配球モデリングとその可視化

山本由伸の投手としての特徴を言い表すのに、「全ての球種が一級品である」「どの球種でもカウントが取れ、かつ決め球にできる」といった表現が用いられることがある。試合を見ていると確かにそうであり、初球カーブでストライクを取ることもあれば決め球にして見逃し三振を奪うこともある。一方、ストレートの軌道からフォークを低めに落として空振り三振を奪うこともあれば、カウント3-2からであればフォークと見せかけて低めギリギリの96マイルで見逃し三振を奪うこともできる。このような配球をデータ化、可視化できるだろうか?と思ったのが今回の記事を書くきっかけであった。

昨年、山本の配球パターンについてShannonエントロピーの観点から解析し、Paul Skenesらと比較したことがあったのだが、これは球種の構成だけで並び方を考慮していないなど、不十分な点が多々あった。そこで、Claudeと協力して先行研究がないかを調査してみた結果、この論文を発見した。

この研究では2015-2019年のデータを元に、Graph Embedding法を導入して投球シーケンスを解析している。より具体的には、Sequence Graph Transformという特徴量抽出アルゴリズムを用いて、球種構成とその順序を保持したまま配球をクラスタリングするアプローチを取っている。筆者はこの分野の専門家ではないためモデリングの詳細については言及を避けるが、Claudeにお願いしてこの評価モデルを再現してもらい、2026年度のデータを入れて解析をしてみた。

この研究が実施された2019年当時と2026年の現在では、いくつかの環境の違いが存在する。最も顕著な違いとしては、スイーパー(ST)の登場が挙げられる。また、リーグ全体として直球(フォーシーム、FF)の割合が減少していると言われる。実際にクラスタリングをしてみたところ、先行研究では14個のクラスタが報告されているところ、2026年のデータではクラスタ数の増加が示唆された。しかしながら、速球系でカウントを整えて変化球で空振りを奪うという基本的な枠組みは変わっていないことが確認できた。

図1は2018-2019シーズンのClayton KershawとBlake Snellについて、どの球種を起点(セットアップ)および決め球(ノックアウト)にしているかを可視化したものである。円の大きさは球種の使用率、線の太さは打席内での前後関係の強さを表す。実線の矢印は順序に明確な方向性があるペア、灰色の破線は前後がほぼ互角で順番が定まらないペアを示す。元論文に記載の図とおおよそ一致しており、元のモデルを再現できていると思う。

図1. Clayton KershawとBlake Snellの配球パターン

同じ左投手であるKershaw、Snellはともに直球を起点とし、変化球を決め球にしている。異なるのは、Snellは対左と右で決め球を変えている(スライダーとチェンジアップ)のに対し、Kershawは左にも右にもスライダーを使っていることくらいだ。

図2. Paul SkenesとTarik Skubalの配球パターン

一方、昨年のサイ・ヤング賞受賞者であるPaul SkenesとTarik Skubalは少し異なる。速球が100マイルに達することもある二人の場合、変化球からのストレートも大いに有効である。Skenesは球速もさることながら6球種を使い分け、緩急と縦横の変化を自在に操る。実は球の速い技巧派投手である点は、ダルビッシュ有に近いかもしれない。それに比べるとSkubalはよりシンプルで、速球系、落ちる球、曲がり球をバランス良くミックスする、正統派のエースピッチャーである。

図3. Jacob Misiorowski、Cristopher Sánchezと山本由伸の配球パターン

本題に入ろう。筆者が現在のトップ3と考えているJacob Misiorowski、Cristopher Sánchezと山本由伸を比較する。Misiorowskiは常時100マイル超えの速球を持つ唯一無二の剛速球投手である。投球の6割以上を直球が占め、左打者には緩急、右打者には変化量で対応する。シンカーボーラーのSánchezは極めてシンプルで、スライダーとチェンジアップといういかにも打ちづらそうな球をコントロール良く投げ込んでいくタイプだろうと想像できる。

これまでに述べてきた投手に比べると、山本の配球は非常に複雑だ。左打者に対しては明らかにフォーク(FS)が決め球だ。一方、右打者に対しての対応は複雑怪奇極まりない。まず6球種が均等に入るのが驚きだ。ストレートからフォーク、フォークからストレートはどちらもあり得るし、ストレートの後に投げるカーブも確認できる。今回の分析はカウントを考慮しておらず、本当に投げたいところに投げられているかなどは更なる検証が必要であるが、山本はどんな場面でも自分の投げたい球を投げられる、という説をサポートする結果となった。

今回、自分で着想したアイデアをCalude Codeにコーディングしてもらい、検証、可視化までを任せることになったが、AIエージェントの進化には驚かされるばかりである。筆者はデータサイエンスの専門家ですらないので、思いついたことをすぐにAIが形にしてくれるというのはほとんど夢のような話だ。とはいえ専門家による詳細な検証は必要だと思うので、コードは以下に置いておく。

冒頭で述べた山本の考察はこちらから

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