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【短篇小説】おさななじみ

作者:篠宮あおい


 俺には、幼馴染の少女がいた。
 同じ日に生まれ、隣同士ということで、家族ぐるみの付き合いだった。
 お互いに一人っ子ということもあり、俺たちは兄弟のように育った。
 幼稚園も一緒なら、小学校も一緒。俺たちは毎日真っ黒になりながら遊んだ。
 その関係は中学に入っても変わることはなかった。周りからは、付き合っているのかと誤解されたが、俺と彼女の間に、男女の関係なんて全くなかった。
 俺もそうだが、きっと彼女も異性として見ていなかったように思う。勉強を教え合い、親よりも一緒にいる時間が長かったのに、特別な感情があることに気が付かなかったのだ。
 そう、彼女への気持ちは、兄弟以上でも以下でもない。俺はそう思いこんでいた。
 だから、お互いに恋をした。恋をすると小さなことが気になる。彼女は男心が知りたいと、俺に恋愛相談をして来た。
 そんな時、胸に渦巻く訳の分からない感情に、俺は振り回されたものだ。だが、それも兄弟をとられるという嫉妬心なのだろうと思っていた。しかし、幼い恋が続くはずもなく、瞬く間に日は流れ、お互いに小さな恋を失った。泣く彼女の心をいやせるのは俺だけだった。
 こうして俺たちは、兄弟の枠を出ずに高校を卒業した。
 卒業と共に、彼女は遠方の大学へと進学した。俺はというと、親元を離れることが出来ず、近場の大学に入り、幾度も恋を経験しては破れて行った。
 社会に出てもそれは変わらず、いいかげん恋をすることに疲れていた頃、彼女が結婚したと聞いた。俺の中で腑に落ちない感情が爆発した。
 意味も分からず叫びたくなり、二度と手に入らない悲しみに暮れた。
 俺は初めて、彼女を愛していたことに気が付いた。
 いつでもそばにいて、俺たちの糸が切れることなどあるはずがない。そう思い込んできた。だが、離れて暮らせば出会う相手も違ってくる。離れたくないと思っても、自分の気持ちに気づかなければ、どうすることもできない。
 俺は、それ以来、恋することをやめた――。
 
 そんな俺の気持ちなど知る由もない両親は、俺に結婚するように迫ってきた。
 俺は全てを拒絶し、仕事に邁進していった。おかげでそれなりに出世はしたが、人生はそんなに甘くはなかった。
 母親が病気になり、あっけなくこの世を去ったのだ。すると父親は気力を失い、俺は仕事と介護に翻弄されることとなった。
 彼女の両親もまた、年齢を重ね、見るからにきつそうだ。時折、子供を連れて遊びにくる彼女に喜んでいたが、さすがに年寄りだけの暮しは限界だったのだろう。彼女の両親は「娘と暮します」と引っ越していった。
 これで完全に、彼女との糸は切れ、二度とつながることはなくなった。
 俺は、無人となった隣の家を見るたびに、心が痛むのを感じていた。
 もっと早くに、自分の気持ちに気が付いていたら。全てが変わっていたのかもしれない。
 後悔しても仕切れない人生に、俺は自嘲気味に笑うしかなかった。
 定年を迎えるころ、父がこの世を去った。
 天涯孤独となった俺は、心を無にして働き続けた。職場を追われても、すがるものが欲しくてさらに働いた。
 死ぬまで働き続けて、人生を終えるのもいいものだ。
 七十歳。たった一人の誕生日を迎え、俺は「めでたくもない」と呟きながら、縁側に座り込んでいた。
 その時、一人の女性が隣の門扉に手を掛けた。その顔に、俺は幼馴染の面影を見た。思わず声を掛けると、彼女はにっこりとほほ笑んだ。
 どうやら彼女も天涯孤独となり、隣に戻ってくるらしい。
 俺は笑顔を作り、生まれて初めてのナンパをした。
「一緒にお茶でもいかがですか?」
 彼女は嬉しそうに頷いてくれた。




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