『立っているだけの仕事』(仮)
このあらすじで、創作大賞お仕事小説部門の応募作品を書きます。
全て僕のリアルです。
過去作の多くの日記を全て連結します。
あらすじ
工事規制の先頭で、ただ立って誘導棒を振っている警備員。
渋滞の中で苛立った運転手からは「○ね」と吐き捨てられ、空き缶を投げられることもある。
一方で、「ありがとう」と声をかけてくれる人もいる。幼い子どもにはヒーローのように見えることもある。
同じ場所に立ち、同じ仕事をしているだけなのに、人によってまるで違う存在になる。
そんな日常の中で、男はふと思う。
——どうして自分は、ここにいるのだろう。
その問いをきっかけに、過去を遡っていく。
銀行員だった頃、男は順調にキャリアを積み上げていた。
新人時代、トイレに行くことすら分からず笑われた経験から始まり、先輩に可愛がられ、人の中で生きる感覚を身につけていく。
やがて営業として結果を出し、社長に食い込み、契約を取り続ける。
応援団長として大勢の前に立ち、「世界は自分中心に回っている」と本気で思えるほど、すべてが上手くいっていた。
しかしその成功は、自分の力ではなく「銀行の看板」によるものだったと知るのに、時間はかからなかった。
大阪への転勤を境に、状況は一変する。
看板が通用しない環境の中で、男は判断を誤る。信用貸しとして実行した三千万円の融資は、翌日には回収不能となり、支店内で「悪い例」として晒されることになる。
さらに、母親の多額の借金が発覚する。
全額を肩代わりし、実家を手放す決断をするが、その代償は大きく、家庭も少しずつ崩れていく。
それでも男は、もう一度立て直す機会を得る。
福井の支店で融資係となり、企業の決算書を読み、現場を見て、数字と人間を結びつける仕事に出会う。
そこで初めて、「仕事が面白い」と感じる。
デイサービス事業への二億円の融資案件。
市場調査、計画書作成、何度も重ねた検証の末に完成した稟議書は、融資部から高く評価される。
「こんな稟議書を書ける行員が、こんなところにいたのか」
支店長が誇らしげにその言葉を伝えてきたとき、男はようやく、自分が社会の中で役に立っていると実感する。
家庭も安定し、子どもと過ごす時間も増え、体重が増えるほど満たされた日々。
人生で唯一、すべてが噛み合った時間だった。
だが、その頂点で、男は自ら道を外す。
企業内組合からのスカウト。
「君しかいない」という言葉を受け、男はその役割を引き受ける。
それが、崩壊の始まりだった。
経営不振、ボーナスゼロ、給与体系の変更。
現場の怒りを受け止める立場となり、全国の支店を回る中で、罵声と不満の矢面に立ち続ける。
「そのまま読め」
説明会で浴びせられたその言葉を境に、場は崩壊し、人は理屈ではなく空気で動く存在だと知る。
翻訳することで守ろうとした言葉は否定され、個人への攻撃に変わり、男の中で「人」というものへの信頼が音を立てて崩れていく。
組合を降りたあと、銀行に戻るが、四年間のブランクは大きく、周囲との差に追い詰められる。
休日も働き続け、焦りの中で限界を超え、ついには無断欠勤に至る。
気づけば、なぜか名古屋にいた。
赤信号の横断歩道を渡りきったあとで、それが赤だったことに気づく。
正常な判断は、もうできなくなっていた。
退職、自己破産。
母親の涙だけが、強く記憶に残る。
すべてを失った男は、住む場所さえ失い、カプセルホテルを拠点にした生活を始める。
パチンコと競馬。確率と期待値に基づいた生活。
理論上は勝てる。
正しい選択をし続ければ、収支はプラスになる。
半年間で積み上げた期待値は三百万円を超えていた。
だが現実は、わずかな利益しか残らないまま、資金が尽きる。
「なんでやねん」
その一言とともに、理屈では説明できない現実を受け入れる。
姉の家に転がり込んだあとの半年間の記憶は、ほとんどない。
ただ時間だけが過ぎていく空白。
やがて、ふと手に取った求人広告をきっかけに、コンビニでアルバイトを始める。
そこには、年齢も過去も関係なく受け入れてくれる若い仲間たちがいた。
一緒に笑い、飲みに行き、どうでもいい話をする。
その時間の中で、男は少しずつ「人」としての感覚を取り戻していく。
やがて店長となり、現場を任されるが、そこで拳銃強盗に遭遇する。
銃口を突きつけられ、腰を抜かしながらも抵抗せず、金を渡すことで命は助かる。
だが、その後に投げかけられた言葉が、男の心に深く残る。
「なんで戦わなかったの?」
命よりも“かっこよさ”を求める価値観。
そのズレに耐えきれず、男は再び職を離れる。
そして選んだのが、新聞配達だった。
四年間働けば三百万円が貯まるという、終わりの見える仕事。
未来に期待しなくてもいい。ただ目の前の一日をこなせばいい。
誰もいない早朝の街を走り、ポストに新聞を入れる。
顔も知らない誰かの一日を、静かに始める行為。
その単純な繰り返しが、男の内側を少しずつ整えていく。
ある雪の日、配達は十二時間に及ぶ過酷なものとなる。
何度も倒れそうになりながら、それでも配り続ける。
そのとき、玄関からかけられた一言。
「ありがとうねぇ」
その声に支えられ、男は最後まで配りきる。
その瞬間、気づく。
届けるという行為は、仕事ではなく、祈りに近いものだと。
四年間を終えたとき、男はすでに「回復していた」。
だから、再び社会に戻ることができた。
そして今、警備員として立っている。
危険と隣り合わせの現場で、逃げる判断も、耐える判断もできる。
罵声も感謝も、そのまま受け流せる。
何者かになろうとする必要はない。
ただ、ここに立っている。
――立っているだけの仕事。
そう見えるなら、それでいい。
22歳~34歳 元銀行員日記①~⑪
34歳 ギャンブル日記①~②
35歳
36歳~42歳 元コンビニ店長日記①~⑧
42歳~46歳
48歳~ 警備員日記①~④
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