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氾濫

「目黒川が氾濫したから、行けなくなった。」
あくまでも、雨の、それも予想を超えた豪雨のせいで、行けなくなったのだと主張したいような声だった。
「僕は、行くつもりで準備をしていたんだけど」
と前置いた上で
「だから駅まで行けたところで、新幹線が動かないんだよ」
と本当に自分のせいではないんだと、重ねて言い訳しているようだった。
その口調からは
「君だって、知らないはずがないだろう」
と聞こえそうだ。
「泳いできてよ。学生時代に水泳部だったじゃない」
と、このタイミングで私が言ったら、いつも温厚な彼でもブチ切れるのだろうかと、ふと気になる。

あの夏から、もう8年が経つ。
毎年どこかで集中豪雨は起きているし、雨のせいで、飛行機や新幹線が止まることも、決して珍しい出来事ではなくなった。ダイヤの乱れ程度の豪雨では、Yahooニュースにすら載らないことだってあるほどだ。

でも、あの日、私の心は間違いなく氾濫した。
泣いても、叫んでも、今日という日は二度とないのだと、改めて思い知らされるようだった。
雨の中、丸一日の予定が飛び、渡すはずだったプレゼントを机の上に置き、ただボーッと眺めると、誰のせいでもないけれど、やっぱり少し彼のことを責めたくなるものなのだと知った日。特別な記念日ではないからこそ、驚かせたくて用意したプレゼントは、喜ぶ彼を見て私が喜びたかったのだろう。

「また来週、会えるよ。」
彼は、軽々しくそう言うけれど、この次もまた必ず会える保証なんて、誰も持っていない。ただ同時に、次の約束を作ることで、ずっとこのまま淡くキラキラしていられる気もして、目眩のような、遠い頭痛のような、あるいは生理前の貧血のような。この、ふわふわした気持ちは、やっぱり低気圧のせいなのだろうと思った。

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