認知的複雑性とは何か?―多様性時代に求められる「思考の幅」
「あの人はフラットに人を見ている」「柔軟なものの見方をすることができる」――職場でこんな言葉を聞いたことはないでしょうか。
この「視野の広さ」や「柔軟な思考」を心理学的に説明する概念が、認知的複雑性(Cognitive Complexity) です。
認知的複雑性は、「頭の良さ」とは異なります。物事や人をどれだけ多次元的・多角的に捉えられるかという、思考のスタイルに関する概念です。
認知的複雑性とは
認知的複雑性とは、人や物事を評価・理解する際に用いる認知的な次元の数と精緻さのことです。
1950年代、心理学者のジョージ・ケリー(George Kelly)が提唱した「個人的構成概念理論(Personal Construct Theory)」を基盤として、ビエリ(Bieri, 1955)らによって体系化されました。
簡単に言えば、
認知的複雑性が低い人:「好きか嫌いか」「良いか悪いか」「正しいか正しくないか」など、二項対立で物事を判断しがち
認知的複雑性が高い人:「背景には何があるのか」「別の視点から見るとどうか?」「どんな事情があるのか?」と多面的に考えられる
という違いです。
認知的複雑性の高い人・低い人の特徴
認知的複雑性が高い人の特徴
矛盾する情報を同時に保持できる(白黒つけずに「グレー」を許容できる)
相手の立場や感情を複数の角度から想像できる
ステレオタイプや先入観に頼りにくい(例えば、「女性」「男性」の中にも多様性があることを認識できる)
複雑な状況でも冷静に判断できる
他者の行動を「性格のせい」だけでなく「状況のせい」とも考えられる
文脈に応じて判断を柔軟に変えられる
共感能力が高く、他者の立場を想像しやすい
認知的複雑性が低い人の特徴
物事を単純化・二分化して捉えやすい(「男性は~」「女性は~」など)
一度形成した印象を変えにくい(確証バイアスが強まりやすい)
「自分と違う人」への理解が難しくなりやすい
不確実な状況でストレスを感じやすい
例えば、知り合いがハラスメント行為をしたことがわかった際、認知的複雑性が高い場合、その人に対する評価が大きく変わりにくい傾向があります。「確かにハラスメントしたことは許されることではないが、その人には別の側面もある」と、多面的に理解しやすいからです。
一方、認知的複雑性が低いと、「善人・悪人」という二項対立で考えやすくなるため、「ハラスメントをした=その人のすべてが悪い」という認識になりやすい傾向があります。
以前説明した、認知の歪みの一種である「過度の一般化」「感情的決めつけ」も、認知的複雑性が低いほど起こりやすいとされています。また、そのような状態のときは、自分自身の思考パターンに気づきにくく、客観的に振り返ることが難しくなることもあります。
認知的複雑性が低い状態では、人や物事をフラットに見ることが難しくなり、自分固有の見方に引っ張られやすくなるという特徴があるためです。
「過度の一般化」「感情的決めつけ」は↓のnoteで解説しました。
なぜ職場で重要なのか
偏見・差別との関係
認知的複雑性が低いと、人を属性(性別・年齢・国籍など)だけで判断しやすくなります。これが無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス) の温床となります。
逆に認知的複雑性が高いと、「この人はこういう面もあるけれど、あういう面もある」と多面的に人を見ることができるため、ステレオタイプに基づく差別的な判断が起きにくくなります。
多様性(DE&I)推進との接点
近年、企業での多様性・公平性・包摂性(Diversity, Equity & Inclusion)の推進が求められています。しかし研修や制度を整えるだけでは不十分で、一人ひとりの認知の仕方そのものを変えることが根本的な解決策になりえます。
認知的複雑性の向上は、まさにそのアプローチのひとつです。
リーダーシップや意思決定への影響
管理職やリーダーは特に、認知的複雑性が求められます。複雑なチーム状況を把握し、異なる背景を持つメンバーのニーズを理解し、公平な意思決定を行うためには、多次元的な思考が不可欠だからです。
認知的複雑性は高められるのか
結論から言えば、高めることができます。
認知的複雑性はある程度の個人差(気質や経験)に依存しますが、トレーニングや経験によって向上することが研究で示されています。
認知的複雑性を高めるアプローチ
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