Dear Brahms
ブラームス ピアノ室内楽曲全曲演奏会 Vol.2 が、2026年5月24日(日)にハクジュホールで行われた。
このシリーズは、ピアニストの三原未紗子さんが、ヨハネス・ブラームス 生誕200周年となる2033年に向け、2024年からスタートさせた全9回の公演である。ブラームスの誕生月である5月に開催され、「親愛なるブラームスさん、」と手紙を贈るような気持ちを込めて、『Dear Brahms』と名付けられたそうだ。
三原さんとブラームスとの関係は、単に「ブラームスを得意とするピアニスト」という言葉では収まらない。“キャリアの核”とも言えるほど深い結びつきがある。
ベルリンおよびザルツブルク留学時代の師である ジャック・ルヴィエ から、
「君の音はブラームスに似合う」
と声を掛けられたそう。
そしてその言葉を証明するかのように、2019年ヨハネス・ブラームス国際コンクール ピアノ部門で第1位を受賞。世界的にも権威あるコンクールでの優勝は、日本人としても大きな快挙だった。
今回演奏されたのは、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番、第2番、第3番とF.A.Eソナタからスケルツォを含めた全4曲。
そのパートナーを務めたのは、ヴァイオリニストの南紫音さん。実はお二人は桐朋学園大学の同級生。三原さんは学生時代から、南さんの音楽に対する真摯な姿勢や、艶やかな演奏に惹かれ、このシリーズを構想した当初から共演を依頼したそうです。
ブラームスのヴァイオリン・ソナタは、これまでも数多くの名演奏家によって演奏されてきた名作であり、私自身もCDジャケット撮影などを通して何度も耳にしてきた。どの演奏も素晴らしく、そのたびに演奏家の個性や音色の美しさへ意識が向いていたのだが、不思議なことに、「ブラームス本人」については、これまであまり深く考えてこなかった気がする。
改めてブラームスが生きた時代背景を見てみると、クラシック音楽はざっくりと、
バロック(バッハ)
古典派(モーツァルト)
ロマン派(ショパン)
近現代(ドビュッシー)
のように分類される。
ブラームスはロマン派の作曲家に位置付けられているが、同じロマン派でも、その世界観は幅広く、例えばフレデリック・ショパン や フランツ・リストのように、華やかさや感情表現を前面に押し出す作曲家もいれば、ブラームスのように、重厚で内省的な音楽を書く作曲家もいる。
感情を爆発させるのではなく、理性の内側へ静かに沈めていく、そんな印象を、ブラームスの音楽には感じる。
今回特に印象的だったのが、《ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 Op.78》。この作品には、ブラームス自身の歌曲《Regenlied(雨の歌)》の旋律が用いられていることから、「雨の歌」という愛称で親しまれている。
派手な技巧や劇的な展開が前面に出る作品ではない。しかし、静かに降る雨を見つめながら、幼い頃の記憶や、戻ることのできない時間を回想しているような感覚がある。どこか、“雨の日の匂い”のような余韻が残る音楽だった。
そして今回の演奏会を通して感じたのは、ブラームスという作曲家は、年齢や経験を重ねることで、少しずつ理解が深まっていく存在なのかもしれない、ということだった。子供の頃には苦く感じたコーヒーが、大人になると美味しく感じられるように、私自身もようやく、ブラームスの本当の魅力が少しずつ分かるようになってきた気がする。
ヨハネス・ブラームス国際コンクールで優勝するということは、単にテクニックを評価されるだけではない。
重厚な構築感
内声の充実
感情を抑えながら滲ませる深み
品格
そうした“ブラームス的な音楽性”そのものが認められた結果なのだと思う。
そして今回、三原未紗子さんと南紫音さんの演奏を通して、私はようやくブラームスの魅力の入り口に立てたような気がしている。
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