「わたなれ」に学ぶ、ガールズラブコメ幸福論
こんにちは。今回は昨年の夏からハマっている、ある作品について語ります。
タイトルは『わたしが恋人になれるわけないじゃんムリムリ!(※ムリじゃなかった⁉︎)』。
略して『わたなれ』。原作はみかみてれんのライトノベル。
2020年に発売を開始し2025年には小説&コミカライズの累計発行部数が100万部を突破。2026年5月時点で、シリーズ累計発行部数は140万部を突破しています👏
アニメは2025年より放送開始。アニメ放送分の12話(1クール)の続編として、13話〜17話(原作4巻終了までのエピソード)の5話が追加され、異例の劇場公開となりました。
そんな大人気作になるとは露知らず、Amazon prime videoでなにげなく観始めた所、見事にドストライクで気がつけば原作小説8巻+SS集及び短編集、漫画の最新9巻まで読破。出演声優のアニメ公式ラジオ全編と小柳香穂ちゃんの催眠ASMRを聴き、原作者(みかみてれん先生)とイラスト担当者(竹嶋えく先生)による非公式(⁇)同人誌もvol.2まで購入、光の速さで見事にハマりました。(一度沼ると沈没するスピードがものすごく早いオタク)
【あらすじ】
「二度とぼっちなんかに戻らない! 勝ち取るんだ、最高の高校生活を! 」
ぼっちな中学時代を捨て、高校デビューしたわたし・甘織れな子。
でも、根が陰キャだから憧れの陽キャ生活に馴染めず、窒息寸前!
そんなとき、我が校のスーパースター・王塚真唯とひょんなことからお互いの悩みを共有してヒミツの友達に。
真唯がいれば毎日がんばれそう──と思ったはずが!
「君に、恋をしてしまったんだ」
「待って! 友達どこいった⁉︎」
恋人なんて不安定な関係、ムリ! わたしは最高の友達を作って高校生活を楽しみたいの!
でも真唯も恋心を諦めきれないようで──。
「恋人と親友のどちらが私たちにふさわしいか、勝負で決めよう」
こうして、ふたりの在り方を懸けたノンストップ・ラブコメディが幕を開けたのだった!
湿度お高め、明度暗めな百合作品が比較的多い中(暗いのも大好きです)で燦然と輝く、新鮮な驚きと爽快感。アニメでも小説でも漫画でも、"甘織れな子"が噺家のごとく喋り倒しまくる疾走感。
ノンストップ・青春ガールズラブコメディ!?こういうポップで明るくて面白い百合、待っていました‼︎という印象です。
私は百合厨(女性同士の恋愛や親密な関係(百合)を熱狂的に好むファン)というよりも、人と人との関係性をめぐる営みに興味があります。人道に悖らない限りは、どんなジャンルもおいしく頂きます。
主に推している百合作品(※()内は履修済み)
•blue/(漫画):魚喃キリコ〈1996年連載〉
監督(映画):安藤尋〈2003年公開〉
•キャロル/(小説):パトリシア・ハイスミス
監督(映画):トッド・ヘインズ〈2015年公開〉
•やがて君になる/仲谷鳰〈2015年連載〉(漫画とアニメと外伝小説)
•上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花/塀(漫画とアニメ)※現在連載中
•きみが死ぬまで恋をしたい/あおのなち(漫画とアニメ)※現在連載中
わたなれのアニメと原作ライトノベルに関しては、それぞれ各話、各巻ごとに分けて熱くしつこく語りたい所ですが、ひとまずわたなれ〈第二部〉前・後編の後編である原作9巻の発売前に整理したい情報や感情がいくつかあるので以降、最新刊までのネタバレにご注意下さい。
わたなれにおける恋と友情
主要キャラクターの中では、れな子と真唯が特に好きです。なぜなら、この2人を基点として周囲や彼女たちの人生が大きく変化していったから。
陽キャへの憧れから一歩を踏み出したれな子。
恋という"エポック・メイキング"を得た真唯。
この2人の邂逅から瀬名紫陽花、琴紗月、小柳香穂を巻き込んだラブコメ旋風が巻き起こります。恋も友情も行動なしには発生しないので、嵐を呼ぶ、ノンストップ・ガールズラブコメディの出発点は、れな子と真唯なのです。人は人を他者よりも特別に感じて恋が始まり、きっかけや偶然が重なって泉のように友情が湧くのです。
また、女性同士の関係において「好きという気持ち」の恋と友情の境界線は曖昧なことが多いのですが、れな子は一貫して「恋をされる立場」であり、能動的に「恋をする立場」になることはほとんどありません。れな子は中学時代には不登校気味で友達がいなかったので、心許せる友達を作りたかったんですよね。原作1巻の紫陽花への口説き未遂?も本人は友情を精一杯伝えたつもり。(れな子穏健擁護派)
そもそもれな子は女性を恋愛対象として見ていないにも関わらず、真唯に告白されてしまいます。
その出来事に端を発する、各々の感情や思惑、立場の違いや関係性を巧みな構成とコメディタッチかつ、ハイテンションに描かれているのがわたなれの世界観であり、作品の最も面白いところです。
※れな子、風呂はわりと積極的にあらゆる女性と入っているな・・・。風呂はノルマなので。
部活動に所属しない高校生活
わたなれのメイン5人(クインテット)はそれぞれの理由で青春王道コースともいえる、部活動に所属していません。その理由も各キャラクターの人生や背景が反映されていて見事だと思いました。
甘織れな子は帰ってゲームをしたいから。
王塚真唯はモデル業が非常に多忙のため。
瀬名紫陽花は弟達の世話と家事があるため。
琴紗月はアルバイトと読書と勉強をするため。
小柳香穂はコスプレを趣味としているから。
学生時代の大半を部活動に注ぐ事になった場合、所属する部活によっては登場人物が無限に増え、放課後デートをする時間も貴重になるなど、ラブコメを深める機会が希薄になってしまいます。原作5巻までは顧問ポジションの妹、甘織遥奈はバトミントンに打ち込んでいますね。その青春も最高‼︎
脱線しますが、高校の吹奏楽部を舞台にした超大傑作『響け!ユーフォニアム』の主人公、黄前久美子の成長と『わたなれ』における甘織れな子の成長に著しい差異があるかというと、比べられるものではありません。それぞれの舞台で彼女たちは美しく咲き誇っています。がんばる主人公は素晴らしい‼︎
甘織れな子が懸けたもの
甘織れな子は、中学時代の不登校だった自分(マイナス地点)を変えようと、自ら奮起し部屋の扉を開け妹である遥奈の協力を得て、幸せをつかむため(ゼロ地点)に戻り再スタートをします。
そして、憧れの陽キャグループに入り、
クラスメイトの王塚真唯と瀬名紫陽花の二人に告白され、三人同士で付き合う。
という選択肢を選び取るのです。(ここまでが原作4巻〈第一部〉&アニメ17話)
れな子の決断は、真唯と紫陽花、誰も不幸にしない意思決定でした。もちろん当事者同士で合意したルールに則り、話し合い、関係を真摯に築いていくという点では、あくまでも真唯・紫陽花・れな子に限定される特殊な関係性です。客観的には二股。厳密に言うならポリアモリー(複数愛)。ここまでを描き切ったアニメ制作陣には最大の感謝を。
れな子は漠然とよい人間になろうとしているわけではなく、「最高の高校生活(れな子にとっての幸福)」をつかむ為、自分自身の持てる限界をぜんぶ懸けて、1ミリでも更新できるようにがんばる。という泥臭い方向性です。わたなれを素晴らしいと思った理由の一つもここです。(あと500ヶ所はありますが笑)原点はれな子自身の切実な想いですね。れな子、がんばれよって応援したくなるし、心から応援しているよ。
最近、個人的に納得した"いい女の定義"のひとつが「複雑性から逃げない」ことです。自分の中にある矛盾した感情、他者への不理解、理不尽な出来事など、それらの不安を無理に単純化して分かろうとするのではなく、複雑なものを複雑なままに受け止めること。身近な他者が複雑性に陥れば、そこに寄り添い、向き合う勇気と覚悟があること。頭がいいとか、周囲に美しさを評価されているからなどではなく、在り方として。
作品のファンからよく言われる『れな子が悪い』ところも多少(多分に?)ありますが、品行方正、清廉潔白ないい女ってほとんど見かけない気がしませんか?
え?該当する女性がいるって?
紫陽花さんは天使なので特別枠です。
琴紗月、恋の呪いを解く鍵は
原作9巻の発売前に、あともうひとつだけ。
恋なんて、くだらない。
恋なんて、ただ奪うだけ。
恋なんて、死ねばいい。
みかみてれん, 竹嶋えく著
恋なんて、死ねばいい。
原作8巻でこの強い言葉を言い放った琴紗月は呪いのように恋に執着し「恋を知る」ことに囚われています。紗月さんは面白くて理知的で強くて優しいので、個人的にめちゃくちゃ好きなのですが、8巻を読んで彼女の呪いは根深いなとも思いました。彼女はその家庭環境から恋を忌避しており、いわゆる実感を伴った恋をしたことはない筈です。辞書にある「恋」の項目をいくら紐解いても、自ら体験しない事には血肉にはならないように。
紗月さんは幼少期より共に暮らす大好きな母親が恋と別れを繰り返す度に傷ついて、私も迂闊に人を好きになってしまう(あるいは好きになられてしまう)のではないかと自身のことを解釈し、人間関係に幾重にも予防線を張っています。その予防線の内側からは恋の輪郭を正確に測ることはできません。
恋とは、相手が離れていたり、あるいは自分に振り向いてくれなかったりして、満たされない気持ちが発露になるといいます。そして、恋が満たされた先はどうなるかというと、別の名で呼ばれます。相手を心から大切にしようとする感情、「愛」です。
鍵となるのは十中八九、れな子です。
「……わかった。紗月さん」
月を見上げ、誓う。
「わたしは、紗月さんを止める」
みかみてれん, 竹嶋えく著
琴紗月の抱える、複雑怪奇な恋の呪いを祓ってくれ、甘織れな子。

みかみてれん, 竹嶋えく著
ここまで拙い文章をお読みくださり、ありがとうございました🌹✨

