顔がうるさい手話
私は少しだけ手話ができる。
職場に耳の不自由な後輩がいたので、少し覚えたのだ。
ある日、会見の手話通訳を見ていた旦那が、
「なんで手話通訳さんって、表情を変えながらする人と、そうでない人がいるの?」
ドキッとした。
なぜなら、私も表情を大げさに変える「顔がうるさいタイプ」だからだ。
もちろん、手話の種類などいろいろ理由はある。
簡単に言えば、表情も手話の一部で、感情やニュアンスを伝えるための大切な表現なのだ。
わかりやすく伝えようと頑張っているうちに、いつの間にか顔芸みたいになってしまう。
最近はスマートな手話をする人が増えて、若い人ではあまり顔芸タイプを見かけなくなった。
もう、手話も朧げにしか覚えていない。
手話は、自分がするより相手の手話を読むほうが、はるかに難しい。
初心者なら、手話そのものよりも、表情や口の動きを見ていたほうが意味が伝わるくらいだ。
だから、顔芸は意外と大事なのである。
手話は忘れてしまったけれど、学生時代に覚えた指文字だけは今でも使える。
……と言っても、覚えた理由は授業中の内緒話だ。
後ろの席の友達へ送る、どうでもいい伝言。
仲間内だけの秘密のサインもいくつかあったけれど、それはもう忘れてしまった。
試しに覚えてるか、「あ」から順番にやってみよう。
「せ」あたりで指がつりそうになってやめた。
老いというのは、記憶だけではない。
関節にも、ちゃんとやって来るのである。
