【短篇小説】未来缶
高級品に身を包んでいる俺は、大企業の社長だ。
多くの社員に頭を下げられ、社内を闊歩して歩いている。
だが、これが本当の俺なのだろうか――。
俺の秘書は、眼光の鋭いきつね目の男だ。俺に頭を下げはするものの、秘書というよりは、見張り役のように思えてならない。
そんなことがあるはずはないが、どうしても疑いが消えない。
それはたぶん、俺が見る夢のせいだろう。
目の前で、俺にそっくりの顔をした男が殺される。殺しているのは、俺の秘書だ。俺は恐怖で動くことが出来ず、ただ見ているだけ。そんな夢だ。それが毎晩のように繰り返される。
どうしてそんな夢を見るのか。
そこで俺は秘書に笑いながらそのことを話してみた。すると秘書は「疲れているのでしょう」と真顔で答えた。
そうだ、俺はきっと疲れているんだ。社長として、会社を守らなければならないのだから。疲れているのは当然のこと。だから、強迫観念が見せている夢なのだろう。
そんなある日、いつもは鍵のかかっている秘書のデスクが開いていた。中に入っていたのは、錆びた缶だけだった。
なんでこんなものにカギをかけているのかと、俺は興味が湧いた。大事なものを入れているなら、こんな古びた缶に入れるはずもない。そこで俺は缶を手に取り、その蓋を開けてみた。
その途端、缶から強風ともいえる風が流れ出てきた。あまりに突然なことに、俺は風をもろに受け、息が出来なくなった。手から缶を滑り落とし、呼吸を整えていると夢が蘇ってきた。
俺と同じ顔で、俺と同じ高級スーツを着た男。青ざめた顔で、唇をわななかせている。男の前には秘書が、冷たい目をして立っている。その手には、黒光りする銃口。助けてくれとすがる男に、秘書は無言で引き金を引いた。飛び散る鮮血が男を染めていく。
「こんなバカな……」
夢なのか、過去なのか。判断のつかない俺は、一体どういうことなのかと茫然としていた。すると室内に入ってきたものがいる。振り返ると、そこにいるのは秘書。その手には、夢で見た黒光りする拳銃が握られ、俺に向けられていた。
「あの缶は……」
秘書は笑いながら口を動かした。
それは信じられないような言葉だった。
どうやら俺は、未来を開けてしまったらしい……。
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