くて4億年前のオルドビス紀のサンゴ、多くは1億年前の白亜紀から古第三紀のサンゴ、つまり生物の巣が起源です。

塩化カリウム鉱石は主にカナダ、ロシア、中国、ベラルーシにあります。
これだけは直接的にも間接的にも、生物によって凝縮されたのではない鉱物です。

我々は、なんとなく自然とか天然とか有機栽培とかいう言葉から、体に良い成分が多い野菜のような気がしますが、
化成肥料を使った栽培であっても、その化成肥料の原料は実は天然由来で、特にリン鉱石や石灰岩は生物の化石なのです。

もともと植物の根っこは有機物を直接吸収することができません。微生物によって無機物に分解されてから吸収しています。
化成肥料は人工物だから危険とか、
有機肥料は天然だから安全とかのイメージは、全くの誤解です。
なお、有機物、つまりまだ炭素が多い状態の生物の死体は、微生物によって分解されると、地層の中に閉じ込められる以外は、二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)のような温室効果ガスに変わります。なので有機栽培だからと言って別に環境に優しいわけでもありません。

枯渇しそうな原料は、石油とリン鉱石です。いずれも約1億年前に死んだ生物です。量に限りがあるのは明らかです。
なので、人類はその奪い合いで戦争を起こしています。
人類って本当に愚かですが、21世紀になっても、他に良い方法を編み出せていません。

石油は日々の生活に不可欠なので分かりやすいです。
でも実は、リン鉱石も枯渇したり外国からの供給が止まるとあっという間に農産物の生産が激減し、人々が飢えてしまいます。
ここはぜひ知っておきましょう。

いわゆる有機肥料とか有機栽培というやり方は、要するに大昔ではなく最近死んだ生物を使っているのであって、根本において化成肥料とそれほど違うわけではありません。

それに、最近死んだ生物をどれだけかき集めれば、全世界の70億人とか80億人という人口を支えることができるのでしょうか?
直感的に考えて無理そうですよね。

原料の起源と供給と流通と消費に注目すると、世の中の見方が変わります。
そして、資源を使い果たしたら、その先に、我々はどうなるのでしょうか?

今は戦争・紛争で、エネルギー問題が分かりやすいので注目されていますが、
肥料、特にリン鉱石の枯渇問題にも注目しましょう。
人類が食べているもののうち、家畜の肉だって、さかのぼると家畜の餌の栄養が全てです。
その餌は主に植物で、餌用の植物も、日光と水と肥料と空気からできています。肥料には窒素、リン、カリウムがどうしても必要です。
その総量をまかなうには、「最近死んだ生物(いわゆる有機肥料)」だけでは全然足りません。

こうして空気と水と、
「太古に死んだ生物が蓄積され濃縮されたもの」である石油を燃やして大気中の窒素から作ったアンモニアと、
やはり「太古に死んだ生物が蓄積され濃縮されたもの」であるリン鉱石
(これらを合わせていわゆる無機肥料、化成肥料)を削り取って、
土に撒いて、これらで食べ物を作って、それを食べて世の中の人々が生きています。

驚くべきことに、人類の体のうち骨を作るカルシウムとリンは、
植物(穀物や野菜)から摂ったにせよ家畜の肉から摂ったにせよ(家畜の場合はその餌が主に植物)、
さかのぼっていくとその4割は、植物の肥料として撒かれた、白亜紀から古第三紀のリン鉱石が起源とのことです。
つまり我々の骨の4割は、約1億数千万年前から数百万年前までの貝や魚やモササウルスや歯クジラの骨を再利用してできているのです。

考えるとちょっとゾッとする話です。

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