創業者の教え、私の答え #30受け継がれた想い 「もう一人の創業者」
父が会社をつくってから、
ずっとその姿を見てきた人がいます。
私よりも長く、
今いる社員の誰よりも長く。
それは、
私の母です。
父が会社をつくった頃、
まだ会社には、
今のような名前も信用もありませんでした。
そんな会社で働いてくれたパートさんたち。
その多くは、
私たち姉弟の小学校の同級生のお母さんたちでした。
きっと、
会社を信用して来てくれたというより、
母を知っていたから、
一緒に働いてくれた人もいたのだと思います。
子どもの頃、
私もその作業場へ行ったことがあります。
母も、
周りのお母さんたちも、
汗を流しながら仕事をしていました。
決して楽な仕事ではなかったはずです。
それなのに、
私の記憶に残っているのは、
なぜか楽しそうに働いている姿です。
母は昔から、
人に好かれる人でした。
「あなたが頑張ってるから、
私たちも頑張るよ。」
そんなことを言われる人でした。
父は、
強い言葉で人を引っ張る人でした。
母は、
また違うやり方でした。
母が頑張っているから、
周りの人も自然と頑張る。
そんなふうに、
人が集まる人だったのだと思います。
そんな母は、
人を支えるだけでなく、
いざという時には強い人でもありました。
ある時、
会社を辞めた人から、
母のもとへメールが届きました。
「社長をネットでさらしてやる。」
母は、
すぐに私のところへ来ました。
そして言いました。
「何があっても、
毅然とした態度でいなさい。」
当時の私には、
何をされるのかも、
何を「さらす」と言っているのかも、
よく分かりませんでした。
それでも、
母の言葉を聞いて、
私の中で一つだけ決まったことがありました。
社長としての父を、
そして家族としての父を、
守ろう。
今、
母は車いすで生活しています。
昔のように、
作業場でみんなと一緒に汗を流すことはできません。
それでも、
今も会社で働いています。
そして、
人を育てています。
母はこれまで、
いくつもの病気と向き合ってきました。
それでも母は、
よく言います。
「私は運がいい。」
私自身も、
よく人から、
「本当に運のある人だね」
と言われます。
でも最近、
少し思うことがあります。
本当に運がいいのかどうかではなく、
「自分は運がいい」と思えること。
それもまた、
母から受け継いだものなのかもしれません。
この連載では、
父から受け継いだ言葉や想いについて、
書いてきました。
でも、
30回目になって、
改めて思います。
私が受け継いできたものは、
父からだけではなかったのかもしれません。
強い言葉で、
進む方向を示した父。
その隣で、
人と人をつなぎながら、
会社を支え続けた母。
父が創業者なら、
私にとって母もまた、
「もう一人の創業者」なのだと思います。
母から受け継いだものについても、
これから少しずつ考えていきたい。
「私は運がいい。」
そう笑う母を見ながら、
私は思います。
