六月大歌舞伎(歌舞伎座/夜の部)観劇レポ

2026年6月 / 歌舞伎座 夜の部

全体の印象
幕が開いた瞬間から、六月の歌舞伎座はいつもとは違う熱気に包まれていた。夜の部のトップを飾る「俄獅子」の華やかな幕開きから、通し狂言「盟三五大切」の凄惨な幕切れまで、緊張と弛緩が絶え間なく繰り返される、密度の高い夜だった。

一、華舞於河賑(はながまうおがわのにぎわい)俄獅子 ── 配役
役 俳優
鳶頭 中村 歌六
播磨屋

芸者 中村 萬壽
播磨屋

鳶頭 中村 又五郎
播磨屋

鳶頭 中村 錦之助
播磨屋

鳶頭 中村 獅童
萬屋

芸者 中村 時蔵
萬屋

鳶 中村 歌昇
播磨屋

鳶 中村 萬太郎
播磨屋

鳶 中村 種之助
播磨屋

芸者 中村 米吉
播磨屋

鳶 中村 隼人
播磨屋

手古舞 中村 梅枝
萬屋

手古舞 中村 種太郎
播磨屋

手古舞 中村 秀乃介
播磨屋

手古舞 中村 陽喜
萬屋

手古舞 中村 夏幹
萬屋

芸者 尾上 辰之助
音羽屋

鳶頭 尾上 松緑
音羽屋

鳶頭 中村 梅玉
高砂屋
一、俄獅子

吉原の賑わいを模した長唄舞踊。鳶頭と芸者が手獅子を手に、粋でいなせな江戸情緒を見せる。豪華な顔ぶれが舞台を埋め、幕開きとしての役割を十二分に果たしていた。夜の部の本題である「盟三五大切」への橋渡しとして、客席をほどよく温める一幕だった。

二、盟三五大切(通し狂言・Aプロ)── 配役
役 俳優
薩摩源五兵衛 中村 勘九郎
中村屋

笹野屋三五郎 尾上 松也
音羽屋

芸者小万 中村 七之助
中村屋

六七八右衛門 中村 歌昇
播磨屋

お先の伊之助 坂東 巳之助
大和屋

芸者菊野 坂東 新悟
大和屋

ごろつき五平 中村 種之助
播磨屋
勘九郎の薩摩源五兵衛

四世鶴屋南北が「東海道四谷怪談」の続編として書いた本作は、「忠臣蔵」と「五大力」の世界を綯い交ぜにした生世話物の傑作だ。浪人・薩摩源五兵衛が芸者・小万に入れ込み、百両を騙し取られ、やがて凄惨な復讐へと向かう。この源五兵衛を中村勘九郎(中村屋)が演じるAプロを見た。

勘九郎の源五兵衛が圧倒的だったのは、その感情の移ろいを見せる精度の高さだ。序幕での、小万に溺れながらもどこかに武士の矜持を残している源五兵衛。騙されたと知った瞬間の怒りと自己嫌悪の入り混じった表情。そして復讐へと決意が固まっていく過程の、静かな、しかし止めようのない変容。これらすべてが、台詞と所作の間の、ほんのわずかな揺らぎのなかに表れていた。

四谷鬼横町の場──感情が暴力に変わる瞬間

この夜最大の見せ場は、四谷鬼横町の場の殺戮シーンだった。源五兵衛が三五郎の仲間たちを次々と斬り伏せていく「五人切」の凄惨さは、歌舞伎の様式美によって美しくすら見える。しかし勘九郎の演じる源五兵衛には、美しさだけでなく、制御を失った人間の哀れさがあった。怒りが頂点を超え、ただの機械的な暴力へと変わる瞬間の空虚さ。立ち回りの技術の高さはもちろん、その目の奥に宿る光の消え方が、忘れられない。

南北の書く悪は、悪のために悪になるのではなく、善であろうとした者が追い詰められて悪に堕ちる。勘九郎はそのグラデーションを、通し狂言の長い時間をかけて丁寧に積み上げていた。

総評

「盟三五大切」を通しで観られる機会はそう多くない。勘九郎の源五兵衛は、その機会にふさわしい、記憶に残る舞台だった。次にこの演目が通しで掛かるとき、今夜の源五兵衛が比較の基準になるだろうと思う。

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