福祉国家が崩壊するとき

ジョナ作と申します。
私は、数年前に一人で訪問診療を行なう診療所を開設し、日々感じたことなどを書くためにnoteを始めました。
最近は、色々と興味を持った事や調べたことを記事にしています。
今回は福祉国家について書いていきます。
日本は高度経済成長後社会保障を拡大し、「福祉大国」となりました。
歳出に占める社会保障費の増加や国債の新規発行などを槍玉に挙げ、社会保障の縮小が必要だとする意見があります。
最近になり「財政均衡主義」は、どこからともなく沸いて出てきたプロパガンダだったことが明るみになっていますが、
我々医療従事者にとって国家の社会保障縮小は重大な問題です。
もう少し詳しく社会保障制度について見ていきたいと思います。



「日本経済研究センター」の齊藤先生によると、福祉国家には、いくつかの役割があるそうです。
経済には、市場原理に任せるよりも、国家が介入した方が効率的な分野があるそうです。
この様な分野は、「市場の失敗」が見られる分野というそうです。

「市場の失敗」が見られる分野には、①公共財の分野、②外部性が存在する分野、③費用逓減産業の分野、④情報の不完全性(情報の非対称性を含む)が存在する分野、⑤非合理的行動がとられる分野、⑥契約が不完備な分野、などがあります。

①公共財
制限なしに多くの人が消費でき、ある人の消費によって他の人の消費を減少させることのない、財やサービスのこと。国や自治体などの公的機関によって提供されるもので、「公衆衛生や一般道路、公園、消防、警察」など。地球環境は「国際公共財」とされる。
②「外部性」が存在する
そのサービスを利用する人が増えるほど、他の利用者や社会全体の利益が増加する現象のこと。SNSや電話など。
③費用逓減産業
大規模な設備投資やインフラ投資が必要で、生産量が増えれば1単位当たりの平均費用が減少する産業。鉄道、電気、ガスなど。
④「情報の不完全性(情報の非対称性を含む)」が存在する
取引を行なう当事者間で情報の量や質に格差がある事をさす。医療、法律、不動産、金融市場、中古車市場など。
⑤非合理的行動がとられる
利益最大化などの合理的な経済理論に反する意思決定行動が見られる事。
⑥契約が不完備
提供されるサービス・商品が契約通りでなく不足や不備がある事。
 
例えば医療分野では、市民の一人一人が十分な知識を有さず情報に対し、合理的な判断を行なう事が出来ないため市場原理が通じないのだそうです。
また年金制度も、医療同様に、個人では将来の物価上昇や寿命に対するリスクの情報をどれだけ有しているか、またリスクに対応出来る蓄財の度合いはどの程度か、判断が難しいのだそうです。

福祉国家の機能

福祉を提供する国家の役割としては、下記のようなものがあります。
・累進課税とすることによる、所得の再分配機能
・非効率的なサービス提供の是正機能
・過度な蓄財の是正による経済の活性化
・セーフティーネットがある事による、自己実現への挑戦の最大化
以上の福祉を通し、最終的には、「社会の統合」を目指しているのだそうです。

西洋の社会保障

社会保障は、産業革命期のイギリスで始まったそうです。元々ギルドなど小規模の共同体で行なわれていた相互扶助が機能しなくなり、大衆の窮乏と浮浪者が全国的な問題となった1601年に「救貧法」が制定されたのが社会保障の始まりなのだそうです。
基本的には貧困者を救済し、経済活動に参加する中間層を最大化して社会として成長することを目指しています。

スウェーデンでは義務教育で個人に始まり家族、友人、社会、地域、自治体がどのように個人と関わり、価値観で繋がり、社会保障が成り立っているのかという事を丹念に教えるそうです。
結果として80%,90%という高い投票率を有する社会の維持に寄与しているのだと言います。

ソ連の例

1991年にソビエト連邦が崩壊すると、社会保障システムを維持できなくなり、医療制度、高齢年金、軍事恩給が止まったそうです。
元々社会主義国家では医療は無料で提供されていましたが、ソ連崩壊により公的な医療制度がストップしました。
1991年から2000年までの間で、
まず急性期医療が必要な小児や壮年期男性が死亡し、次に人工透析などの慢性疾患で継続医療が必要な人が死亡し、やがて年金生活者達の生活がたちゆかなくなったそうです。
この10年でロシア国民は出生率が低下し、栄養指標は悪化し、アルコールの消費量が上昇して心臓病の増加や幼児の疾病が増えたそうです。

社会保障が途絶えた後、1991年から2000年までの10年で毎年170万人ほどだったロシア全体の死亡者数は300万人を超え、人口は減少しました。

https://www.hit-u.ac.jp/hq-mag/research_issues/315_20181201/
より引用

イギリスの例

1970年代後半のイギリスでは、経済成長が停滞し、高い税負担を国民に強いる、福祉国家への批判が高まりました。
1979年にサッチャー首相は「反・福祉政策」をとり、自助努力を重視し福祉を縮小する、「小さな政府」を目指しました。
1979年から1987年にかけサッチャー首相が行なった社会保障政策には、下記の様なものがありました。
・医療費の抑制
・社会保障給付の抑制
・教育費の抑制
・公務員定数の削減
・国営企業の民営化
・被保険者の健康保険料の増額
一方で、税制面では、下記の様な政策を推進しました。
・所得税減税
・法人税の減税
・相続税の減税
・付加価値税の増税
以上の様な政策でサッチャー政権時代のイギリスでは高い経済成長率を達成し、インフレの抑制などを達成したとされていますが、通貨高による不況、労働者賃金の低下、経済格差の拡大などを招き、最後は保守党から労働党への政権交代を招いたとのことです。

https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14140503.pdf
より引用


https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0
より引用

福祉国家が崩壊するとき

福祉国家は、貧困層を「中間層」に引き上げ、経済活動に参加する人数を最大化し経済成長を目指すための政策の様です。
これに生存権や経済活動の自由など、人権を主張したい左翼思想が相まって「全体主義」vs「人権尊重」みたいな議論が生まれているようです。
ケインズさんの経済理論では、不況下では国家が財政支出をした方がいいとしておりサッチャーさんが進めようとした反ケインズ政策では、庶民の生活は一層追い込まれたように思います。
やはり、緊縮財政で庶民の賃金が下がっていく社会よりは、インフレによりかき消されようとも、名目賃金が伸びていく経済政策の方が、未来が明るい気がします。

石破政権は、高額療養費制度の上限引き上げを予定しており、社会保障費の自己負担増額を打ち出していますが、社会保障費全体を抑えていくべきだとまでは言っていません。
社会保障を極端に縮小することはあまり得策ではないように思うので概ね現状の政策が維持されると思って良さそうです。

福祉国家が崩壊するのは、上記の様な福祉に関わる前提が崩れていく時だと思います。

具体的には国家権力の機能不全、庶民への情報の浸透による「情報不均衡」の是正、財政政策の転換、規制強化による医療へのアクセスの制限、医療行為における契約の見直しなどです。

 ソ連の例からは社会保障制度がなくなると、庶民の生活環境は悪化する事が分かるので、社会保障が崩壊するときは、生活の荒廃に注意していく必要があります。


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