戻れない
何もないところからはじまった。
店も、私も。
2020年夏。須磨海浜公園駅南にあるレトロビル1階の小さな「物置」を借りた。何もない、5坪にも満たない空間だった。床に足場板を並べ、壁に珪藻土を塗り、棚を入れ、照明を作った。本屋ができた。
2021年5月1日にオープンした自由港書店は、2026年5月1日、無事に5周年を迎えることができました。5年間、本当に有難うございました。
この動画を見ると、初心を思い出します。と同時に「もう二度と、あの頃と同じ気持ちには戻れないな」とも思います。たとえこれから先、本屋を続けていくことができたとしても、この5年間と同じ5年間は、もう2度と経験できない。そう強く思います。それくらい、密度の濃い5年間でした。「海に向かう青い一本道の途中」。この場所でなければ。この建物のこの空間でなければ。決してこういう経験はできなかったと思います。奇跡のような時間を、本当に有難うございました。
決めていました
自分の気持ちを100パーセント純粋に表に出せなくなったら、自由港書店は閉めよう、と。「自分の気持ちに正直に生きる」、「自由に生きる」、そのための本屋を開いたのだ。その店を営む自分自身の気持ちと、自分がやっているお店が表現していることとの間に<ズレ>が生まれてきたなら。店は、もう、閉めるべきだ。<嘘>になるから。そう思ってきました。
店は生きもの。変化していくもの。店を営む店主も生身の人間だから、もちろん生きものです。変化していくものです。その変化を止めることはできない。止めようとすれば、それこそ<嘘>になる。
大切なものを守るために変わる
自由港書店は、5周年を迎え、6年目に入ります。ここから先の5年は、いままでとは違うかたちで、お店を営んでいけたらと思っています。それが、自分自身の「本心」だから。3つの変化を作っていきたいと思っています。
1.「パーソナル」から「パブリック」へ
一つ目の変化としては、お店を「パーソナル」なものから「パブリック」なものに変えていこう、というもの。オープンから5年間、自由港書店は、店主としての私自身の内面と、お店を愛し、お店にいらしてくださるひとりひとりのお客様の内面とが響きあうような、極めてパーソナル性の高いお店だったと思います。間違いなく、そこが、自由港書店の魅力だったんだろう、と思います。それでも。これからは、お店を、「私ひとりで」ではなく、「いろんなひとたちとともに」営んでいけたらと思っています。名実ともに「自由の港」にしていけたら、と思っています。具体的に、みっつの取り組みの準備が進んでいます。これは、また改めて、お知らせをしたいと思っています。
この変化の最初のお披露目として、5月29日(金曜日)16時~21時、神戸三宮の東遊園地で開催される「NIGHT PICNIC」に出店する際、いままでとは違う自由港書店のありようを表現していきたいと思っています。ぜひ、不用意に遊びにいらしてください。私も、不用意に、その場に向かいます。
「パーソナル」なものを「パブリック」に開いていくには、勇気や準備が必要なように思いますが、勇気がなくても。準備ができていなくても。不用意に進んでいったらいいんだろう、と、思えるようになりました。
「心に自由の風を」。自由港書店が、開業来掲げている、大切な大切なステートメントです。「消してしまった感受性のスイッチを再びオンにできるような、そんな本屋でありたい」。そうした思いで、5年間、店をやってきました。「現代社会の圧に抗う防波堤となって、ひとりひとりの良心を守っていけるような港でありたい」。その思いは変わらない。でも。だからこそ。これからは、もっと、積極的に社会に出ていきたい。現代社会の圧を減らしていくために、思い切って、パブリックに飛び出していきたい。そういう気持ちです。
2.「ライフワーク」から「事業」へ
二つ目の変化としては、「ライフワーク」から「事業」に変えていこう、というもの。これも非常に悩ましい判断でした。「ライフワーク」。すなわち、自分自身の「生きがい」として、そして「社会貢献」として、店をやっていく、ということ。お金を稼ぎ、生計を立てる手段として、ではなくて、ある種の公共的役割として、店をやっていく、ということ。今までは、そうした気持ちでした。もちろん今も、そうした気持ちでいます。これからも、そう。
例えば、昨年2025年から、「自由港」というウェブサイトの運営をはじめています。さまざまな分野の作家さんがたにお願いをし、「自由」をテーマとした創作を発表していただいています。無料で楽しむことのできるウェブサイトです。ものすごいスピードで変化していくインターネット&SNS空間、そしてAIをめぐる社会状況に抗うために、<ただずっとそこにある>=港のような場所を、インターネット上に構築したいのです。商業的な観点からすれば、決して「うまいやりかた」とはいえないでしょう。それでも。生涯続けていきたい。自由を守り、育てる場として、続けていきたい。「読み」「書く」という根源的な営みを、大切に守り育てていきたい。
これからも、そうした「ライフワーク」としての取り組みもしっかり続けていきたい。予告ですが、5月3日から、「新連載」もはじまります。
だからこそ。そう、だからこそ、「ライフワーク」としての取り組みも続けていきたいと思うからこそ、「事業」として、しっかりと、商業的にも持続可能なありかたで、店を営んでいけるようにしたい。そういう思いを持つようになったのです。
店主も人間ですから、生きていかなくてはなりません。たまに誤解されますが、別に、潤沢な蓄えや稼ぎを持っているわけではありません。稼がなくては生きていけないのです。
じゃあどうするのかって?お店のコンセプトを変えるのか?「売れる本」「売れる品物」を集めて「売れる宣伝」をして「売れるお店」にしていこうというのか?そうではないのです。お店として大切にすべきことは、これからも大切に守り続けていきたい。そのうえで、事業としても成立させたい。そういう気持ちです。
今年(2026年)、年初にオンラインショップを開きました。おかげさまで、全国からご注文をいただけるようになっています。まずはコツコツと、オンラインでのつながりを全国に広げていきたいと思っています。おかげさまで神戸市内ではそれなりに知られるお店になってきましたが、全国ではまだまだだと思います。日本中(いずれは世界中)に、自由港書店のことを好きになってくださるかたがいらっしゃると思っています。広告のちからも使って、もっともっと知ってもらえるように頑張りたいと思っています。
それから、いままでずっとアナログでのお会計にこだわってきましたが、今年中に、レジまわり・会計まわりをデジタル化しようと思っています。毎日毎週、膨大な経理事務に追われてしまっていて、店をよりよい空間にしていくための取り組みに十分な時間を割けなくなってしまっていました。ここは、変えていきたいと思っています。
「自分の人生を生きたい、と願うすべてのひとのための本屋である」。これも、自由港書店開業来掲げてきた大切なステートメントです。お金のために、自分を殺して、やりたくもない仕事に追われて、ストレスにさいなまれて・・・。そんな人生ではなくて。自分が心から信じられる仕事をして、感謝し、感謝され、喜びにみちた人生を送りたい。そう願う人達、特に若い人達にとっての、ひとつの希望でありたい。小さくても確かな希望でありたい。そういう思いがあります。年300万円、いや、年500万円、しっかりと、安定的・持続的に自分自身が報酬を得られるくらいの、そういう商店を、地域に根差して地道に商いを続けていけば、ちゃんと、営んでいくことができる。そうした希望を、しっかりと打ち建てたい。そのためにも、「ライフワーク」だけではだめなのだ、と思っています。
3.「悲しみ」から「幸せ」に
いままでもこのnoteに書いてきましたが、店主自身、いろいろなことがあって、東京を離れて神戸に来て、本屋を開くことにした経緯があります。5年間店を続けていくことは、そのまま、私自身の心身の回復のプロセスでもありました。5年間の経験を通じて、本当におかげさまで、私はいま、再び、地面に接地している(自分の足でちゃんと立てている)感覚を持てるようになり、自律神経失調症(突然の止まらない鼻水・くしゃみ、異常発汗、体温体感異常)や、対人恐怖・人間不信感、これらから誘発される鬱症状も収束し、安心して日々を生きることができるようになっています。
多くを望まず、ひとり、小さな店を営み続けていくことができれば、それでよいのだ、と、自分の人生をどこかで諦めていたところがありました。それでも。やはり、最後の最後まで、自分の人生を諦めたくない、と思うようになりました。幸せになることを諦めたくない、と思うのです。幸せである、というのは、愛する人がいて、愛する人を愛することができている、ということだと思っています。そのことを、諦めたくない、と思うのです。
自由港書店は私の人生そのものですが、あえて言えば、自由港書店だけが私の人生ではありません。大切な家族がいます。「自分自身の人生を何よりも大切にする」「自分自身の中から湧き出てくる愛を何よりも大切にする」ことを、忘れないでいたいと思います。自己犠牲で成り立っているものは、やはり<嘘>だと思うのです。
だから。これからは、愛で満たしていきたい。これからはもっと、ポジティブなエネルギーを循環させていきたい。そう思うのです。いままでの自由港書店は、その中心に、悲しみとか寂しさとかが常に空洞として存在していて、そこに音楽が鳴り響いて、多くのかたがそこに共感して、店にいらしてくださっていたのだと思います。これからの自由港書店は、その中心に、愛を置いていきたいと思っています。愛で空洞を満たし、愛を溢れさせ、愛を巡らせていきたいと思っています。スピリチュアルな話をしているわけではありません。現実的な話をしています。
いましかない瞬間しかない
お店は、常に変化していきます。どの一瞬を切り取っても、同じ店ではありえません。いつまで同じ形で続いていくかもわかりません。いつまで続いていくかもわかりません。だからぜひ、いま、この瞬間しか存在していない、この瞬間の自由港書店を、これからも、ぜひ、見に来ていただきたいな、と思います。
2021年5月1日から2026年4月30日まで。6800人を超えるお客様に本をお買い上げいただきました。ご来店くださったお客様の数は10000人を超えると思います。SNSでも、X、instagram、それぞれ、5000人近いかたとつながらせていただくことができています。このnote記事の一番上に、5年間振り返りの動画を貼りましたが、このたびYouTubeチャンネルも始めました。いままで試験的にSTAND.FMでラジオも続けていましたが、思いのほか多くのかたが楽しみにしてくださっていることを知り、これからは「声」も使って、音声配信や動画配信もしていきたいと思っています。こちらでもつながらせていただけたら嬉しいです。
おひとりおひとりとのつながりが、宝物です。これからも、物語は続いていきます。自由港書店が、いつ、どのようなかたちでその物語を閉じるのか。私にもわかりません。これからも、一緒に、自由港書店の物語を楽しんでいただけたらと思います。
それでも。最後にひとつ。自由港書店を閉じる時がやってきたとしても、この「つながり」は消えないんだ、ということだけは、信じられています。街を歩けば皆さんが「あー!本屋さんだー!」と言ってくれる。その「つながり」は、この先なにがあっても、変わらないんだ。たとえ、店を閉じることがあって、この地を離れるようなことがあったとしても。「つながり」は、変わらない。そう信じられています。なにもかもが流動的で、不確かなものばかりが溢れているように思える現代社会ですが、本は、本屋は、変わらない。確かなもので満ちている。5年間、小さな本屋を営んできて、私はいま改めて、そのことを、信じられています。
5年間、本当にありがとうございました。
あと何年、やれるかな?
あと何人のかたと、出会うことができるかな?
予想もできない未来へ、また今日から、一歩ずつ、歩いていきます。
