米中「北京ディール」の裏で進む世界の地殻変動― 宇宙・AIシフトと20世紀の「幻」にこだわる日本
私の新著『煽動政治:包括政党としての自民党を破壊したサイレントマジョリティの正体』(三省堂)のアマゾンの予約ページが次第に整ってます(笑)。まず、単行本の予約が可能になりました。Kindleもそのうち予約可になると思われますので、電子図書で読みたい方は「ほしいものリスト」にいれてお待ちください(笑)。
2026年3月のホルムズ海峡封鎖を伴う「イラン戦争」は、まさに第二次トランプ政権がもたらした最大の、そして最悪の「戦果」といえるだろう。
これは、20世紀から続いてきた
「安価な化石燃料に依存した国際秩序」
の息の根を止める最終的な引き金となった。
5月の時点で洋上在庫は枯渇し、世界はもはや価格の問題ではなく「物理的な供給途絶」という不可逆的な臨界点に達している。
この混乱の中でUAE(アラブ首長国連邦)がOPEC離脱を示唆し、産油国が「海洋の自由」を諦めて陸路での供給網へと閉じこもる動きを見せている事実は、石油を基盤としたグローバルな同盟関係が完全に瓦解したことを意味している。
原油価格は一時1バレル130ドルを突破したが、それは単なる数字ではない。エネルギー供給の8割近くをこの海峡に依存する日本にとって、それは社会基盤の崩壊、存立の前提の崩壊を意味する
「二度目の敗戦」
にも等しい衝撃なのだろう。
しかし、世界はこの危機を単なる「悲劇」では終わらせないようだ。トランプ大統領の強硬姿勢は、皮肉にも投資家たちに
「石油こそが最大のリスク」
であることを決定的に知らしめた。
かつての環境保護の文脈ではなく、剥き出しの「国家安全保障」の観点から、世界資本はクリーンエネルギーへと雪崩を打って流入している。
そして、今や世界の資本はもはや地上の油田には向かっていない。
「地上の油田宇宙とAIへ」
完全にシフトした。
その象徴が、2026年6月に予定される
「スペースX」の1.7兆ドル(約260億円)という天文学的なIPO
である。かつてIPOの最高額がサウジ・アラムコだったことを考えれば、これは象徴的である。
宇宙空間の衛星コンステレーションが、21世紀の「新たな通信・防衛・資源インフラ」となったことの宣言だといえるだろう。
同時に、AIの世界もまた「地上の重力」から解き放たれ、冷徹な軍事・産業一体化の様相を呈している。
サム・アルトマンとイーロン・マスクがAIの覇権を巡り法廷で泥沼の闘争を繰り広げ、ペンタゴンがエヌビディアやマイクロソフトといった「軍工複合体」化したビッグテックと巨額契約を締結している現実がある。
これは、AIがもはや単なるツールではなく、国家の生存を左右する
「電子の石油」
という戦略物資になったことを物語っている。通信、防衛、資源探索のすべてが宇宙とAIの統合によって制御される時代、地上の境界線は意味を失いつつあるのだ。
その象徴が、ChatGPTを擁するOpenAIに対抗し、いまや世界中の投資家やテック大手の目を釘付けにしている超新星
「アンスロピック(Anthropic)」
の存在だ。アンスロピックは「AIの安全性と人道性」という高潔なルール(憲法)を自ら掲げることで、世界的な信頼(ブランド)を獲得した。
その結果、GoogleやAmazonといった巨人が数千億円、数兆円規模の巨額資本をこの一社に競って注ぎ込むという、凄まじいマネーの集中が起きている。
彼らが開発する
「Claude(クロード)」
のような高度なAIエージェントは、ホワイトカラーの業務を劇的に効率化し、人間の労働制約を消し去る「生産性革命」の主役となった。
しかし、この知能が進化すればするほど、それを24時間365日動かすための超巨大なデータセンターが必要になり、エネルギー(電力)を文字通り「爆食い」していくことになる。
地上の古びた油田から引き揚げられた莫大なオイルマネーは、今やSpaceXが拓く宇宙空間、そしてアンスロピックのようなAIの怪物たちへと完全にシフトした。世界はすでに、この「新しいインフラ」の覇権を巡るゲームに熱狂しているのだ。
さらにいえば、この地殻変動の中で「独り勝ち」を決めるのは、実は米国ではなく、皮肉にも再生可能エネルギーへの集中投資を続けてきた中国かもしれないのだ。
ホルムズ海峡の封鎖が欧米経済をスタグフレーションへと突き落とす一方で、石油依存度を下げ、石炭と再エネ、そしてロシアや中央アジアからの陸路供給網を固めた中国は、他国を圧倒するコスト優位性を手に入れた 。これは「チャイナ・ショック」となって世界市場を席巻しようとしている。
2025年、中国のクリーンエネルギー部門はGDPの11%を超え、投資成長の9割を占めるに至った。
2026年、ついに中国国内で太陽光発電が石炭火力を追い抜く中、安価なグリーン電力を背景にした中国の製造業は、他国が燃料高騰にあえぐ中で圧倒的なコスト競争力を維持している。
AIによる業務効率化も、この潤沢な電力とデータセンター投資によって劇的に加速し、人間の労働制約を越えた
「生産性革命」
を現実のものとしたのである。
そして、中国は石油依存を脱却しただけでなく、ハイテクの矛先を「食料安全保障」へと転換している。種子ビジネスの支配と農業AIの独占、さらにロシア、中央アジアへの陸路供給網の確保により、米国主導の海洋秩序が崩壊しても揺るがない力量の「自給自足の帝国」を完成させようとしている。
さらに、中国国内で太陽光発電が石炭火力を追い抜く中、安価なグリーン電力を背景にした中国の製造業は、他国が燃料高騰にあえぐ中で圧倒的なコスト競争力を維持している。
トランプが同盟国との「橋」を焼き払い、内政上の都合から米国内の風力発電すら阻止する「内向きの論理」に迷走に陥り、屈従に近い形で中国への譲歩を始める中、北京は自らの技術とエネルギーを「代替的な公共財」として世界に提示し、着実に覇権を塗り替えているのである。
一方、この危機の中で最も残酷な現実を突きつけられているのが、我が国の基幹産業である自動車産業だ。石油時代の終焉は、そのまま「内燃機関(エンジン)」という20世紀の栄光の終焉を意味する。皮肉にも中東の戦火は、世界を「環境保護」のためではなく「生存」のためにEV(電気自動車)へと一気に加速させた。
テスラや中国勢が進める「ロボタクシー」による移動のサービス化は、もはや車を
「所有する機械」から「自律走行するAIデバイス」へ
と変貌させている。 熟練のエンジン技術を誇りとしてきた日本メーカーが、ソフトウェアと半導体、そして安価なグリーン電力によって動くこの新しい移動体(モビリティ)の波に飲み込まれ、サプライチェーンが根底から瓦解しつつある現実は、戦後の成功体験がいかに脆いものであったかを物語っている。
日本では、政界の指導者たちは、いまだに
「石油やナフサは備蓄がある」
と強弁し、GWの薄商いを狙った小手先の為替介入に血道を上げている。だが、UAEがOPEC離脱を示唆し、中東の資源大国が「海を捨て、陸路で供給する」という生存戦略に舵を切る中、日本が縋り付いているのは、もはや世界が捨て去ろうとしている20世紀の「幻」に過ぎない。
そして、2026年5月15日に北京で行われた習近平・トランプ会談の結果は、日本の外交筋に凍り付くような衝撃を与えた。
トランプ大統領は、中東での「終わりのない戦争」を終結させ、大統領選に向けた国内経済の安定を優先するため、中国に対し決定的な譲歩を行ったのである。
特筆すべきは、トランプ大統領がこの会談に、エヌビディア、マイクロソフト、そしてスペースXといった米国のハイテク・エネルギー企業のトップ起業家たちを、あたかも「経済使節団」のように随行させたことだ。
現代の「産業の王」たちが大挙して随行した事実は、このサミットが単なる政治会談ではなく、巨大な「利権分割の場」であったことを物語っている。
両国間で議論されているのは、総額600億ドル(約9兆円)規模に及ぶ関税削減を目指す「新たな貿易メカニズム」の構築である。トランプは、国内のインフレ抑制とAI・EV産業の覇権維持のために中国の生産力を必要とし、習近平は米国資本と技術の「再流入」を求めた。
このビジネス・ディールの前では、日本が信奉してきた「自由民主主義の価値観」などは、もはや交渉のテーブルにすら載らない旧時代の遺物と化したのである。
さらに衝撃的だったのは、軍事・安全保障面での「等価交換」である。 習主席は台湾問題について、決して譲歩できない「レッドライン」であることを改めて強調した。しかし、それと引き換えに示されたのは、世界経済の首を絞めているホルムズ海峡の封鎖解除と、航行の安全確保に対する「米中の一致した行動」であった。
中国がイランや中東諸国への影響力を行使してエネルギーの動脈を再開させる代わりに、米国はアジアにおける中国の「核心的利益」を事実上黙認し、挑発的な介入を控える――。
この「中東の平和とアジアの現状維持」という冷徹なバーター取引こそが、トランプ流外交の到達点であった。日本が「日米同盟」の絆を疑わずにいた傍らで、米中は「台湾の緊張」を「原油の安定」と引き換えに処理するという、極めて実利的な地政学の塗り替えを完了させたのである。
要するに、米国が中国の要求であるアジアにおけるパワーバランスの現状変更を「取引」の材料として差し出し、日本が心酔してきた「自由で開かれたインド太平洋」という理想が、「ディール(取引)」によって一夜にして露と消えたということだ。
要するに、世界がSpaceXのIPOに沸き、ガソリン車を捨てて自動運転車(ロボタクシー)が都市の血液を書き換えている。AIエージェントが生産性を支配し、かつての唯一の同盟国である米国が中国と「実利の握手」を交わす時代において、日本の政治家、官僚、財界人は消費の節約や抜本的な構造転換から目を逸らし続ける次元にいる。
それは、もはや世界が捨て去ろうとしている20世紀の「幻」に過ぎない。
生き馬の目を抜く国際政治経済において、日本は「世界の中心で輝く」どころか、新しい秩序の航跡から取り残された、小さな孤島になりかねないのではないだろうか。
