三人と一匹で暮らせる場所を探した大学を卒業するまでの5年9ヶ月⑧
彼と付き合い始めて、しばらくした頃だった。
三人で食事をした帰り、道端にちょっとした人だかりができていた。
何だろうと思って覗いてみると、そこには、母猫を探すように一生懸命鳴いている、はちわれの子猫がいた。
息子は、その子猫をどうしても放っておけないと言った。
彼は最初、
飼わない方がいい。
拾わない方がいい。
と言った。
私の住んでいたアパートでは、動物を飼うことができなかった。
拾ったところで、連れて帰る場所がない。
それでも私は、子猫を前にして立ち尽くしている息子を見ていた。
息子が抱いた優しい気持ちを、現実的に無理だからという理由だけで、そこで捨てさせたくなかった。
拾いたい。
けれど、うちでは飼えない。
その場で何度も話し、結局、子猫はひとまず彼の家で見てもらうことになった。
彼は昔、家族の猫を23歳まで世話したことがあった。
拾うことには反対していたのに、家へ連れて帰ってからは、子猫の面倒を見てくれた。
子猫には、椛と名前をつけた。
椛を早く迎えに行きたいと思った。
ただ、彼の家と私の家は遠かった。
付き合い始めたからといって、息子の生活を恋愛に合わせて変えるつもりはなかった。
生活の中心は、今までも、これからも息子だった。
学校へ通いやすく、これまでの生活圏をなるべく変えず、動物も飼える場所。
そのうえで、彼とも一緒に暮らせる家を探すことにした。
最初から家を買うつもりだったわけではない。
賃貸も含めて、いくつもの物件を見て回った。
そんな中、息子の学校の近くに、築50年以上の中古マンションが出ていた。
間取りは2LDKとなっていたけれど、実際には2DKに近かった。
廊下もほとんどなく、とてもコンパクトな家だった。
新しくもなければ、広くもない。
それでも、動物を飼うことができた。
値段も安く、月々の支払いは、それまで住んでいたアパートの家賃と大きく変わらなかった。
彼には事情があり、住宅ローンを組むことが難しかったため、私の名義で購入することにした。
自分が家を買うことになるとは思っていなかった。
家を探し、手続きを進め、引っ越しの準備をしながらも、大学では少ないながら5単位ほど取った。
以前のようなペースではなかったけれど、完全に止まったわけではなかった。
家具も新品では揃えなかった。
リサイクルショップをいくつも回り、少しでも安いものを探した。
彼の家で使っていた家具や家電も持ってきた。
すぐに新しい生活を始められたわけではない。
少しずつ物を運び、足りないものを買い足し、どうにか住める形にしていった。
子猫を拾ってから、およそ5か月後。
私は息子と彼と椛と一緒に、その小さなマンションで暮らし始めた。
広くはなかった。
古くて、廊下もなく、家具もほとんど中古だった。
それでも、息子はこれまでと同じ学校へ通うことができた。
椛も家の中で暮らせた。
彼とも、離れた家を行き来しなくてよくなった。
三人と一匹で暮らせる場所を、どうにか作ることができた。
自分に、家を探して、ローンを組んで、引っ越しまで進めるような行動力があるとは思っていなかった。
けれど、息子の優しい気持ちを捨てたくなかった。
早く椛を迎えたかった。
何より、息子の生活を崩さずに、新しい生活を始めたかった。
振り返ると、それだけで動けたのだと思う。
大学を卒業するまでの5年9か月⑨につづきます。
