人に疲れやすい私が、デパートでは女優になれた
私は、人に疲れやすい。
それなのに、いちばん得意だった仕事は接客だった。
たぶん、普段は面倒に感じている私の性質が、仕事ではそのまま役に立っていた。
デパートで働いていた頃、店長からよく言われた。
「女優になったつもりでやればいいよ」
私は、その言葉をけっこう真面目に受け取っていた。
もちろん、私が主役という意味ではない。
デパートでは、お客様が主役だ。
それでも、売り場に立っている私も見られている。
だから姿勢を伸ばす。
歩き方を雑にしない。
何もしていないときも、ぼんやり立たない。
ほかの方を接客しているとき、少し離れたところで私を待っているお客様が見えたら、
「気づいています。少しお待ちください」
というつもりで、笑顔で目を合わせた。
女優というには、ずいぶん地味な演技である。
それでも、人に見られていると思うと、姿勢も言葉遣いも少しよくなった。
私は、デパートで働いている自分を、けっこう気に入っていた。
商品を売るだけではなく、来られたお客様に気持ちよく過ごしてもらいたかった。
顔を覚えられないから、絵を描いた
私は、人の顔を覚えるのが得意ではない。
映画を見ていても、髪型や雰囲気が少し変わるだけで、同じ人だと分からなくなることがある。
だから、長く話したお客様のことはメモしていた。
話した内容。
買っていただいた商品。
顔の特徴や仕草。
文章だけでは思い出せないので、下手な漫画のような絵まで描いた。
次に来てくださったとき、前回の続きから話せるように。
「あなたがいるのが見えたから、寄ったのよ」
そう言ってくださる方もいた。
当時は、それを特別な努力だとは思っていなかった。
人を見ることも、前に話したことを覚えておくことも、仕事の一部だった。
でも今思えば、顔を覚えるのが苦手だったからこそ、私は必死で工夫していたのだと思う。
得意だからできたことばかりではない。
苦手なままでは困るから、工夫しているうちに、得意になっていったこともあった。
人に疲れるのに、接客は得意だった
私は、自分をHSPだと思っている。
人の顔色を見すぎる。
声の調子や、少しの表情の変化も気になる。
機嫌が悪そうな人が近くにいると、別に私のせいではなくても落ち着かない。
普段は、かなり面倒な性質である。
でも販売では、その面倒なところが役に立った。
声をかけてほしいのか。
一人で見たいのか。
急いでいるのか。
今日は商品より、誰かと話したいのか。
相手の様子を見ながら考えることが、そのまま仕事になった。
私は、人付き合いそのものが得意だったわけではない。
仕事として人を見て、自分も見られることが得意だったのだと思う。
だから休憩時間は、一人になりたかった。
仕事中は、ずっと人を見て、話して、気を配っている。
昼休みくらい、誰の顔色も見たくない。
休憩室には、壁に向かって座る一人席があった。
接客を仕事にしている人たちだから、休憩中もみんなで話したいのかというと、案外そうでもない。
その一人席は、いつも争奪戦だった。
私も、そこが空いていると、迷わず座った。
向いていた仕事を、私は辞めた
それほど自分に合っていた販売の仕事を、私は辞めた。
人間関係も悪くなかった。
給料や休みの条件もよかった。
それでも最後は、暇とマンネリに耐えられなくなった。
辞めたことへの後悔は、前の記事にも書いた。
今でも、もったいないことをしたと思っている。
ただ、販売そのものが嫌だったわけではない。
朝8時ごろに家を出て、帰るのは夜8時。
通勤時間は、電車で本を読めたので嫌いではなかった。
それでも、一日のほとんどを仕事に使い、長時間立っている生活は、やはり疲れた。
販売には向いていた。
でも、朝から夜までを一つの仕事に渡す働き方まで、今の私に向いているとは限らない。
私は、販売という仕事と、朝から夜まで働くことを、全部まとめて考えていた。
働き方がつらくなると、販売そのものまで向いていなかったような気がしていた。
でも、本当は分けてもいいのかもしれない。
得意なことを、少しだけ使う
販売を週に何日かする。
今気になっている介護も、まずは少し試してみる。
家ではnoteを書く。
と書くと、ずいぶん器用な人みたいである。
実際には、二つの仕事のシフトを考えるだけで嫌になるかもしれない。
介護に行った日は、疲れて何も書けないかもしれない。
販売を始めたら、
「やっぱり私は、これだけでいい」
と思うかもしれない。
まだ何も分からない。
ただ、一つの仕事に、
収入も。
やりがいも。
人とのつながりも。
変化も。
全部求めなくていい気はしている。
私にだって、得意なことはあった。
それを、前の職場と一緒に全部置いてこなくてもいい。
ただ、週に何日、何時間使うのがちょうどいいのかは、まだ分からない。
デパートで働いていた頃の私は、女優になったつもりで、朝から夜まで売り場に立っていた。
今の私は、もう少し短い出演時間でもいい。
まずは、朝から夜までを一つの仕事に渡さない働き方を、試してみたい。
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