55歳、介護未経験。「ぜひ」と言われ、入口の人まで褒めて帰った
「あなたも、とても感じがいいですよね」
帰り際、入口で個人情報の紙を受け取ってくれた女性に、私はそこまで言った。
その人は、感じよく対応してくれただけである。
でも、その日の私は、かなり気分が上がっていた。
先日、福祉の仕事のセミナーと就職フェアに参加した。
前の職場を辞めたことを後悔しながら、それでも、
今度は、暇な職場だけは選ばない。
そう決めて、次の仕事を探している。
介護の仕事に、強い憧れがあったわけではない。
55歳、未経験。
これからも長く働ける仕事を探していると、介護の求人がよく目に入る。
ただ、私の中の介護は、体を使って人のお世話をする仕事だった。
体力のない私に、できるのだろうか。
そんな気持ちで会場へ向かった。
私は、介護を勝手に決めつけていた
セミナーが始まって、最初に思った。
介護に、こんな人がいるんだ。
失礼ながら、本当にそう思った。
仕事内容だけではなく、そこで働く人の服装や雰囲気まで、私は勝手に決めつけていたらしい。
司会をされていたのは、長身で、私から見ればまあまあのイケメン。
今どきのジャケットにTシャツという格好で、はっきりした口調で進行されていた。
始まって早々、私の中の介護のイメージが少し崩れた。
セミナーでは、介護を題材にした短編動画も上映された。
そこで伝えられていたのは、
介護はカッコいい。
ということだった。
介護の現場では、デジタル化も進んでいるらしい。
職員同士がインカムで話した内容が、そのまま記録につながるような仕組みも紹介されていた。
少し前までWebの勉強をしていた私は、「介護×デジタル」という言葉にも反応した。
介護といえば、現場で直接お世話をする仕事だけだと思っていた。
でも、広報や動画制作など、介護の魅力を伝える仕事もあるらしい。
現場を何も知らないのに、もう広報のことまで考えている。
かなり気が早い。
セミナーの中では、人は誰からも必要とされていないと感じたときに、強く孤独を感じるという話もあった。
仕事を辞めて、一人で家にいる時間が増えた私には、その言葉が残った。
そして、もう一つ。
毎日、思ったとおりにいかない。
だから飽きない。
同じことを正確に繰り返す仕事が苦手な私には、妙に魅力的に聞こえた。
55歳の未経験者が歓迎された
午後からは、就職フェアに参加した。
学生や若い人が多く、私はどこのブースへ行けばいいのか分からず、しばらくウロウロしていた。
施設の違いも、仕事内容も、ほとんど分からない。
希望といっても、自宅から近いところ。
そのくらいだった。
55歳で、介護は未経験。
正直、相手にしてもらえるのだろうかと思っていた。
すると、スーツを着た感じのいい女性が声をかけてくれた。
あ、よかった。
話を聞くと、いくつもの施設を運営している法人で、自宅から通いやすい場所にも施設があった。
介護技術だけでなく、接遇も大切にしているという。
利用者さんへの案内や接し方には、ホテルの仕事に通じる部分もあるらしい。
私は、百貨店で販売の仕事をしてきたことや、もう少し人と深く関わる仕事がしてみたいことを話した。
すると、
「これまでの販売経験が生かせると思います」
と言ってもらった。
こちらは、55歳の未経験者でも大丈夫だろうかと思っていた。
ところが向こうは、思っていた以上に「ぜひ」という感じだった。
さらに、
「今からでもキャリアアップできますよ」
とまで言われた。
今からでも。
55歳の私には、その言葉がよく効いた。
若い頃の夢は、キャリアウーマンだった
私は若い頃、キャリアウーマンになりたかった。
今は、あまり使わない言葉かもしれない。
その私が55歳になって、
「今からでもキャリアアップできますよ」
と言われた。
介護の経験を積んで、資格を取って、そのうちWebの勉強まで何かに使えたりして。
まだ面接すら受けていないのに、私の頭の中だけは、かなり先へ進んでいた。
久しぶりに、自分の経験に興味を持ってもらえた。
その経験が、これからの仕事にも生かせると言ってもらえた。
私は、思っていた以上にうれしかったらしい。
「ぜひ」は、かなり効いた
帰り際、入口に立っていた女性に、個人情報を書いた紙を渡した。
その人も、とても感じがよく、話しやすかった。
私は、
「今日は本当に来てよかったです」
「介護のイメージが変わりました」
と、一気に話した。
そこまでは、まあいい。
さらに、
「あなたも、とても感じがいいですよね」
と、その人のことまで褒めた。
相手は、入口で紙を受け取ってくれただけである。
それなのに私は、「ぜひ」と言われただけで、もうかなりその気になっていた。
仕事は、まだ決まっていない。
いいなと思ったら応援しよう!
もし記事が役に立ったと感じたら、応援していただけると励みになります。