みんな買ってるから欲しくなる。イナゴ買いって何?『ポンロボ市場観測室 #01』
夕方。
まだ外は明るいけれど、今日はもうだいたい終わっている。
机の上には飲みかけのカフェオレ。PCには株価チャート。僕はスマホでSNSを眺めていた。
さっきから、同じ銘柄が何度も流れてくる。
「まだ初動」
「今日も強い」
「これ気づいてない人いるの?」
「ここから本番」
株価を見ると、実際に上がっている。
僕は証券アプリを開いた。
「ポンロボちゃん。」
ポンロボの画面は、いつもの (`・ω・´)。
「はい。」
「この株、買った方がいいかな。」
「何の会社ですか?」
「…………」
もう一度SNSを見る。
「株が上がってる会社。」
「それは会社説明ではありません。」
ですよね。
*
「みんな買ってる」が、買う理由になり始める
株の世界には、俗に「イナゴ買い」と呼ばれる行動があります。
急騰している。
SNSで話題になっている。
有名な人が買ったらしい。
ランキング上位に突然出てきた。
そうした“勢い”を見て、企業の中身や材料を十分に確認しないまま後追いで買う。
もちろん、短期売買そのものが悪いわけではありません。
急騰した株が、その後さらに上昇することもあります。
問題は、
「なぜ自分が買おうとしているのか、自分でも説明できなくなっている状態」
です。
僕の場合、会社が何をしているのかすらよく分かっていませんでした。
でも株価は上がっている。
SNSでは盛り上がっている。
すると、不思議なくらい欲しくなる。
*
買ってないのに「損した」気がする
たとえば昨日、1000円だった株があるとします。
今日は1200円になった。
僕は持っていません。
つまり、本当は一円も損していません。
ところが画面を見ていると、
「昨日買っていたら200円分上がってた」
と考え始めます。
その次に、
「昨日買わなかったせいで200円逃した」
になる。
さらに、
「今日買わなかったら、明日はもっと上がるかもしれない」
になっていく。
「ポンロボちゃん。」
「はい。」
「まだ一円も損してないのに、なんか損した気がする。」
「存在しなかった利益を失った気分になっています。」
「言い方が悲しい。」
こうした「取り残されたくない」という感覚は、投資の世界ではFOMO(Fear of Missing Out)と呼ばれることがあります。FINRAも投資家向け注意事項の中で、一見魅力的な投資機会に対するFOMOに流されず、立ち止まって確認するよう促しています。
考えてみると変な話です。
昨日まで存在すら知らなかった会社なのに、今日SNSで見かけただけで、
「買わなかったら後悔するかもしれない」
と思っている。
株を買いたいというより、
置いていかれたくない。
その感覚の方が近いのかもしれません。
*
SNSを見ると「全員持ってる」ように見える
もう一つ厄介なのが、SNSです。
タイムラインには、
「買いました」
「含み益○万円」
「昨日入って正解だった」
という投稿が次々に流れてきます。
すると、
「みんな持ってるじゃん」
という気分になる。
「僕だけ知らなかったのかな。」
ポンロボがこちらを見る。
正確には、画面の (`・ω・´) がこちらを向いている。
「SNSは市場参加者全体の一覧ではありません。」
「まあ、それはそう。」
SNSに投稿している人は、市場参加者の一部です。
買わなかった人。
知らなかった人。
様子を見ている人。
別の銘柄を調べている人。
そもそも今日、証券アプリを開いていない人。
そういう人たちは、僕のタイムラインにはほとんど出てきません。
一方で、強い言葉や派手な結果は拡散されやすい。
だから画面の中だけを見ると、
「世の中全員がこの株に気づいていて、自分だけ遅れている」
みたいな景色ができあがる。
でも実際には、僕が見ているのは市場そのものではありません。
市場について投稿している人たちの一部を、さらにSNSの仕組みを通して見ているだけです。
この距離は、忘れない方が良さそうです。
*
じゃあ、急騰株は買ってはいけないの?
ここで、ありがちな結論にすると、
「SNSで話題の株は危険だから買うな」
になります。
でも、それもちょっと違います。
SNSで話題になった会社が、本当に成長することもあります。
株価が急騰したあと、さらに上昇することもあります。
逆に、十分調べて買った会社が下落することもあります。
「じゃあ、この株は上がる?」
僕が聞く。
ポンロボは数秒黙った。
「分かりません。」
「そこは分からないんだ。」
「未来の株価は分かりません。」
「分析担当なのに。」
「分析と予言は別業務です。」
強い。
たぶん少し悔しそうだけど、画面は (`・ω・´) のままだった。
ポンロボにも分からないことはあります。
というより、市場には最初から分からないことが大量にあります。
だから大切なのは、
「上がる株を絶対に当てること」
ではなく、
自分が何を分かっていて、何を分かっていないのかを整理すること
なのだと思います。
*
買う前に、ポンロボから3問
僕がもう一度「購入」の画面を開こうとすると、ポンロボが言いました。
「三つだけ確認します。」
「多くない?」
「三つです。」
仕方ない。
1.この会社は何をしている会社?
商品でも、サービスでも、顧客でもいい。
最低限、
「この会社は何でお金を稼いでいるのか」
を説明できるか。
僕の場合、
「上がってる会社」
だったので、当然アウト。
2.SNSを見ていなくても欲しい?
これが結構きつい。
今日、この銘柄がタイムラインに一度も出てこなかったとして。
急騰ランキングにも載っていなかったとして。
それでも自分で調べて買いたいと思っただろうか。
「……たぶん存在を知らない。」
「確認できました。」
「そんな嬉しそうに言う?」
3.「上がっている」以外の理由を一つ説明できる?
業績。
新製品。
市場成長。
財務。
株主還元。
何でもいい。
少なくとも、
「株価が上がっているから、もっと上がりそう」
以外の理由があるか。
僕はスマホを置いた。
「ない。」
「では、今日は保留でいいと思います。」
「買わない、じゃなくて?」
「保留です。」
ポンロボは続けた。
「分からない状態で、今日中に決める必要はありません。」
*
「何もしない」は、何も考えていないとは違う
投資を始めると、
買う。
売る。
買い増す。
損切りする。
何か行動しないといけないような気分になることがあります。
でも、
「まだ分からないから今日は何もしない」
も、一つの判断です。
特にSNSを見て焦っているときは、数時間置くだけで景色が変わることがあります。
金融庁もSNSをきっかけとした投資勧誘について注意喚起を続けており、「必ず儲かる」といった断定的な誘い文句や、著名人・金融機関などを装う勧誘などへの警戒を呼びかけています。
今回は単なるSNS上の盛り上がりでした。
でも、次はもう少し厄介な話をします。
「まだ初動」
「絶対上がる」
「機関が集めてる」
「握力弱い人は置いていく」
こういう言葉は、なぜ妙に買いたくなるのか。
そして、その投稿をしている人は、どこにいるのか。
それは次回の「買い煽り」の話で。
*
「じゃあ今日は買わない。」
僕が証券アプリを閉じる。
ポンロボの画面は (`・ω・´)。
「良いと思います。」
「ちなみに、明日20%上がったら?」
「その可能性もあります。」
「めちゃくちゃ悔しいと思う。」
「はい。」
カフェオレを飲む。
冷めていた。
西日はもうほとんど残っていない。
五分後。
僕はまた証券アプリを開いた。
ポンロボの画面が、
(・_・;)
に変わった。
たぶん市場より先に、僕を観測した方がいい。

※本記事は株式市場や投資行動を学ぶための一般的な情報提供を目的としたもので、特定銘柄の購入・売却を推奨するものではありません。投資判断は、企業の開示情報などを確認したうえで、ご自身の資金状況やリスク許容度に応じて行ってください。
次回
ポンロボ市場観測室 #02
「『まだ初動』は誰が言った? 買い煽りが効く仕組み」
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